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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『四人の托鉢僧の物語』(M.アンマン著、蒲生礼一訳、麻田豊補)

2012/12/06
アイコン画像    “欲望”に振り回される4人の托鉢僧の
かくも悲しき、かつ面白きインド流冒険譚

 江戸の本を読んでいたら「桟留縞(さんとめじま)」という言葉が出てきたので、ジャパンナレッジで調べてみると、これ、インドが原産なのだそうな。

 〈インドのマドラス(現チェンナイ)の港から渡来した縞織りの綿布。紺地に赤または浅葱(あさぎ)の細い縦縞の入ったものが多い〉(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)

 柄としてはいわゆるストライプなのだが、これが江戸で流行したのだという。

 ではこの頃のインドは、というと、〈インド史上最大のムスリム王朝(1526~1858)〉(同「ニッポニカ」)である、ムガル帝国の時代であった。

 ではこの頃を知る東洋文庫は? と調べてみると、ありましたよ。それが『四人の托鉢僧の物語』(1803年刊行)である。解説を読んでみたら、この本の成立には悲しい背景がありました。原書は、ウルドゥー語(ムガル帝国の公用語で、現在、インド、パキスタンの公用語)で書かれており、これはペルシャ語で書かれたものよりも平易なのだという。インドにはすでにイギリス人たちが大挙して押し寄せてきており、植民地支配のためには現地語獲得は必須。ということで、インド在住のイギリス人のためにテキストとして多数のウルドゥー語本が用意されたのだが、本書はそのひとつなのである。

 本書はM・アンマンが、ペルシャ語文学をウルドゥー語に翻案したものなのだが、「語学初心者を飽きさせない」という意図があるからなのか、物語として非常に面白い。

 物語は、子宝に恵まれない王さまが、ふとしたことから4人のみすぼらしい托鉢僧の冒険譚を聞くというもの。


 〈のう! 御僧がた! しばしの間御静聴下されよ。何を隠そう、この零落せる乞食坊主(フアキール)は、元をただせば支那国の王子でござりまする〉


 こんな調子のいいノリで、4人とも、欲に負けて落ちぶれてしまいました、という話を語っていく。例えば、〈支那国の王子〉という4人目の僧は、〈魔神の王〉にすがるのだが、魔神は「似顔絵そっくりの美女を捜し出せ」という条件を出す。見事探し出したのだが、美しさに目がくらんで横恋慕……という始末。坊主というにはあまりにも人間くさいのだ。物語を通底するテーマは“欲望”だ。ある意味、植民地時代の幕開けに相応しい物語なのかもしれない。

本を読む

『四人の托鉢僧の物語』(M.アンマン著、蒲生礼一訳、麻田豊補)
今週のカルテ
ジャンル文学
完成した時代・
場所
1800年代初頭のインド
読後に一言現代社会も“欲望”が渦巻いております。そのうち、因果は巡るのでしょう。
効用ありきたりの「物語」に飽きていた人は、本書に驚くことでしょう。
印象深い一節

名言
人間を邪道に陥れる悪魔(シャイターン)はとりもなおさず人間に他ならず、終始囈を口にし、耳にするうち、私もまたすっかり深みへはまりこんでしまったのです。(最初の托鉢僧の旅)
類書中世インドのサンスクリット語説話集『鸚鵡七十話』(東洋文庫3)
インドの英雄伝説『ラーマーヤナ(全2巻)』(東洋文庫376、441)
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