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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 329

『道教』(アンリ・マスペロ著、川勝義雄訳)

2011/06/30
アイコン画像    フランスの東洋学者が見た、中国で興った宗教、不死を求める"道教"の正体とは?

 「あなたは死にたいか」と聞かれたら(まあ、こんな唐突な質問はないだろうけど)「いいえ」と即答する自信はあるけれど、ちょっとひねって「あなたは長生きしたいか」と問われたら、私は答えに窮してしまう。どこかで「自分はすぐに死なない」と安易に考えている自分がいるし、かといってしがみついてでも生きるような覚悟もない。「死」は近いようで遠い。

 なぜそんなことを考えているかといえば、『道教』を読んだから。本書は、日本語もペラペラというフランスの東洋学者アンリ・マスペロの手によるもの。欧州のアジア専門家の“道教論”なのである。マスペロはいう。


 〈道教は、つまるところ救済の宗教である。すなわちそれは、仏教・回教・キリスト教と同様に、つかのまのこの世の生をこえて、信者を至福なる永遠の未来へ導くことをめざす〉


 だが「至福なる永遠の未来」とは極楽でも天国のことでもない。彼らはあくまで“現実”に至福を見出そうとした。それが〈不死の生〉なのである。


 〈不死の生とは物質的な肉体、すなわちこのわれわれの死すべき身体が、適当な方法によって死を免れ、金の骨と玉の肌をもった不死の身体に変形して生き残ることであった〉


 もっと具体的にいうと、体内には神がいるらしい。その数36000! 彼らが身体から出て行ってしまうと「死」に直結するので、修行によって(例えば気を高めたりして)神が去らないようにする。つまり仙人にならんとす。しかしトンデモない修行も数多く、その一部は日本で陰陽道や修験道となった。

 と読み進めるうちに、冒頭の疑問が浮かんだ。そうまでして長生きしたいのか、と。長生きはいったい、人生の目的となるのか。

 〈中国人のあいだから興った唯一の宗教〉(ジャパンナレッジ『国史大辞典』)である道教は、例えば日本でもまだ息づいている(横浜・中華街の「関帝廟」がそうだ)。だが当時中国全土に広がりを見せていたことを思えば、衰退したといっていいだろう。ではなぜそうなったのか。

 マスペロは、〈神々を思いきり人間に近づけすぎた〉と欧州人らしい分析をしているが、私はやはりその目的に無理があったのではないかと思う。長生きすればそれでいいって、私にはとても虚しい。

本を読む

『道教』(アンリ・マスペロ著、川勝義雄訳)
今週のカルテ
ジャンル宗教/評論
時代 ・ 舞台中国(B.C.700年代~A.D.1200年代)
読後に一言でも「仙人」は一度やってみたいなぁ。
効用前向きに「死」について考えることができます。
印象深い一節

名言
身体の維持というこの問題が優位を占めたために、道教には無数の些細で退屈な実践が一ぱいあらわれた。(「中国六朝時代の宗教信仰における道教」)
類書道教の秘儀などを載せる『酉陽雑俎1』(東洋文庫382)
不老不死の薬の作り方など、道教の資料集『抱朴子内篇』(東洋文庫512)
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