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伊勢物語

ジャパンナレッジで閲覧できる『伊勢物語』の日本古典文学全集・世界大百科事典・国史大辞典のサンプルページ

新編 日本古典文学全集
伊勢物語
いせものがたり
【閲覧画面サンプル】
伊勢物語 全体

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伊勢物語 拡大

【現代語訳】

昔、ある男が、元服をして、奈良の京の春日の里に、所領の縁があって、鷹狩に行った。その里に、たいそう優美な姉妹が住んでいた。この男は物の隙間から二人の姿を見てしまった。思いがけず、この旧い都に、ひどく不似合いなさまで美女たちがいたものだから、心が動揺してしまった。男が、着ていた狩衣の裾を切って、それに歌を書いて贈る。その男は、信夫摺の狩衣を着ていたのであった。
春日野の……(春日野の若い紫草のように美しいあなた方にお逢いして、私の心は、この紫の信夫摺の模様さながら、かぎりもなく乱れ乱れております)
と、すぐに詠んでやったのだった。こういう折にふれて歌を思いつき、女に贈るなりゆきが、愉快なこととも思ったのであろう。この歌は、
みちのくの……(あなたのほかのだれかのせいで、陸奥のしのぶもじずりの模様のように、心が乱れだした私ではありませんのに。私が思い乱れるのは、あなたゆえなのですよ)

【目次】
伊勢物語(扉)
凡例
伊勢物語(扉)
一 初冠
二 西の京
三 ひじき藻
四 西の対
五 関守
六 芥河
七 かへる浪
八 浅間の嶽
九 東下り
十 たのむの雁
十一 空ゆく月
十二 盗人
十三 武蔵鐙
十四 くたかけ
十五 しのぶ山
十六 紀の有常
十七 年にまれなる人
十八 白菊
十九 天雲のよそ
二十 楓のもみぢ
二十一 おのが世々
二十二 千夜を一夜
二十三 筒井筒
二十四 梓弓
二十五 逢はで寝る夜
二十六 もろこし船
二十七 たらひの影
二十八 あふごかたみ
二十九 花の賀
三十 はつかなりける女
三十一 よしや草葉よ
三十二 倭文の苧環
三十三 こもり江
三十四 つれなかりける人
三十五 あわ緒
三十六 玉葛
三十七 下紐
三十八 恋といふ
三十九 源の至
四十 すける物思ひ
四十一 紫
四十二 誰が通ひ路
四十三 名のみ立つ
四十四 馬のはなむけ
四十五 行く蛍
四十六 うるはしき友
四十七 大幣
四十八 人待たむ里
四十九 若草
五十 鳥の子
五十一 菊
五十二 飾り粽
五十三 あひがたき女
五十四 つれなかりける女
五十五 言の葉
五十六 草の庵
五十七 恋ひわびぬ
五十八 荒れたる宿
五十九 東山
六十 花橘
六十一 染河
六十二 こけるから
六十三 つくも髪
六十四 玉簾
六十五 在原なりける男
六十六 みつの浦
六十七 花の林
六十八 住吉の浜
六十九 狩の使
七十 あまの釣船
七十一 神のいがき
七十二 大淀の松
七十三 月のうちの桂
七十四 重なる山
七十五 海松
七十六 小塩の山
七十七 春の別れ
七十八 山科の宮
七十九 千ひろあるかげ
八十 おとろへたる家
八十一 塩竈
八十二 渚の院
八十三 小野
八十四 さらぬ別れ
八十五 目離れせぬ雪
八十六 おのがさまざま
八十七 布引の滝
八十八 月をもめでじ
八十九 なき名
九十 桜花
九十一 惜しめども
九十二 棚なし小舟
九十三 たかきいやしき
九十四 紅葉も花も
九十五 彦星
九十六 天の逆手
九十七 四十の賀
九十八 梅の造り枝
九十九 ひをりの日
百 忘れ草
百一 あやしき藤の花
百二 世のうきこと
百三 寝ぬる夜
百四 賀茂の祭
百五 白露
百六 龍田河
百七 身をしる雨
百八 浪こす岩
百九 人こそあだに
百十 魂結び
百十一 まだ見ぬ人
百十二 須磨のあま
百十三 短き心
百十四 芹河行幸
百十五 みやこしま
百十六 はまびさし
百十七 住吉行幸
百十八 たえぬ心
百十九 形見
百二十 筑摩の祭
百二十一 梅壺
百二十二 井出の玉水
百二十三 鶉
百二十四 われとひとしき人
百二十五 つひにゆく道
異一 雨の音
異二 清和井の水
異三 かつ見る人
異四 雲居の峰
異五 中空
異六 時雨
異七 咲ける咲かざる
異八 玉くしげ
異九 撫子
異十 すずろなる道
異十一 すずろなる所
異十二 在原の行平
異十三 朝影
異十四 虫の音
異十五 のどけき春
異十六 かはたけ
異十七 色革
異十八 夢としりせば
異十九 ことぞともなく
解説
一 伊勢物語の時代と在原業平
二 書名・成立の問題と狩使段
三 伊勢物語解読の方法
四 伊勢物語の内容・趣向および主旨
五 本文について
六 研究史
主要古注釈書一覧
参考文献



改訂新版・世界大百科事典
伊勢物語
いせものがたり

平安前期の歌物語。現存する歌物語中最古の作品。古くは《在五が物語》《在五中将日記》などの異称もあった。書名の由来も,伊勢(伊勢御(いせのご))の筆作にかかること,〈伊勢〉は〈えせ(似而非)〉に通ずること,巻頭に伊勢斎宮の記事があること,などをそれぞれ根拠に挙げる諸説があったが,なお不明である。作者も上の伊勢の説のほか,在原業平自記説もあり,紀貫之説も近年有力となりつつあるが,これまた特定は困難であろう。内容は諸本により若干の増減があるが,通行の天福本で全125段から成る。在原業平とおぼしい男が元服してから死ぬまでの一代記風の体裁で,ほとんどすべての段が〈昔,男ありけり〉あるいは〈昔,男〉という言葉で書き出されている。しかし,その中には明らかに業平ではありえない人物もしばしば顔を出し,また芹川の行幸のように,業平死後の事件も現れる。歌数は全部で209首,そのうち業平の歌は30余首にすぎず,他は業平に仮託されたものである。在原業平は六歌仙の一人として名高いが,生前から放縦な生活をもって知られていたようで,二条后高子との情事でことに艶名をはせた。880年(元慶4)の死後間もなく,おそらく《古今集》撰進(905)以前に,業平の遺稿の類をもとにして小さい歌物語ができ,その後複雑な過程を経て増補を重ね,ときには部分的な改編なども受けて,《後撰集》成立前後にほぼ現在の形に落ち着いたかとみられるが,その後も広本系の異本では多少の増補が加えられた可能性がある。

内容は男女の恋愛を主とするが友愛,親子の愛もあり,純愛とは趣の異なる遊戯的な男女交渉や宴席での献詠とか地方への旅の旅愁を主題としたものもある。そこに一貫するものは“みやび”,つまり宮廷人にふさわしい上品で洗練された対人交渉とか反応,またその間の心遣いのさまざまである。その多くは純粋な愛情をもととした美しいあるいは激しい行動であるが,ただあくまで都市貴族的な価値観に基づくものであるから,粗野な田舎者を蔑視するなど,普遍的な人間愛とは距離がある。またその表現には,同じく歌物語と呼ばれる《大和物語》の場合のような世俗性,ゴシップ性への密着がみられず,逆にそれらを払拭して,より普遍的感覚的な言葉に置きかえる。業平らしい男の行為を記すに当たって,これを〈男〉,相手を〈女〉と記すのはその端的な表れであり,固有名詞を極度に削り去ることで,詩的な内面化,象徴化を果たしたのである。

伝本は藤原定家の整えた天福本のほか〈広本系〉〈略本系〉の幾つかが現存し,章段に増減が見られるほか,特殊な形の〈真名本〉もある。また古くは〈小式部内侍本〉〈業平自筆本〉の名も伝えられたが今は散逸している。《本朝書籍目録》には〈業平朝臣一巻〉の書名が見え,漢文伝記らしいがこれも正体は不明である。《伊勢物語》の後代への影響の大であることは《源氏物語》と双璧であり,日本人の心情形成にかかわることもまた大きい。
[今井 源衛]

[索引語]
在五中将日記 伊勢 在原業平 紀貫之 大和物語

国史大辞典
伊勢物語
いせものがたり
平安時代の歌物語。作者は不詳であるが、在原業平の縁者、または業平を敬慕する者などが考えられている。『在五が物語』『在五中将の日記』などとも称されたが、『伊勢物語』が正式の書名である。この書名の由来は、作中の伊勢斎宮の段によるとも考えられるが確かではない。原形の成立は九〇〇年前後のころと想定され、以後十世紀中ごろまでに大体の形成が行われ、その後も本文の流動は続いたらしい。おおむね「昔、男ありけり」のごとき書き出しを持つ、長短多様な、歌を中心とする小話を集積した形になっている。この各章段を貫く主人公の男は、在原業平を目して構えられていると見られ、業平の歌と判明するものだけでも三十余首に達し、その他の人の歌、古歌などを軸にして、業平の逸話や古伝承を織り込んで、数々の小篇が構築されている。現存本では、それらは一代記的に配列構成され、ある男が初冠して春日里で美女に歌を贈る物語に始まり、以後多くは、さまざまの恋の物語が続くのであるが、二条后の段、東下りの段、伊勢斎宮の段、惟喬親王の段、紀有常や在原行平に関する段などが、連鎖あるいは点在し、男の辞世の歌の段で終る。おおよそ誰とも知れぬ男女の物語のごとく書き進められているが、間々実名を出し、実話めいた段もある。全体の構成は緊密ではないが、珠玉の小篇をちりばめ、人の情を中心的に描き出している詩的作品である。成立以来、多大の愛読を得、歌人・連歌師必読の古典と尊重され、後代の文学に大きな影響を与え、注釈書もはなはだ多量に上る。本文は成立事情に加えておびただしい流布のため、諸形態が伝わっている。伊勢斎宮の段を巻頭に置いたという散佚本の狩使本と、現存本の初冠本とに大別できるが、前者はそれと推定される断片が伝わり、後者は、和歌二百九首を持つ百二十五段の藤原定家書写系の本が中世以来流布し、他に広本・塗籠本・別本・真名本の諸系本が伝存している。刊本として『群書類従』物語部、『(校註)日本文学大系』二、『日本古典文学大系』九、『古典文庫』六四、『日本古典文学全集』八などに収められている。
[参考文献]
池田亀鑑『伊勢物語に就きての研究』、大津有一編『伊勢物語に就きての研究』、片桐洋一『伊勢物語の研究』、山田清市『伊勢物語の成立と伝本の研究』、大津有一『伊勢物語古註釈の研究』、田中宗作『伊勢物語研究史の研究』、福井貞助『伊勢物語生成論』、同『伊勢物語』解説(『日本古典文学全集』八)、大津有一・築島裕『伊勢物語』解説(『日本古典文学大系』九)、『群書解題』一二
(福井 貞助)
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川の瀬を 七瀬渡りて うらぶれて 夫(つま)は会(あひき)と 人そ告げつる〈作者未詳〉」*伊勢物語〔10C前〕九「物心ぼそく、すずろなる目を見ることと思ふに、 ... ...
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〔名〕いやになる傾向にあること。飽き気味。*伊勢物語〔10C前〕一二三「深草に住みける女を、やうやうあきがたにや思ひけん」 ... ...
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平安初期の歌人。六歌仙,三十六歌仙の一人。平城天皇の皇子阿保親王の五男。母は桓武天皇の皇女伊登内親王。826年,阿保親王の上表によってその子仲平・行平・業平らに在原の姓が下された。業平は五男の在原であったので在五と呼ばれ,権中将となったため在五中将とも呼ばれた。
伊勢物語(日本古典文学全集・世界大百科事典・国史大辞典)
一昔、ある男が、元服をして、奈良の京の春日の里に、所領の縁があって、鷹狩に行った。その里に、たいそう優美な姉妹が住んでいた。この男は物の隙間から二人の姿を見てしまった。思いがけず、この旧い都に、ひどく不似合いなさまで美女たちがいたものだから、心が動揺
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野白内証鑑(日本古典文学全集)
野白内証鑑一之巻目録自分の行状の弁解をした野郎の話秘密の色遊びはばれたが、始めより末に至って情勢が好転した野郎の大臣。その相手は羽ぶりのよい撞木町の女郎。悪性をささやいてすすめる耳塚の駕籠屋。客に肌を見せない白人の話 外面は菩薩のようだが内情は
豊後国風土記(日本古典文学全集)
豊後の国。郡は八所、〔郷は四十、里は百十〕駅は九所、〔みな小路〕烽は五所、〔みな下国〕寺は二所〔一つは僧の寺、一つは尼の寺〕である。

豊後の国は、本、豊前の国と合わせて一つの国であった。昔、纏向の日代の宮で天下をお治めになった大足彦の天皇
魯迅 その文学と革命(東洋文庫)
中国近代文学の父であり,偉大な思想家でもある魯迅は,知識人としての苦悩のなかで,中国の「寂寞」を見つめ,自らをも傷つける「革命」を志向する。著者会心の魯迅伝。1965年07月刊
論語徴(東洋文庫)
秦・漢以前の古文辞に対する確固たる自信から孔子の言論を読みとく,論語の注釈のなかでもっとも論争的な注釈書。卓抜した孔子論を展開するとともに,徂徠自身の思想も開陳する。第1巻は,学而,為政,八佾,里仁,公冶長,雍也,述而,泰伯。1994年03月刊
近世和歌集(日本古典文学全集)
年内立春 去年と今年の二本の緒で縒り合わせて掛けて同じ年が一本にまとまらないように、こんがらがってなかなか理解できない春はやって来た。やや趣向倒れの感がある。長嘯子としては機知を働かせたのだろうが。鶯 軒端の梅が咲いていて、一晩中鶯の到来を
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