長引く不況で節約志向が進んでいることに加えて、昨年の東日本大震災時のインフラや流通の混乱の影響で、自宅で食事をする「内食」を好む傾向が続いている。その流れの中でブームになっているのが、ファミリーレストランやファーストフードなどのメニューを自宅で再現する「おうち外食」だ。
 火付け役になったのは主婦向けの情報雑誌で、味や盛り付けが外食チェーンの商品そっくりになるレシピを紹介したところ、主婦層にウケて、ネットのレシピサイトなどを通じて一気に広まった。家にある材料や調味料で、できるだけ外食チェーンの味に近づけたり、自分なりのアレンジを加えたりして、家で外食気分を楽しんでいるという。
 おうち外食は家庭での食事が見直されていることの表れである一方、食卓がフードコート化しているという見方もできる。厚生労働省の「平成21年度 全国家庭児童調査結果」によると、1週間のうち家族そろって一緒に夕食を食べるのは、「2~3日」が36.2%で最も多く、「毎日」と答えたのは26.2%しかいなかった。
 父親不在の夕食は、子どもが喜ぶファミリーレストランやファーストフードのメニューになりやすい。家族団らんの風景が失われつつある今、おうち外食のブームを喜んでばかりはいられない。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 専用端末やタブレット、スマートフォンで読む電子書籍の動向が注目されている。世界的な「紙の本」の危機はよく語られ、実際に消費は冷え込んでいるが、一方で電子書籍の時代とやらが「来そうでなかなか来ない」。そんな日本では、各出版社ともいろんなチャレンジを試みている。2012年は、スマホ全盛の中、デジタルと紙の本とをハイブリッドさせたユニークな企画が注目を浴びた。いわゆる「AR本」である。
 「AR」とは「拡張現実(Augmented Reality)」の意味。スマホのカメラを通して本を見ると、イラストや文字などが現実世界に浮かび上がる。たとえば、『ミライ系NEW HORIZONでもう一度英語をやってみる:大人向け次世代型教科書』(東京書籍)。中学校の英語の教科書に登場したキャラクターたちが成長した姿(ちょっと「萌(も)え」要素あり)で現れ、英語で会話をするという趣向だ。読み流しやすい電子書籍という形態は、参考書のような注視したい本の場合、しっくりこない世代も多い。AR本は、紙の本のよさは残しつつ、その「弱点」である「音声」「動き」を補うかたちとなっている。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 衆院選で日本未来の党の嘉田由紀子(かだ・ゆきこ)代表が唱えた考え方。同党が公表した「卒原発カリキュラム」よると「『卒原発』とは、スローガン的に即時原発ゼロをいうのでなく、また、遠い未来の原発ゼロを適当に言うのでもなく、『原発稼働ゼロから原発完全ゼロへの現実的なカリキュラム』を修了するという意味」なのだそうだ。
 要は、原発依存度を時間をかけて段階的に下げるということ。同党は「遅くとも10年以内」の完全廃炉を目指している。社民党や共産党が言う即「脱原発」と違い、「現実的な方策だ」というのが売り文句だ。
 民主党も「2030年代の原発稼働ゼロ」をマニフェストでうたった。これも事実上の「卒原発」と言える。
 これに対し、自民党は「遅くとも10年以内には将来にわたって持続可能な『電源構成のベストミックス』を確立する」とした。何やら分かりにくい。民主党などは「自民党は、衆院選で突っ込まれるのを回避するため、判断を先送りしている。事実上の『続原発』ではないか」と批判する。
 卒原発、脱原発派に求めたいのは、原発をやめることのデメリットをどうするかだ。
 具体的にいうと「電力の安定供給」「代替エネルギーの確保策」について明確に示すことではないか。さらには、原発をやめることで、電気料金は大幅に値上がりし、企業の製造工場は海外移転して雇用も減ると思うが、そのための対策を具体的にどうするのか。
 卒原発は「スローガンではない」と言っているが、それを示さない限り「スローガンにとどまっている」と言わざるを得ない。

 

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 煤や埃(ほこり)を払ってきれいに大掃除し、神棚を祓(はら)い清めるという年中行事である。「煤掃き」や「煤取り」、「煤納め」などともいう。
 日本でもつい数十年前まで、火はかまどやいろりで薪炭(しんたん)を焚(た)いていたので、普段の掃除では行き届かないところに煤や灰が溜(た)まっていた。煤払いには、家内に溜まった煤と一緒に1年間の厄を祓い、年用意(としようい;正月準備)をはじめるという意味が含まれていた。
 宇治市の黄檗山萬福寺(おうばくざんまんぷくじ)では、12月13日朝に寺院の魚▼ばん▼(かいばん;大きな魚をかたどった木板)、鐘、太鼓をそろって打ち鳴らし、煤払いがはじまる。この日のうちに伽藍(がらん)の隅々まで掃除を終え、その後僧侶がそろい、「謝茶」(じゃちゃ)という、黄檗宗独特の食事をする。
 江戸時代までは、煤払いは旧暦12月13日と決まっていた。この日を「事始(ことはじ)め」や「正月事始め」という。門松や松飾りにするため、木を山から刈り出してくる「松迎え」をしたり、お歳暮を届けたり、餅(もち)や料理の準備をしたりと、年用意がいちどきにはじまり、家内は大わらわ。指折り数えるまもなく大晦日(おおみそか)を迎えることになるのである。

   

   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 歌舞伎界で最も客の呼べる役者。今年7月に食道がんの手術を受けたが、その後呼吸困難に陥る急性呼吸窮迫症候群を発症し、2012年12月5日に亡くなってしまった。享年57歳。歌舞伎を愛し、酒を愛し、女性を愛した人だった。
 『週刊ポスト』(12/21・28号、以下『ポスト』)によれば、才能は役者だけにとどまらず、水上スキーが得意でゴルフはハーフ38で回る。紅白の司会もこなし、皇居へ招かれた際には嬉しくてワインを呑みすぎ、雅子妃に「奥さん」と呼びかけたこともある。
 歌舞伎を若者に発信したいと、94年から渋谷のシアターコクーンでコクーン歌舞伎を始め、ニューヨーク公演ではNY市警官を舞台に登場させてニューヨーカーをアッといわせた。
 19歳のときに12歳年上の女優・太地喜和子と恋仲になった。太地が48歳でこの世を去ったとき、遺体のもとに駆けつけ、彼女との約束を果たすために「バラの花を100本買い、銀色のスプレーで染め、太地の棺に入れた」(『ポスト』)
 牧瀬里穂や米倉涼子などとも浮き名を流し、宮沢りえは彼との道ならぬ恋に悩み、泥酔の末に京都のホテルで自殺未遂騒動を起こしている。
 昨年亡くなった立川談志師匠は勘三郎の若い時分から可愛がり、役者としても最大級の評価をしていた。
 『談志百選』(講談社・2000年刊)では「中村勘九郎」(十八代目中村勘三郎を襲名したのは2005年)について、こう書いている。
 「『何という爽やかな、ほどのいい若者だろう』というのが勘九郎に対する第一印象であった。(略)勘九郎に『喜怒哀楽の表現なんざァ、いとも簡単に出来るだろう、けど、それは歌舞伎という型の中での表現であり、それを突き抜けたとしても、家元の落語同様伝統芸の枠での抵抗だろう。そうでない表現、己れの中にある衝動とそれらが観客の常識と一致しないが、それでなければ己れが治まらないときがくるよ、絶対にくるネ、そのときが面白いネ。それは歌舞伎全体の芸の問題(こと)でもあるが、それを背負(しよ)わされるのは中村勘九郎一人だろうネ……』に、珍しく真剣な目をしてた」
 談志師匠は「そ奴の人間性」をはかるために酒を飲んでいるとき、有名な芸人や俳優、文化人に「アソコを出せ」と要求することがあった。 
 「横山ノックは出せたが、(上岡)龍太郎は出せない。三枝も出せまい。さんまはどうだ。鶴瓶は云わないうちから出すネ、あ奴は。(略)いまの勘三郎なら、少なくとも勘九郎の時は出せたろう」(『遺稿』講談社・2012年刊)と書いている。
 勘三郎は談志師匠のことを「生きていること自体が芸の人」と評していた。ともに古典芸能と格闘し、苦しみ、道半ばで同じ食道がんのために斃(たお)れてしまった。今ごろは「ちょっと早すぎたが、ままいいか」と迎える師匠と、仲良く酒を酌み交わしているのかもしれない。
 『ポスト』は「伝統を愛し、文化を創造し、人を愛し愛された壮大な57年の人生に無念の幕」と最大の賛辞を贈っている。本当に惜しい役者を失ってしまった。


 

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 鏡の前で、ヘアの乱れや肌の調子をずっと気にしている。そんな男性が増えているという。少しナルシスティックにも映る光景だが、「清潔感」はモテるための必須条件。異性としての色気にもつながる。「美容」は女性だけのものじゃないと言わんばかりに、とことんこだわる男性たちが「綺麗男」である。命名したのはリクルートのビューティワールド総研。同社によれば、綺麗男は特に25~29歳に多いという。高校時代にカリスマ店員やギャル男がフィーチャーされていた世代で、自然と美意識が高まっていったと考えられる。
 綺麗男にとって化粧水やリップクリームは日常的なアイテム。ヒゲ剃りもていねいだ。キレイでいる理由は自己満足だけではなく、仕事先や仲間に悪い印象を与えたくないという気持ちも強いとのこと。綺麗男まで行かずとも、洗顔料ぐらいならなんとなく使っている男性も多いだろう。清潔でいることも、現代ではコミュニケーションに欠かせない要素のひとつなのだ。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 10月1日、日本でも「地球温暖化対策のための税(環境税)」が新たに導入された。
 地球温暖化のおもな原因は、発電や車の走行などで化石燃料をエネルギーに変えるときに排出される二酸化炭素(CO2)の増加だとされている。温暖化はオゾン層の破壊につながるとも言われており、その対策が世界規模で急がれている。
 環境先進国のスウェーデン、オランダ、ドイツなどでは、すでにCO2排出削減を進めるための環境税が導入されている。2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す日本も、その対策の一環として石油、天然ガス、石炭などの化石燃料の利用に対して課税することになったのだ。
 環境税額を納めるのは業者だが、増税分は消費者が支払う電気やガス、ガソリンの料金に上乗せされる。具体的な納税額は、電気やガスの使用料、自動車の有無などによっても異なるが、一般的な家庭の負担は、2016年4月以降は月100円程度になると試算されている。ただし、税額は3年半かけて3段階に分けて引き上げられるので、2012年10月から半年間は月30円程度だ。
 集めた税金は省エネルギー対策の強化、再生可能エネルギー導入の推進など、地球温暖化対策のために活用される予定。ただし、税負担が重くなる経済界からは撤廃を要求する声もあがっている。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


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