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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『日本霊異記』(原田敏明・高橋貢訳)

2011/03/31
アイコン画像    「宗教」が人を惹き付けるのはなぜか? 
日本最古の説話集の中に、その秘密をみる。

 最近、宗教特集をする雑誌が増えている。週刊東洋経済、週刊ダイヤモンド、SAPIO……と、どの雑誌の売れ行きも好調なのだとか。私も先日、某誌で新宗教関連の記事を執筆したのだが、「新宗教の中身って、現代的経営によって行われているシャーマニズムなんだ」と勝手に得心した次第。試しに、ジャパンナレッジの「ニッポニカ」で「シャーマニズム」を引いてみる。〈シャーマン的職能〉の中に、〈神秘家、予言者、霊媒、治癒者、邪術師〉を含める説もある。霊媒や治癒行為は、実際、新宗教の売りだったりする。さらに読み進めるとこんな記述が。


 〈『日本霊異記(りょういき)』の役小角(えんのおづぬ)は「鬼神を駈(おい)使ひ、得ること自在」な人物であった〉


 となれば、『日本霊異記』を読んでみるしかない。ジャパンナレッジの『新編 日本古典文学全集』でも公開されているので、原本に当たることもできるのだけれど、ここは現代語訳の東洋文庫版で探してみよう。

 おお! ありました。上巻の第二十八に。役優婆塞(えのうばそく)とあるのがそれだ。役行者(えんのぎょうじゃ)とも呼ばれる役小角は、修験道の開祖といわれる。

 『日本霊異記』によれば、鬼神を駆使して金峯山と葛木山の間に橋を架けようとした。これを困ったことだと考えた神々の中の一人「一言主神」が〈役優婆塞は天皇を滅ぼそうとしている〉と注進。結果、役小角は伊豆に流されるのだが、その代わり、役小角が一言主神にかけた呪法は解けなかったという。「ニッポニカ」(一言主神の項)では、ここに〈神の零落の姿〉を見る。外来の教えである陰陽道と密教が複合した役小角の修験道は、まさにこの時代の新宗教である。その新宗教によって、既存の伝統的宗教が駆逐される……。

 なるほど、宗教戦争という視点でもう一度『日本霊異記』を読むと、これを「仏教」のプロパガンダとして捉えることもできる。薬師寺の僧・景戒によって、822年頃に現在伝えられるような形態の本が成立したとみられる『日本霊異記』だが、この当時、仏教はまだ新宗教であった。だからこそ、役小角の不思議な話も、こんなふうに締めくくられる。


 〈(役小角の)不思議を表わしたことはあまりにも多く、わずらわしいので省略する。まことに仏法の不可思議な力は広大で、仏法に帰依した人は必ずそのことをさとるであろう〉


 不可思議さは常に人を惹き付ける。それは昔も今も、変わらない。信じるか否かは、別の問題だけれど。

本を読む

『日本霊異記』(原田敏明・高橋貢訳)
今週のカルテ
ジャンル説話
時代 ・ 舞台古代の日本
読後に一言日本人の考え方の、原点のひとつ?
効用髑髏(どくろ)が喋る話など怪奇モノも多く、その手が好きな人もぜひ。
印象深い一節

名言
善悪の報いは、ちょうど影が形について離れないようなもので、苦楽となって現われるが、それは声が谷にこだまするようなものである。(上巻・序)
類書平安末期の説話集『今昔物語集』(東洋文庫80ほか全10巻)
「霊異記」にも影響を与えた中国の怪異物語集『捜神記』(東洋文庫10)
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