大矢透の著書。1909年刊。国語調査委員会の国語史研究の一成果で,平安初期より室町時代にいたる仏典・漢籍の古訓点本より50種を選び,一部分を臨模して訓点の実際を示し,その文献に見られる仮名の字体を一覧し,古訓の実例を集め,仮名遣の正否を注意している。巻末に平安初期以降の古点本110余種の訓点に用いられた片仮名を年代順に一覧表として示してある。片仮名の字体がいかに変遷してきたか,いかに多様な異体の仮名からしだいに字体が統一されてきたかが一目でわかるようになっている。これによって平安初期にア行とヤ行のエの区別のあったこと,長保ころ(11世紀初め)からオとヲ,ハ行とワ行の混同が起こったことなどがわかる。今日からみれば不備な点もあるが,片仮名の発達を研究する基礎となった卓越した著作であって,これによって片仮名の字源なども明らかになったものが少なくない。
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