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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 159|177|221

『東都歳事記1、2、3』(斎藤月岑著、朝倉治彦校注)

2011/07/07
アイコン画像    『江戸名所図会』の名コンビ、月岑&雪旦が
工夫してつくりあげた、江戸時代版「ぴあ」?!

 『ぴあ』が今年2011年の7/21発売号で休刊となる現在、『シティロード』といわれてもピンと来ない人が多いかも知れないけれど、私の青春時代、『シティロード』は常に手元にあった。気に入った展覧会や映画の情報を切り抜いて手帳に貼ったり……、しかし20年前のこととはいえ、何とアナログなことか(笑)。ネットのない時代、私たちは情報に飢えていたのだ。カルチャー情報誌は、新しい体験を得るための糸口だった。その後、『シティロード』は休刊し(1993年)、私の青春時代も幕を閉じた。……そんな感傷はさておき、ポイントは「情報は行動を後押しする」ということだ。もちろん、フラッと入った展覧会で素晴らしい出合いがあったりもするのだけれど、数から言えば多くない。先にわかっていれば見逃すこともない。

 こうした、いわば「情報」に左右される行動様式は、高度成長期以降の特徴かと思っていたが、本書を読んでその思いを改めた。斎藤月岑の労作、『東都歳事記』(全3巻)である。斎藤月岑は、現在、ジャパンナレッジのコンテンツにもなっている『江戸名所図会』の編著者の一人。『東都歳事記』は、月岑編著、長谷川雪旦絵、という図会の名コンビがつくりあげた、江戸の年中行事録なのである。いうなれば『保存版 年刊ぴあ』。

 中を覗いてみよう。「七月七日」の項。


 〈○七夕(しつせき)御祝儀 諸侯白帷子(かたびら)にて御禮 今夜貴賎供物をつらねて、二星に供し、詩歌をさゝぐ。家々冷索麺を饗す。

 ○吉原遊女、各七夕祭をなす。(略)

 ○亀戸天満宮七夕和歌連歌会。

 ○同神寳虫沸 今日より九日迄あり。猥りに拝禮をゆるさず。菅公の天國の御太刀、菅神御眞筆并に御持物。〉


 といったように、当時の一大イベントであった寺社の行事を中心に、それはもう事細かに行事が記してある。江戸時代の人間は、きっと『東都歳事記』を見ながら、行動を決めていたに違いない。

 江戸時代の『るるぶ』ともいえる、絵入りガイド『江戸名所図会』を見ながら行きたい場所を決め、『東都歳事記』で行く日を決める。なんとも知的で優雅な、江戸人の行動パターンではあるまいか。

 『東都歳事記』が成立するということは、裏を返せば、江戸時代は「変わらない」ことを前提に時が流れていたのだろう。今ではあり得ない時の流れだが。

本を読む

『東都歳事記1、2、3』(斎藤月岑著、朝倉治彦校注)
今週のカルテ
ジャンル風俗
時代 ・ 舞台1800年代前半の江戸
読後に一言お祭りに行きたくなります!
効用「変わらないもの」を探し、かつ慈しむ喜びに気づくのでは?
印象深い一節

名言
凡此編は、毎歳江府にあらゆる神社の祭祀佛院の法會、并に貴賎歳時の俗事に至る迄、節序に随て是を輯録し、遠邦他境の人をして東都歳事の繁多なるあらましを知らしめんとす(提要)
類書月岑の江戸年表『増訂武江年表(全2巻)』(東洋文庫116、118)
明治時代の歳時記『東京年中行事(全2巻)』(東洋文庫106、121)
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