最近、文房具はテレビのバラエティ番組で採り上げられる機会も増え、「ブーム」と称されることがあるのだが、実際はパソコンやスマホに客を取られているようで、安泰にはほど遠い。そんな中でも、「書く」という行為をとことん究めた筆記用具が次々に開発されている。たとえば、芯が自動的に回転してとがった状態を保つ、三菱鉛筆のシャープペンシル「クルトガ」などは知名度が高いだろう。

 東京都葛飾区のメーカー・北星鉛筆(きたぼしえんぴつ)も、多くのメディアで採り上げられるヒットを飛ばした。それが「大人の鉛筆」である。コンセプトは「鉛筆屋による、鉛筆好きの為の筆記具」。軸は木製で、先端は金具。ノックすると芯が出てくるというシャープペンシルのような鉛筆なのだが、書き心地はまさに昔ながらの味わい。芯には専用の削り器がある。

 好評を受けて、2013年に新登場したのが、「大人の鉛筆に、タッチペン。」。鉛筆のお尻のノック部分がスマホやタブレットで使えるスタイラス(ペン)になっている。現代的なガジェットも貪欲に取り込んで、鉛筆は生き残り続けるのだ。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 成長戦略の柱に医療を掲げる安倍政権だが、その司令塔として位置づけているのが、「日本版NIH」だ。モデルは、米国立衛生研究所(National Institutes of Health)。

 報道された政府原案によると、日本版NIHは内閣府所管の独立行政法人として設置する。再生医療や遺伝子治療といった重点テーマを設定し、それぞれにプロジェクトを発足させる。プロジェクトには、行政機関だけでなく企業や大学も加わり、「産学官」で研究・開発を進める。各省バラバラだった研究開発予算(約3500億円)も一元的に管理し、民間からの資金も募り、基金化する。トップは民間人を起用する方向という。

 4月19日に都内で、日本版NIHの設置構想を明らかにした安倍晋三総理は、その狙いと自らの役割について、「官民一体となって、研究から実用化までを一気通貫でつなぐことで、再生医療・創薬など最新の医療技術の新たな地平を、私が先頭に立って切り開いてまいります」と強調した。潰瘍性大腸炎という難病にかかり、一度は総理の座を投げ出した安倍総理は、画期的な新薬が日本で販売されたことで総理再登板が可能となった。それだけに、日本版NIHへの思い入れも強いという。

 政府は日本版NIHについて、2014年度中の設置を目指し、秋の臨時国会に関連法案を提出する。「医療を成長戦略の柱に」が単なるお題目に終わらないようにしてほしい。

 

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 60センチあまりにすうっとのびた花茎の先に、青紫色をした10センチほどの花びら6枚が垂れるように花開いている。大田ノ沢(京都市北区)に群生する杜若の可憐(かれん)な姿が、京都に初夏の訪れを告げる。この群生の杜若は天然記念物に指定されている。

 アヤメ科の多年草で、日本でもっとも古くから栽培されてきた品種の一つであり、昔は花の汁で布を染める「書き付け花」であったことから、この名称がつけられたという。「杜若」「あやめ」「花しょうぶ」という植物は混同しやすい。太田ノ沢にある説明書きによれば、見分け方は、水辺を好むのが杜若で、あやめは陸地に咲くのでわかる。また、同じく水辺を好む杜若と花しょうぶの違いは、杜若は5月に咲き、それに遅れて6月に咲くのが花しょうぶで、開花時期から区別することができるそうである。花こそ違うが、すっとした葉の形だけでは見分けにくい。

 大田ノ沢に残る伝承によると、昔の人は杜若を守るために「池に手を入れると手が腐る」といったとか。古代から咲き続けてきた杜若の群生地・大田ノ沢は、上賀茂神社の神体山・神山(こうやま)のふもとにある泥炭地で、京都が古代には湖であったことを今に残した貴重な場所である。


大田ノ沢に群生する杜若。毎年5月初旬から花が開き始め、中旬には咲きそろう。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 女性がきれいに見える条件を「夜目、遠目、笠の内」という。「上方いろはかるた」にあるそうだが、ようやく世界文化遺産に登録されることになった富士山に、そのまま当てはまる言葉である。

 私は春まだ浅い河口湖から見る富士の姿が好きだ。伊豆土肥温泉の夕陽と富士山も捨てがたい。遠目に見る富士は“霊峰”の名に恥じない美しさであるが、近づくにしたがってエクボならぬ痘痕(あばた)ばかりが目立ってくる。

 『週刊新潮』(5/16号、以下『新潮』)ではモノクログラビアで、富士の麓に堆(うずたか)く積まれた廃棄物の山を撮っているが、宅配業者のトラック、石油ストーブ、古タイヤ、国道沿いには投げ捨てられた弁当のゴミが散乱している。山梨県鳴沢村の75歳男性がこう嘆く。

 「不法投棄の中で、一番やっかいなのがタイヤなんです。雨水が溜まって、夏になると大量の蚊が湧くんですよ。これでも、一番酷かった10年前よりはマシになったんですけどね」

 山梨県と静岡県が富士の世界遺産登録を目指したのは21年前。自然遺産での登録を目指したが、環境省の候補地検討会で2度も落ちてしまったのは、求められる自然の美しさの基準には及ばないだろうと、失格の烙印を押されたからだった。そこで自然の景観より歴史的価値や芸術性が重視される文化遺産の登録へと方針転換して悲願達成となったと『新潮』が書いている。

 富士山には年間30万人以上が訪れるが、世界遺産となればマナーを守らない登山者や不届きな観光客が急増して、さらにゴミが増えることは間違いない。死亡事故も多い。

 「昨年1年間に静岡県警が扱った事故者数は70人、うち死亡者9人、重傷者4人を数える」(『新潮』)

 2016年にはユネスコ側に、周辺開発や来訪者増加への対応など保全状況についての報告書を提出しなければならない。その結果次第では登録抹消もありうるのである。

 登山者を制限するために「登山の有料化」も検討されているというが、山梨・静岡両県にとっては頭の痛い問題であろう。

 富士山は“歴(れっき)とした活火山”である。それも青年期であるため、近々噴火するのではないかと指摘されていて、その可能性は100%だと『週刊文春』(5/16号、以下『文春』)が報じている。

 たしかに予兆を感じさせる異変が起きている。河口湖で水位が激減。富士三合目付近では道路が約300メートルにわたって地割れし、浜松市では茶畑の斜面が崩落して、周辺住民への避難勧告が続いているのである。

 『文春』で火山・地震学者の琉球大・木村政昭名誉教授がこう語る。

 「富士山が活火山である以上、本来は火を噴いて当然の山です。私は、富士山はすでに活動期に入っているとみています。つまり、いつ噴火してもおかしくありません」

 マグニチュード9以上の巨大地震が起きた後は、数年以内に必ず火山噴火が起きていると、気象災害担当記者が話している。

 実は、富士の噴火と世界文化遺産の登録は密接に関連しているのだと、文化庁関係者がいっている。

 「優美な景観だけではなく、古来より噴火によって自然の脅威を体現してきた山だからこそ神聖視され、文化を形成してきたともいえます」 

 富士山は“遺産”ではなくいま現在も生きているのだ。フランス語で山は女性名詞である。美しい女には棘がある。この欄の女性担当者は近くで見ても美しいが、やはり棘があるんだろうな。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 キッチン家電は多様化の時代を迎えた。機能的なだけでなく、野菜・果物の栄養を引き出すベクトルを向いているのは、昨今の健康志向を反映しているだろう。注目株は低速ジューサー、ないしスロージューサーと呼ばれるジューサーだ。ゆっくりした回転で食材を圧搾(あっさく)する仕組み。繊維部分と液体が分離されていく様子は、ミニ工場のようでちょっと楽しいかもしれない。

 いまや美容と健康を語るうえで欠かせない「酵素」の存在は、低速ジューサーの価値を高めている。食材を高速回転する刃がすり下ろすタイプのジューサーは、摩擦で熱が発生する。熱は本来なら食材に含まれている酵素を壊してしまうらしいのだが、低速ジューサーにはその心配がない。また、皮も搾(しぼ)るので、果肉と皮の間に集中しているという栄養素も十二分に活かすことができる。単に食材を加工するだけでなく、よく研究されているというか、いまどきの家庭用ツールのレベルに脱帽だ。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 妊婦の血液で胎児の障害がわかる新型の出生前診断がスタートしてから1か月が経過した。

 新型の出生前診断は、妊婦の血液にわずかにまざる胎児のDNAを分析することで、ダウン症などの染色体異常を高い確率で判定できる。従来の羊水検査は妊婦のおなかに針を刺す必要があるため、まれに流産する危険があったが、新型の検査は血液の採取だけでよいので母体にも胎児にもリスクはない。

 ただし、安易に出生前診断を受けることは、生命の選別にもつながりかねない。日本産科婦人科学会の指針では、新型の検査を受けられるのは主に下記の条件に当てはまる人に限定している。

・高齢妊娠
・以前に染色体異常の子どもを妊娠したことがある
・超音波検査で胎児の染色体異常が疑われる

 実施できる施設は、日本医学会が「十分な遺伝カウンセリングができる」などと判断した全国21か所(5月7日現在)の医療機関のみとなっている。健康保険は適用されていないので、全額自己負担で1回あたり20万円の費用がかかる。

 出生前診断を受ける人の多くは葛藤し、検査を受けることに罪悪感を覚える人もいる。実際、陽性反応が出た場合は、産む・産まないという選択も迫られる。せっかく授かったわが子の命を、親が選別するという残酷な現実も待ち受けている。

 それでも、出生前診断を受ける人がいる背景には、わが子には元気であってほしいという親としての切実な思いとともに、障害をもつ人々への社会の無理解もあるのではないだろうか。

 もしも障害のある子どもが生まれたとしても、それにまつわる困難を親や家族だけが背負うのではなく、本当は国民全体で担うという共通の認識のもとに福祉制度を充実させるのが筋なのだと思う。だが、現実はまだまだその理想に追いついてはいない。

 障害があろうとなかろうと、生まれてきた子どもは等しく尊い存在のはずだ。そうであるならば、出生前診断を受けなくても、誰もが安心して子ども産み、育て、肩身の狭い思いをしないで生きていければいいのにと思う。きれいごとかもしれないが、そんな社会を目指したい。


 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 2階の部分がオープンになっている「スカイバス」など、バラエティ豊かなバス事業を展開する日の丸自動車興業(東京都文京区)。同社が今年(2013年)から運行している水陸両用バス「スカイダック」が、東京スカイツリーと下町をめぐる観光手段として注目を浴びている。東京での水陸両用車の運行は、期間限定としては昨年の「社会実験」の事例があるが、定期運行では初となる。3月の開業から早くも人気は上々のようだ。東京が魅力ある「水辺の街」であることを認識させてくれる。

 水陸両用バスは欧米などの多くの都市で導入され、特にアメリカ・ボストンでは観光の目玉となっているので、テレビの海外トピックで目にした人も多いだろう。近年では日本でも知名度を増し、大阪市や諏訪湖などで行なわれている「ダックツアー」、 富士山と山中湖の自然美を満喫する「YAMANAKAKO NO KABA」などが有名だ。売りは豪快なしぶきをあげて水に入るときのスリル。スカイダックも「東京スプラッシュツアー」と銘打っている。これから本格的な夏にかけてますます話題となるだろう。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


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