1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
『後拾遺和歌集』最多入集歌人・和泉式部の 歌で、あなたの恋心に火をつけろ!? |
紫式部に清少納言、和泉式部。綺羅星(きらぼし)の如く女性作家が登場し、活躍を始めたのは1000年代に入ってのことである。道長時代から院政へと移っていくこの時代に編まれた勅撰和歌集が、「拾遺和歌集」と「後拾遺和歌集」なのだ。
和歌に暗き私には具体的なイメージが思い浮かばないので、ジャパンナレッジで検索してみる。
●「拾遺和歌集」……〈(柿本)人麻呂尊重が(中略)本集の特色〉(「国史大辞典」)
●「後拾遺和歌集」……〈撰歌範囲が藤原道長・頼通の摂関期を中心とするため、和泉式部・相模・赤染衛門ら女流歌人の進出が著しく……〉(「国史大辞典」)
なるほど、百人一首や万葉集にある人麻呂の歌は「拾遺和歌集」にも載せていたのだと独りごちた。
〈足曳(あしびき)のやま鳥のお(尾)のしたり(しだり)尾のなかなかし(長々し)夜をひとりかもねん(寝ん)〉
続いて「後拾遺和歌集」を読んでみる。今までと違って、熱き恋の歌が多い。作者をみると和泉式部だ(彼女は本集の最多入集歌人だ)。
〈世中(世の中)にこひ(恋)てふ色はなけれとも(ども)ふかく身にしむ物にそ(ぞ)有(あり)ける〉
世の中に恋という色はないけれど、私の中に深く染みている。読んだ瞬間、ゾクっと来ました。間違いなく惚れます。
調べてみると、「平安時代の宇野千代」といった感じの恋多きオンナ。同時代の紫式部の評(「紫式部日記」)でみてみよう。
〈和泉式部といふ人こそ、おもしろう書きかはしける。されど、和泉はけしからぬかたこそあれ〉
文才はあるけど「けしからぬ」ってどうよ。人として倫理破綻してるのよ、と紫式部は怒っているのだ。
〈涙川おなし(同じ)身よりはなかるれと(流るれど)こひをは(恋をば)け(消)たぬものにそ(ぞ)ありける〉
同じく和泉式部の歌。涙も恋も、同じ私の中から出たものなのに、涙で恋の炎を消すことができない。いやはや、どんな業火か。いいオンナかもしれないが、きっと近づいた男は焼き殺されてしまうのだろう……。
『八代集2』は、万葉歌人の人麻呂にはじまり、恋の伝導者・和泉式部で幕を閉じたのであった。
ジャンル | 詩歌 |
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時代 ・ 舞台 | 平安中・後期の日本 |
読後に一言 | 和泉式部にはやられっぱなしでした。 |
効用 | 表現と行動が一致する――そんな世界を覗けます。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 君こふる(恋ふる)心はちゝ(千々)にくたくれと(くだくれど)ひとつもうせぬ(失せぬ)物にそ(ぞ)有(あり)ける(和泉式部「後拾遺和歌集」) |
類書 | 第3、4巻『八代集』(東洋文庫469、490) 現代語訳の白楽天『白居易詩鈔 附・中国古詩鈔』(東洋文庫52) |
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