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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 706

『中国奥地紀行1』(イザベラ・バード著 金坂清則訳)

2020/05/07
アイコン画像    迫り来る危険すら魅力に感じる女性!
バードの中国旅~船旅篇

 読書は、いつでも旅ができる。

 本書『中国奥地紀行』を読んで、そのことを確信した。

 著者は英国人女性旅行家のイザベラ・バード(1831~1904)。当欄でもお馴染みで、『日本奥地紀行』、『朝鮮奥地紀行』とアジア紀行シリーズを紹介したが、本書はそのシリーズ第三弾に当たる。

〈……日本を訪れ [78(1878):明治11] ,半年にわたって東北地方や北海道を旅する.明治初期の日本の文化や習俗,自然を記録した《イザベラ・バードの日本紀行▼:Unbeaten tracks in Japan, 1880》は出版後,短期間に版を重ねた〉(ジャパンナレッジ『岩波 世界人名大辞典』)

 イザベラ・バードの日本紀行」とは、『日本奥地紀行』のこと。この時バードは50歳手前だった。

 本書『中国奥地紀行』の時のバードの年齢は60台半ば。いったいこの女性を突き動かしているものは何だろうか。

 1巻目は、中国の上海租界の活写から始まる。バードが訪れた1896年は、日清戦争終結から丸1年も経っていない。列強は中国への進出を強めていた。

 バードの旅の目的は、揚子江の上流、中国奥地をこの目で見ること。最初の旅は船旅である(1巻の大半は、船旅の記述に費やされる)。

 今の船旅といえば豪華客船のクルーズを思い浮かべるかもしれないが、120年前はそんな優雅なものではない。わずか20トンの小さな屋形船に乗り込んだバードは、外気温5度前後と寒風吹きすさぶ中、文字通り震えながら(時には岸からロープで船を引っ張りながら)進むのである。この船旅に対しての中国に住む知人のアドバイスが振るっている。


〈(知人に)上流への舟の旅でどう過ごしたらよいか尋ねたところ、「自分の命を守るのが関の山」とのことだった〉


 こう言われたら怯む、というのは常人だ。バードは違う。「好奇心」を推進力に怯まず進む。それだけでなく、船の水先案内人や曳夫をじっくり観察し、その行動を細かく描写。渓谷に差し掛かった際の風景描写には唸った。


〈にわか雪や、高い峰に次々とかかる荒々しい白雲、また雪をかぶった荒涼たる山々といった、明らかに今後の進行の妨げとなるものさえが魅力的だった〉


 もうじき65歳になろうとする女性の吐ける台詞だろうか。

 しかし間違いなく、バードのウキウキとした心根が、こちらにも伝わってくるのである。



本を読む

『中国奥地紀行1』(イザベラ・バード著 金坂清則訳)
今週のカルテ
ジャンル紀行
舞台・時代19世紀後半の中国
読後に一言一回で上下巻の旅を終えるのがもったいないので、下巻の陸行篇は次回!
効用本書の優れている点は大きく2つ。
(1)最下層の人々の生活にも目を向け、生活を詳細に記している。
(2)↓(名言)からもわかるとおり、状況把握と分析に優れている。
印象深い一節

名言
日本が生きていくためには[中国における]日本の市場拡大が不可欠なのである。(第六章「外国人━━漢口と英国の貿易」)
類書バードのアジア紀行第一弾『日本奥地紀行』(東洋文庫240)
第二弾『朝鮮奥地紀行(全2巻)』(東洋文庫572、573)
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