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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 788

『子不語1』(袁枚著 手代木公助訳)

2020/03/12
アイコン画像    ストレス発散にもってこい!?
悪徳官僚の因果応報物語

 中国の物語を読んでおりますと、悪徳官僚の登場がお約束です。残忍、あるいは強欲。最後は因果応報で罰を受ける、というのもこれまたお約束です。

 平陽(浙江省)の県令のお話です。〈性甚だ刻薄(残忍で薄情)〉というからただ事じゃありません。この県令、どうも美女を目の敵にしていたようで、美女を杖で叩く際は裸にし、杖は陰部にまで及んだといいます。


 〈美しい妓女にはとくに苛酷で、その髪を剃り刀で両の鼻孔を切り開いた〉


 我が国の役人のコネクティングルームも十分ひどいものですが、それ以上かもしれません。妓女を痛めつければ、〈妓風が根絶する〉と嘯くのですから、狂気の沙汰です。

 さてこの県令、ある時、家族を連れて旅店(宿)に行った。ところがその宿、楼上を固く閉ざしている。理由を聞くと、妖怪が居着いているという。恐れを知らない県令は、ひとり、楼上に泊まった。

 さあどうなったと思います? そう期待に違わず、出るんですよ、妖怪が。

 ところがこの妖怪、自分は土地神だと名乗り、貴人が来たと聞いてお迎えに上がったのだとおべんちゃらをまくし立てる。で、〈まもなく妖怪が現れますぞ。ただ、すべからく宝剣を揮われるがよかろう〉とそそのかす。

 県令、残虐なことが大好きですからね。現れた妖怪をバッタバッタと切り倒す。県令は得意満面で、店主を呼びます。駆けつけた店主は部屋をロウソクで照らします。


 〈照らしてみれば、部屋中死体が横たわっている。それが悉く妻妾子女であった〉


 ゾッとします。


 〈「わしは妖鬼に翻弄されたのか」
 慟哭して息絶えた〉


 著者の袁枚(えんばい、1716~97)は〈清代中期の詩人〉(ジャパンナレッジ「世界大百科事典〉)です。晩年、小説にも興味を示し、編んだのが怪異小説集『子不語』。

 「世界文学大事典」(ジャパンナレッジ)によれば、袁枚にとって、

①〈空想的な記事を非常に好んだ〉
②〈老年になって詩を創作することに倦(う)んだ〉
③〈暇ができてその暇つぶし〉
④〈封建社会におけるストレス〉を〈解消するため〉

 などの理由が考えられるそうです。

 私も①③④に納得。「やっぱり悪徳官僚の最期はこうでなくっちゃ」とひとり、溜飲を下げたのでした。



本を読む

『子不語1』(袁枚著 手代木公助訳)
今週のカルテ
ジャンル文学
成立18世紀後半の中国(清代)
読後に一言袁枚ではありませんが、私も気が滅入ると、ファンタジー小説に逃げ込むことが多々あります。『子不語』もいわばファンタジー。存分に楽しみました。楽しみを継続させるべく、一巻ずつゆっくり紹介していきます。一緒に、機能不全の社会のストレスを解消しませんか?
効用『論語』に、〈子、怪力乱神を語らず〉(述而)とありますが、だったら孔子が語らないことを自分が語ってしまえ、ということで「子、語らず」、ゆえに『子不語』というタイトルに。鬼に妖怪、奇談のオンパレードです。
印象深い一節

名言
広く心を遊ばしめ耳を駭(おどろ)かすことや、妄言、妄聴の類いは惑うことなく記して留めおいた。(序)
類書著者の略伝と作品紹介『袁枚』(東洋文庫650)
中国の鬼談の解説もある随筆『藝文おりおり草』(東洋文庫554)
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