1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
幕末三大新宗教のひとつ、黒住教の教典に、 グローバル化に翻弄される日本の姿をみる。 |
このコラム、年明けからずっと宗教づいているが、気になって調べてみると、いわゆる代表的な新宗教はアメリカではモルモン教、エホバの証人など多くが1800年代に誕生している。ナポレオンに始まり、アメリカ南北戦争、アヘン戦争……と動乱と変化の世紀だ。ゆえに新宗教が興ったのか。
日本に眼を転じると、幕末に神道系の新宗教――黒住教、天理教、金光教の「幕末三大新宗教」が誕生する。同時期に、神道系の新宗教が興ったのは偶然ではあるまい。そこには何かしらの理由があるはずだ。と、いうことで「なぜ幕末三大新宗教は興ったのか」と大上段にテーマを掲げてみたい(大袈裟な前振りですな)。
第一弾は、黒住教である(懐の深い東洋文庫には、新宗教の教典が多数ラインナップされているのだ)。
本書『生命のおしえ』の解説によれば、黒住教を開いた黒住宗忠は、岡山の神職の家の三男坊として生まれた。長男は親戚の武家を嗣ぎ、次男は剣豪を志し出奔(後に客死)、残った宗忠は「親孝行」を是として育った。だが32歳の時に両親を相次いで病でなくし、目的を失う。本人もその翌年肺結核を患い、さらに年が明けて危篤状態になる。覚悟した宗忠は、〈今生の別れに日拝を行〉ない、〈真の孝行は自分自身を苦しめることであるはずはなく、陽気になるために心を養うことこそ真の孝行であると、これまでの自己の考えの誤りを翻然として悟った〉という。
日拝した、というところが肝であり、時あたかも「おかげまいり」の大流行中であった。宗忠も24歳で最初の伊勢神宮参宮を体験し、その後も含めて計6回の参宮を行なっている。教典である宗忠の「歌集」にこうある。
〈天照す神の御心人心 一つになれば生き通しなり〉
これが、〈天照大神と「同魂同体」という神人合一の境地〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)なのだろう。
では黒住教は何を説くのか。宗忠が、教えの根本として戒めるのは(〈日々家内心得の事〉)、勝手に要約すると次の7つである。①信心を持たない、②腹を立てる、③慢心、④悪に染まる、⑤怠け心、⑥ポーズだけで不誠実、⑦感謝しない。至極もっともである。
ここで求められているのは、行動ではない。修業でもない。お天道様を崇める、清らかな信心である。
幕末=グローバル化の時代、人々が外国への対抗として持ち出したのは「穢れなき心」だったのだろうか。
ジャンル | 宗教 |
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時代 ・ 舞台 | 1800年代前半、幕末の日本 |
読後に一言 | 「神人合一」というスタンスこそ、キリスト教との最大の違いなのだろう。 |
効用 | 神道とは何なのか、ということを考えるのには、いいテキストです。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 「肉眼で見るのではない、心眼ぞ」(教祖・黒住宗忠の辞世のことば「解説」) |
類書 | 天理教の聖典『みかぐらうた・おふでさき』(東洋文庫300) 金光教の聖典『金光大神覚』(東洋文庫304) |
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(2024年5月時点)