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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 516|521|527|532

『和漢三才図会 15~18』(寺島良安著 島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注)

2018/11/01
アイコン画像    花木を愛する日本のこころとは。
江戸の事典で味わう和歌の名作

 日本には、花といえば梅、歌といえば和歌、という時代がありました。


 〈(植物は)根、葉、花、実には堅脆(けんぜい)・美悪があって、それぞれに太極(宇宙の本源)を具(そな)える〉


 根、葉、花、実……それぞれにかたさや脆さがあり、よいことも悪いこともある。この二面性に、日本人は詩情を感じてきたのではないでしょうか。ゆえに和歌は花木を詠んできたのでした。

 東洋文庫版の『和漢三才図会』15巻から最終の18巻までは、“植物”を扱っています。『和漢三才図会』の特徴のひとつは、関連する和歌を載せるところなのですが、和歌をピックアップすることで、本書がいわんとする〈太極(宇宙の本源)〉を垣間見たいと思います。


 〈我れなれや風を煩ふしの竹の(は)おきふし物の心ぼそくて〉(西行、「筱竹(しのだけ)」、15巻)


 西行は風邪を引いているのでしょう。本文に〈二つの節の間を与と称する〉とあります。「しの竹」が「伏し世」や「伏し夜」に掛かっているのでしょう。風邪の心細さと、篠竹の間を通り過ぎる風の音とが重なります。


 〈秋風の吹くに付けてもとはぬかな荻の葉ならば音はしてまし〉(中務(なかつかさ)、「荻」、16巻)


 中務は平安を代表する女流歌人です。「秋」と「飽き」をかけています。荻の葉ならば音を立てるのに、あなたは気配さえ見せない、ということでしょうか。


 〈古郷は散る紅葉(もみぢば)に埋もれて軒のしのぶに秋風ぞ吹く〉(源俊頼、「垣衣(かべのこけ)」、17巻)


 「しのぶ」とは苔のこと。「忍ぶ女」と掛けています。荒れた家、風に散る紅葉、苔、待つ女……。映像的です。


 〈今更に何生ひつらん竹の子のうき節しげぎ世とは知らずや〉(凡河内躬恒、「筍」、18巻)


 同じく「世」と「よ(節)」(竹の節と節との間の意)を掛けています。節がたくさんあるように、この世にも苦労がたくさんある。そんな世を生きねばならぬ子供と、筍の成長とを重ね合わせています。


 〈昨日まで(こそ)さなへ取りしかいつの間に稲葉そよぎて秋風ぞ(の)吹く〉(「粳(うるのこめ、うるち米)」、18巻)


 田植えをしたばかりだと思っていたのに、いつの間にか稲の間を秋風が抜けていく。月日の経つ速さを実感しています。風が目に見えるようです。


 これらは一例に過ぎません。本書で、花木にまつわる和歌を味わってみてはいかがでしょうか。



本を読む

『和漢三才図会 15~18』(寺島良安著 島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注)
今週のカルテ
ジャンル事典
刊行時期江戸時代中期
読後に一言4月より不定期でお送りしてきた『和漢三才図会』シリーズも、ようやくこれでフィニッシュです。
効用18巻には「総索引」がついています。
印象深い一節

名言
〈年毎に紅葉ばながす竜田川湊(みなと)や秋のとまりなるらん (紀)貫之〉(「鶏冠木(かえで)、15巻)
類書中国の花図鑑『中国の花譜』(東洋文庫622)
江戸の園芸書集『花壇地錦抄・草花絵前集』(東洋文庫288)
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