高温度下の労働や運動によって体温調節や循環器系の機能が損なわれたり、水分や塩分などの代謝のバランスを失ったりしておこる障害をいい、熱中症ともよばれる。発生機構の相違から次の三つの病型に大別される。
熱けいれん症
ボイラーなどの火を扱う作業者や坑内作業者によくおこる。筋肉重労働者に典型的な病型であり、職場でもっとも多くみられる。多量の発汗から体内の塩分が欠乏し、そのために血液中の電解質(とくにナトリウムイオン)のバランスが崩れることが原因で、筋肉(とくにその作業によく使われる筋群)のけいれんが特徴である。治療には生理的食塩水の静脈注射が効果的である。
熱虚脱
体熱を放散させるために皮膚血管が拡張すると、血液が皮膚に集中して体内の重要な器官への血液供給が不足することが原因で、血圧降下、脈拍微弱がみられるのが特徴である。そのほか、脱力感、めまい、失神などの症状もみられる。治療としては、涼しい場所で安静にさせ、場合によっては強心剤や生理的食塩水の注射をする。
熱射病
日射病、うつ熱症ともよばれ、体温調節中枢の失調が原因で、体温が上昇(ときには41℃に達する)し、しかも発汗がないことが特徴である。頭痛、めまい、耳鳴りなどに続いて意識障害、昏睡 (こんすい)状態になることが多く、重症の場合の致命率は高い。治療としては、速やかに体温を下げることがたいせつで、体温の上昇がひどい場合は全身を氷水につけ、3分ごとに体温を測る方法もとられる。応急処置としては、日陰の風通しのよいところに寝かせ、衣服を緩め、冷水で体をふき、タオルなどであおいで風を送る。
予防
高温障害の予防法としては、(1)通風換気、遮熱設備などの環境条件の改善、(2)作業の機械化、作業時間の短縮、休憩などの作業負担の軽減、(3)循環器異常者など高熱作業不適格者への配慮、(4)食塩の補給、ビタミンBやCの補給、防熱服着用などの個人対策も必要である。なお高温障害の発現には、服装、作業または運動状況、睡眠不足、疲労などの個人的身体的条件も誘因となるので注意する。いわゆる「夏ばて」も慢性の高温障害の一種である。