1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
人の格は、生まれか育ちか? 転生した高僧の色狂い人生 |
生まれか、育ちか。
そんなことを考えさせられる(というよりギョッとさせられる)話を、『子不語4』に見つけました。
いわゆる輪廻、生まれ変わりの話です。例えばあのダライ・ラマ14世は、13世の生まれ変わりとされています。高僧が得たお告げによって見つけられた子が、13世の遺品当て問題にことごとく正解したことから、13世の転生だとチベット政府が認定し、14世となりました。
「琉璃廠の春画」もそういう話です。五台山の僧、清涼老人が亡くなった時、時を同じくしてチベットで一人の子どもが生まれました。「清涼」(しょうりょう)は仏教語で〈心の澄みきった、さわやかな悟りの境地〉(ジャパンナレッジ「例文 仏教語大辞典」)のことを指しますので、この名にはそういう意味も含まれているのでしょう。
で、この子ども、8歳になって突然言葉を発します。
〈わしは清涼老人だ〉
いろんな証拠から事実と認定され、この子どもは〈活き仏様〉と崇め奉られます。
ダライ・ラマ14世の場合は、手厚い教育を受けました。では清涼老人2世はどうか。そういう描写はまったくありません。それどころか、骨董書籍の街として知られる「琉璃廠」で、春画を発見。
〈つくづくとこれを玩賞して去り難い風情であった〉
この時点で、「それはアカン」と突っ込みたいところですが、〈活き仏様〉ですからね。何でもアリなわけです。
さあどうなったか。
〈五台山に帰ると、山麓一帯の淫売婦や巨大な性器の美少年を、あまねく探し集めては、終日淫楽にふけらせた〉
本当は本人も登場するAV顔負けのエログロな描写もあるのですが、あまりにもひどいので自主規制。ひと言でいえば、色に狂ったんですな。
それを見た旧友(前世の友人)が憤慨、一喝しました。
〈これが活仏のやることか!〉
なんと答えたと思います?
〈男が歓び、女が愛するに、何の妨げなし。一点の活力あらば、すなわちこの世界成る〉
と平然としていたといいますから、これもある種の境地なのでしょうか。……いいえ、ただのアホでしょう。何をしたわけでもないのに、生まれだけで崇め奉ってりゃ、そりゃおかしくもなりますな。
ジャンル | 文学 |
---|---|
成立 | 18世紀後半の中国(清代) |
読後に一言 | 何度注意されても相手を野次るというのも、やっぱり育ちなんですかねぇ。 |
効用 | 「色欲」を扱った話は、『子不語』に多く載っています。神が人に懸想する話もあって、まあ神にも色欲があるといいますか……。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 熱が高いときは、牀(ベッド)の中に六、七人もいて雑魚寝をしてる感じであった。うなり声などたてたくないのに、奴らは私を痛め付けて唸らせる。(著者自身のエピソード、438「わが家の些事」) |
類書 | 輪廻転生エピソードを数多載せる『日本霊異記』(東洋文庫97) 中国六朝時代の短編小説集『幽明録・遊仙窟他』(東洋文庫43) |
ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。
(2024年5月時点)