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STAP細胞問題
すたっぷさいぼうもんだい

体の細胞を、弱酸性の液につけるなど外から刺激を加えるだけで、受精卵のときのような、体中のあらゆる細胞に分化できる状態に変えることができた(刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得、STAP:Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)という研究論文が、虚偽であり不正であったことが発覚し、日本の生命科学研究の信頼性を揺るがす大事件になった問題。
[©島次郎]

経緯

2014年(平成26)1月、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)の研究者らが、STAP細胞ができたとの論文をイギリスの科学誌『ネイチャー』に発表したと、盛大な記者会見が行われた。しかし同年2月以降、その論文のデータ画像などに疑義が指摘され、調査の結果、5月までに、不適切な切り貼り、コピペ(コピー&ペースト)や改竄(かいざん)、捏造(ねつぞう)があったことが明らかになり、研究不正が行われたと認定された。そのため同年7月に、論文は正式に撤回されるに至った。
しかしその後も理研CDBは、世界中でだれも追試に成功していなかったSTAP細胞が本当にできないのかどうか調べる検証実験を手がけ、論文筆頭著者の小保方晴子(おぼかたはるこ)(1983― )を、不正に対する処分を先送りして参加させたため、批判が高まった。検証実験の結果は2014年12月に発表され、STAP細胞はできなかったことが明らかにされた。理研の調査委員会は、『ネイチャー』論文に出された細胞は、別の多能性細胞(ES(胚性幹)細胞)の混入に由来するものと結論づけた。2015年2月、小保方には「懲戒解雇相当」、ほかの論文責任著者や管理者にも譴責(けんせき)等の処分が下され、STAP細胞問題はいちおうの決着をみることとなった。
[©島次郎]

問題の背景と将来への課題

一つの科学研究が、1年以上にわたってマスコミをにぎわす大騒動になった点で、STAP細胞問題は異例の事件だった。不正を生んだ原因は、実験の企画と方法の検討、実施結果の分析と解釈、論文発表のまとめに至るまでの、研究の全過程で通常は行われる、専門家同士の批判的検討が、いっさい行われなかったことに求められる。そうした異例の状況がつくられた背景には、潤沢な国の予算と裁量権を与えられた理研のガバナンスの低さ、参加した上級研究者の権威への依存、同じくその権威者による研究の囲い込みがあった。さらにその背後には、経済成長に資する再生医療技術の開発成果を求める政治や行政からの要請が、本来慎重であるべき科学研究の筋をゆがめる圧力になったという要因もあった。
STAP細胞問題が起こったことで、理研CDBは規模を縮小する「解体的出直し」を余儀なくされた。日本の科学研究の国際的信用も失墜した。この状況を克服し、失われた信用を回復するために、研究倫理の教育の徹底が求められた。だがそこでいわれたことは、データの捏造や改竄をしてはいけない、実験ノートはきちんとつけろといった、専門職なら当然の業務管理というべき事柄だった。それだけでは、科学研究の自律と信頼の基盤となる職業倫理としては、不十分である。まずなすべきことは、実用重視の成果主義に偏った研究評価のあり方を、生命現象の解明に忠実な科学本来の筋に戻す努力をすることだろう。そのうえで、個々の研究が科学的に適正なものであることを、研究者同士がつねに相互批判を通じて保証することが、研究倫理の中核である。科学者集団がそうした倫理を再確立し遵守する姿勢を社会に対し示すことが、信用回復の一番の道である。
STAP細胞問題は、科学研究を社会がどう受け取るべきかという点でも、多くの教訓を残した。若い女性研究者の偉業という理研の広報の過剰な演出が、その後の激しいバッシングへの誘因になったといわれる。疑惑が指摘されたあとの一連の報道は、悪者探し、証拠探し、スキャンダル探しの「事件報道」に傾き、科学研究として何が問題で、今後どういう方向を目ざすべきなのかという「科学報道」はきわめて少なかった。科学研究に何を求めるべきなのか、改めて議論し再認識する必要がある。
[©島次郎] 

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