1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
“怒り”しか湧いてこない人にオススメ、 日本の誇る、元祖・笑えるエロ話! |
“怒(いか)り”の2012年であったなあ、と1年を振り返ってシミジミ思う。有権者は政治に怒り、東電に怒り、韓国に怒り、中国に怒った。隣近所への立腹を理由にした殺人事件が起こり、ツイッターにもあらゆる怒りが溢れた。怒りを露わにした政治家にも人気が集まった。
ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」で「怒り」を引くとこうある。
〈自分の望む方向に反するものの存在によって起こされた感情のいらだち〉
ようは、思うに任せないからキレる。キレるのは若者だと思いがちだが、複数の調査でキレやすいのはむしろ、60代以上だという結果が出ている。政治家も経営者も主力は60代だから、キレる老人が日本を引っ張っている、ということになる。なんだかなあ。
40代の私としては、怒るよりも笑っていたい(こういうご時世だからこそ笑っていたい、という思いもあるが)。ゆえに、『昨日は今日の物語』である。何せ「近世笑話の祖」と銘打つ娯楽本だ。日本の笑いの本家本元である。
ではその中から。
〈主人の未亡人のところへお見舞にあがり、「さてさて、お殿様がなくなられたと、お屋敷が荒れて、ところどころ修理せねばなりませぬ。お気の毒なことでござりますな」 というと、御後室は、「その事よ。殿様が、むやみと広げてしまわれて、いま急に、すぼめようとしても、締められるものでない」〉
この本、やたら艶笑話が多い。“明るいエロ”である。ではもうひとつ、エロ話を。
〈ある長老、病気が甚だ重く、今が最期とみえた。弟子も檀那衆も集まって、「さてもおいたわしいことじゃ。この期に及んでは、何の毒断ちも不必要じゃろう」と、酒と杯を枕元におき、「これこれ、目をあけてご覧じなさいませ。いつものお好きなものでござりますぞ」というと、長老は目をあけて見て、「ヘヘかと思った」〉
〈ヘヘ〉とは何のことかおわかりですな。映画『寝ずの番』の「そ●が見たい……」を思い出してしまったが、もしかして元ネタだろうか。
さてさて、「三人よれば文殊の知恵」というが、男三人集まればエロ話というのは、昔から相変わらず。下品だろうが何だろうが、話して笑って気分が晴れるならそれがいいですよね。“怒り”よりも“エロで笑う”。2013年の方針、こんなのでどうでしょう?
ジャンル | 笑い/説話 |
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成立した時代 | 1600年代はじめ(戦国から江戸初期)の日本 |
読後に一言 | 男と女の間には……やっぱり「笑い」と「エロ」ですね。 |
効用 | 連歌衆が活躍した時代なので、連歌絡みのネタも豊富。「笑い」ながら、「教養」が身につきます。 |
印象深い一節 ・ 名言 | (一つから九つまで、つの字がついているのに、十に、つの字がつかない理由を聞かれ、ひと言)「……五つに、つの字を余分につけてしまったからじゃ」(つの字論争 上三八) |
類書 | 同時代成立の笑話集『醒睡笑』(東洋文庫31) 江戸の笑いの基本『江戸小咄集(全2巻)』(東洋文庫192、196) |
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(2024年5月時点)