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  11. 野ざらし紀行(甲子吟行)

野ざらし紀行(甲子吟行)

ジャパンナレッジで閲覧できる『野ざらし紀行(甲子吟行)』の日本大百科全書・世界大百科事典のサンプルページ

日本大百科全書(ニッポニカ)

野ざらし紀行
のざらしきこう

芭蕉 (ばしょう)の俳諧 (はいかい)紀行。一巻(一冊)。別名「甲子吟行 (かっしぎんこう)」。1685年(貞享2)成立。書名は冒頭の句「野ざらしを心に風のしむ身哉 (かな)」による。1684年8月門人千里 (ちり)を伴い、芭蕉は深川の草庵 (そうあん)を出発し、東海道を上り伊勢 (いせ)、伊賀、大和 (やまと)、吉野を経て、山城 (やましろ)、近江 (おうみ)に出、美濃 (みの)大垣に木因 (ぼくいん)を訪問。ここで「死 (しに)もせぬ旅寝の果よ秋の暮」の句を詠む。さらに桑名、熱田 (あつた)を経て名古屋に至り、この地で荷兮 (かけい)らと『冬の日』五歌仙を興行。この年は郷里伊賀上野で越年し、翌1685年奈良、京都、伏見 (ふしみ)、大津を経て、ふたたび尾張 (おわり)に至り、さらに甲斐 (かい)を経て初夏江戸に帰着。以上のほぼ9か月の紀行を、発句 (ほっく)を中心に述べたものが本書である。木因訪問までの前半は緊迫した感情がみられ、句文ともに誇張した佶屈 (きっくつ)な表現が顕著だが、後半ではそれが風狂を主としながらもしだいにくつろいだものに変化している。芭蕉最初の紀行文であり、かつ蕉風開眼の過程が如実に示されており注目に値する。

[雲英末雄]



世界大百科事典

甲子吟行
かっしぎんこう

芭蕉の俳諧,紀行。1巻。《野ざらし紀行》《甲子吟行画巻》とも呼ばれる。1685年(貞享2)夏ころより着手され,87年秋ころまでに成稿となり,のち門人中川濁子(じよくし)による清書本が完成した。1684年8月から翌年4月までの9ヵ月間に及ぶ,東海道,伊勢,伊賀,吉野,大垣,名古屋,奈良,京都,水口,鳴海,木曾,甲斐を回る旅を,〈野ざらしの心に風のしむ身哉〉など自作の45句を中心にまとめた芭蕉最初の紀行作品。全体は秋21句と冬・春・夏24句に大別される。前半秋の部は緊張した悲愴感が読みとれるが,それは杜甫,西行の世界を踏まえることによって,自己の発句を漢詩,和歌と等質のものとしようとする創作意識の結果であった。対して後半部は,自由な雰囲気のなかでの各地の俳人たちとの交遊を事実のままに配列し,後年の紀行作品にくらべて四季別の句集的性格が強くなっている。本作品の特色は,成稿の時点で芭蕉自筆自画の絵巻物へと発展し,さらに素堂の跋文が付加されたことである。絵と跋文は,やや不十分な紀行本文を補足するとともに,この時期の芭蕉の西行に対する傾倒,なかでも《西行物語絵巻》に対するそれが顕著である。
[井上 敏幸]

[索引語]
芭蕉 野ざらし紀行 甲子吟行画巻 中川濁子
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検索コンテンツ
1. のざらしきかう【野ざらし紀行】
全文全訳古語辞典
[書名]江戸前期の俳諧紀行文。松尾芭蕉作。一六八五年(貞享二)に稿成る。以後も推敲を重ねる。『甲子吟行』とも。芭蕉の最初の紀行文。貞享元年甲子の年の秋に江戸を出
2. 『野ざらし紀行』
日本史年表
1687年〈貞享4 丁卯〉 この頃 松尾芭蕉 『野ざらし紀行』 成るか。
3. 野ざらし紀行
日本大百科全書
芭蕉ばしょうの俳諧はいかい紀行。一巻(一冊)。別名「甲子吟行かっしぎんこう」。1685年(貞享2)成立。書名は冒頭の句「野ざらしを心に風のしむ身哉かな」による。
4. 野ざらし紀行
世界大百科事典
→甲子(かっし)吟行
5. のざらしきこう[のざらしキカウ]【野ざらし紀行】
日本国語大辞典
俳諧紀行。一巻。松尾芭蕉作。貞享二年(一六八五)の成立だが、その後も、推敲(すいこう)を重ねた。貞享元年八月、門人苗村千里(ちり)を伴い江戸深川を出発、伊勢を経
6. のざらしきこう【野ざらし紀行】
国史大辞典
本の系統序列の研究』、同『芭蕉『野ざらし紀行』の研究』、宇和川匠助『野ざらし紀行の解釈と評論』、広田二郎『芭蕉の芸術―その展開と背景―』、尾形仂「野ざらし紀行
7. 野ざらし紀行翠園抄(著作ID:404615)
新日本古典籍データベース
のざらしきこうすいえんしょう 野さらし紀行抄 野晒抄 積翠(せきすい) 注 三化(さんか) 編 俳諧 注釈 文化一〇序・跋
8. あき【秋】
日本国語大辞典
る。あきと余申〓之」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「秋十年却って江戸を指す故郷」(2)秋にみのる穀物。秋作(あきさく)。
9. あき‐かぜ【秋風】
日本国語大辞典
秋上・四一三「秋風にたなびく雲の絶え間より洩れ出づる月の影のさやけさ〈藤原顕輔〉」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「秋風や藪も畠も不破の関」(2)(「秋
10. あき の 暮(く)れ
日本国語大辞典
契りも絶え果てぬ」*俳諧・山の井〔1648〕秋「九月尽 秋の暮、ゆく秋、かへる秋」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「しにもせぬ旅寝の果よ秋の暮」(2)秋
11. あき の 霜(しも)
日本国語大辞典
雑秋・六一七「かぞふれは四十あまりの秋の霜身のふりゆかむはてをしらばや〈源家長〉」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「手にとらば消んなみだぞあつき秋の霜」
12. あき の 日(ひ)
日本国語大辞典
《季・秋》*輔親集〔1038頃〕「秋のひにしづけき雨の慰めは我宿に咲くいろいろの花」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「秋の日の雨江戸に指おらん大井川〈千
13. あつたじんぐう【熱田神宮】愛知県:名古屋市/熱田区/宮宿
日本歴史地名大系
築地はたふれ草村にかくる。かしこに縄をはりて小社の跡をしるし、爰に石をすゑて其神と名のる」と芭蕉が「野ざらし紀行」に記したように、貞享元年頃の熱田社は社頭荒廃し
14. あづ・く【預く】
全文全訳古語辞典
の他動詞形》 ❶管理や世話をまかせる。あずける。 「深川や芭蕉を富士にあづけ行く」〈千里・野ざらし紀行〉長い道中に旅立ったが、主人のいなくなった江戸深川の芭蕉庵
15. あめ【雨】
全文全訳古語辞典
〔名詞〕 ❶空から降る雨。また、それが降る日。 「秋の日の雨江戸に指折らむ大井川」〈千里・野ざらし紀行〉秋の雨が一日中降り続く。江戸では、きっとこの雨の中で、師
16. あわれ‐げ[あはれ‥]【哀─】
日本国語大辞典
ばかりいてよのきゃうげんはさらにみず、金彌さまの御いでの時分いとあわれけに見給ふ」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「三つ計(ばかり)なる捨子の哀げに泣(
17. いちねん‐いちどう【一念一動】
日本国語大辞典
〔名〕折にふれての感興や感動。*俳諧・濁子清書画巻本野ざらし紀行‐跋〔1687頃〕「此一巻は〈略〉ただ、山橋野店の風景、一念一動をしるすのみ」
18. いのち 待(ま)つ間(ま)
日本国語大辞典
4〕雑下・九六五「ありはてぬ命まつまの程ばかりうき事しげく思はずもがな〈平貞文〉」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「露計の命待まと捨置けむ」
19. います【今須・今洲・居益】
日本国語大辞典
*仮名草子・古活字版竹斎〔1621~23頃〕上「しばしはここにいますの宿、たれかはとめし関ケ原」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「います、山中を過て、い
20. いも【芋・薯・藷】
日本国語大辞典
同〉」*俳諧・田舎の句合〔1680〕一七番「芋をうへて雨を聞風のやどり哉〈野人〉」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「西行谷の麓に流あり、をんなどもの芋あ
21. うす‐がすみ【薄霞】
日本国語大辞典
いとどもの心細げなる空の気色を」*中華若木詩抄〔1520頃〕下「山の色のうすかすみに、かすみたる」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「春なれや名もなき山の
22. うた【歌・唄】
全文全訳古語辞典
人がほめたりしたことを言うのも、いたたまれない感じがする。「芋洗ふ女西行ならば歌よまん」〈芭蕉・野ざらし紀行〉(西行が隠栖したという伊勢の西行谷の水で)芋を洗っ
23. うと・む【疎】
日本国語大辞典
1001~14頃〕帚木「さがなくゆるしなかりしも我をうとみねとふ方の心やありけむ」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「いかにぞや汝、ちちに悪まれたるか、母
24. えん‐う【煙雨】
日本国語大辞典
1502〕九月一日「天顔快晴、一洗数日之煙雨」*落葉集〔1598〕「煙雨 ゑんう」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「白雲峰に重り、烟雨谷を埋んで、山賤(
25. おおい‐さ[おほい‥]【大─】
日本国語大辞典
きさ(大─)」に同じ。*観智院本類聚名義抄〔1241〕「大 ヲホキナリ オホイサ」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「二上山当麻(たいま)寺に詣でて、庭上
26. おかだ-やすい【岡田野水】
日本人名大辞典
尾張(おわり)名古屋で呉服商をいとなみ,貞門派の吉田横船らにまなぶ。貞享(じょうきょう)元年「野ざらし紀行」の旅の途中の松尾芭蕉を自宅にむかえ,「冬の日」の歌仙
27. かっしぎんかう【甲子吟行】
全文全訳古語辞典
[書名]⇒野ざらし紀行
28. 甲子吟行
日本大百科全書
野ざらし紀行
29. 甲子吟行
世界大百科事典
芭蕉の俳諧,紀行。1巻。《野ざらし紀行》《甲子吟行画巻》とも呼ばれる。1685年(貞享2)夏ころより着手され,87年秋ころまでに成稿となり,のち門人中川濁子(じ
30. かっしぎんこう【甲子吟行】
国史大辞典
野ざらし紀行(のざらしきこう)
31. かも【鴨・鳧】画像
日本国語大辞典
〕賦漬何誹諧「首銭を二三度四五度取はつし〈西鶴〉 かたりにあふて鴨の諸声〈賀子〉」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「海くれて鴨のこゑほのかに白し」(2)
32. からさき【唐崎】
日本国語大辞典
ざりけり〈阿保経覧〉」*枕草子〔10C終〕二八八・崎は「崎は からさき。三保が崎」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「辛崎の松は花より朧にて」
33. かん‐じん【閑人】
日本国語大辞典
本佐録〔17C後〕序「或人謂、正信は駿州に久しく閑人にして、本は神祖の御鷹匠なり」*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「閑人の茅舎(ばうしゃ)をとひて、蔦植
34. き‐こう[‥カウ]【紀行・記行】
日本国語大辞典
多くの作品が書かれ、文学の一領域をなしている。紀行文。道の記。旅日記。道中記。旅行記。*俳諧・濁子清書画巻本野ざらし紀行‐跋〔1687頃〕「此一巻は必記行の式に
35. 紀行・日記編(松尾芭蕉集) 19ページ
日本古典文学全集
野ざらし紀行
36. 紀行・日記編(松尾芭蕉集) 69ページ
日本古典文学全集
落ぬべき時に、めをさます事たび〳〵也」(可笑記・巻四)、「落ぬべきことあまたゝびなりけるに」(野ざらし紀行)。兼好作と伝える「世の中を渡りくらべて今ぞ知る(一本
37. きこうぶんがく【紀行文学】
国史大辞典
中心とする俳人の紀行は、旅を存在の姿とする存在論的見地に支えられて独特の文学をなした。芭蕉の『野ざらし紀行』『鹿島紀行』『芳野紀行』『更科紀行』『おくのほそ道』
38. きぬた【砧】画像
全文全訳古語辞典
冬着の準備で秋の夜長の仕事として行う。(秋の季語) 「砧打ちて我に聞かせよや坊が妻」〈芭蕉・野ざらし紀行〉吉野の秋の夜更け、さびしさが身にしみる。宿坊の妻よ、せ
39. 去来抄(俳論集) 428ページ
日本古典文学全集
汝が聞ける所珍重也」と見える。なお底本「うるはしく」の「く」一字脱字。貞享二年(一六八五)春、『野ざらし紀行』の旅の途次大津での吟、同紀行に「湖水の眺望」と前書
40. 去来抄(俳論集) 463ページ
日本古典文学全集
初雪の興」による「ざれたる句」とする。魯町の問いは元禄十一年、去来が長崎帰郷中のことか。『野ざらし紀行』に「大津に出る道、山路をこえて」と前書して収む。貞享二年
41. 去来抄(俳論集) 486ページ
日本古典文学全集
乗掛馬(街道の宿駅の駄賃馬)の上でいねむりをする旅人のさま。底本「照らふ」。上五「道のべの」の句形で『野ざらし紀行』所収。瞬時の出来事をありのままにとらえた句だ
42. 去来抄(俳論集) 493ページ
日本古典文学全集
記した条であろうが、その反駁の姿勢には、ややむきになっているようなところも見受けられる。『野ざらし紀行』に「…三井秋風が鳴滝の山家をとふ」と前書して収む。秋風は
43. 去来抄(俳論集) 497ページ
日本古典文学全集
句。『芙蓉文集』『続寒菊』などに上五「何となふ(う)」の句形で所収。貞享元年八月、芭蕉が『野ざらし紀行』の旅に出立する際の餞別吟。師との別れが惜しまれて、あたり
44. 去来抄(俳論集) 517ページ
日本古典文学全集
明らかである。俳諧の基。→修行〔二〕。呂丸『聞書七日草』にいう「世上の流行」にあたるか。『野ざらし紀行』に上五「明ぼのや」の句形で出る芭蕉の句。ここは「白魚しろ
45. きり【霧】
全文全訳古語辞典
の澄んだ)空の様子は、何となく心が浮きたつが。「霧しぐれ富士を見ぬ日ぞおもしろき」〈芭蕉・野ざらし紀行〉箱根を越える日は、山中薄く濃く霧が流れてあたりの山なみは
46. きり‐しぐれ【霧時雨】
日本国語大辞典
〔名〕時雨が降るように、深く立ちこめた霧。*俳諧・野ざらし紀行〔1685~86頃〕「霧しぐれ富士を見ぬ日ぞ面白き」*人情本・糸柳〔1841か〕三・一八回「折柄そ
47. 近世俳句集 80ページ
日本古典文学全集
追善集『うちぐもり砥』を刊行。花林園には広大な梅林があり、季吟や高泉和尚、あるいは芭蕉も『野ざらし紀行』の途次、ここを訪れている。そこでの生活は秋風編の絵俳書『
48. 近世俳句集 95ページ
日本古典文学全集
年末に旅から自分の住居に戻った感慨が示されているが、同じ年末でも芭蕉の「年暮ぬ笠きて草鞋はきながら」(野ざらし紀行)の句には、旅寝のうちに年の暮れを迎えた感慨が
49. 近世俳句集 100ページ
日本古典文学全集
式子内親王)。句調が五・五・七と破調になっている。芭蕉の三年後の作「海くれて鴨のこゑほのかに白し」(野ざらし紀行)と同じ調子で、この破調がこの句の内容をいっそう
50. 近世俳句集 108ページ
日本古典文学全集
後嵯峨院)。犬の遠ぼえ。この語によって生活が身近に感じられる。「草枕犬も時雨るかよるのこゑ 芭蕉」(野ざらし紀行)。夜がほのぼのと明るくなりはじめるころ。炭俵な
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