葛引きにしたおつゆのこと。「のっぺ」は「濃餠」や「能平」と書く。全国的に広くみられる郷土料理なので、「のっぺい」や「のっへい」、「ぬっぺい」、「のっぺい汁」などと、たくさんの呼称がある。京都ではお精霊(しょらい)さん(盂蘭盆(うらぼん)のときに迎える死者の霊魂)にお供えする料理のひとつであり、多くの家庭では、8月16日のお精霊送りを前に、15日の夕食のお膳につけていただくのが習慣になっている。

 全国各地で味つけや具材にも少しずつ違いがあり、とり肉や油揚げ、根菜、キノコをふんだんに入れ、甘辛く炊いてあんかけにしたものが一般的である。おつゆというよりも煮物といったほうがよいものもある。京都の「のっぺ」はお盆の料理なので一風変わっていて、小さな里芋、皮を剥(む)いてさなご(種)を取り除いたきゅうり、結び目をつけた干ぴょうを湯がいておき、戻した干し椎茸と湯葉は、細切りにして昆布のおだしで炊いておく。これらに醤油(しょうゆ)で味をつけたら葛で引き、仕上げに土生姜(つちしょうが)をおろして添えるのが、お精霊さんのおつゆである。暑くとも、葛のおつゆから立ちのぼる生姜のよい香りが食欲をそそってくれる。

 冬の京都でおなじみのしっぽくうどんは、「のっぺ」や「のっぺい」と献立に書かれていることが多い。これは、うどん、椎茸の甘煮、蒲鉾(かまぼこ)、湯葉、三つ葉を入れ、だしを葛で引いたあんかけうどんで、お盆の「のっぺ」のうどん版といえるものである。


   

   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 7月7日から堺雅人(39)主演、TBS系列で放送されている人気ドラマ。第5話の平均視聴率が29.0%、瞬間最高視聴率は31.9%を記録した。

 堺は映画『武士の家計簿』『鍵泥棒のメソッド』で日本アカデミー賞・優秀主演男優賞を受賞している。妻は女優の菅野美穂。

 池井戸潤(いけいど・じゅん)の小説『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』(ともに文春文庫)が原作で、ドラマ前半の「大阪編」では大手銀行の融資課長・半沢直樹が、粉飾決算で5億円の融資を騙し取った会社社長・東田(宇梶剛士・50)の資産差し押さえをすべく獅子奮迅の活躍をして、上司の支店長も加担していたことを暴いていく。

 半沢と攻防を繰り広げるオネエ言葉の国税局査察部統括官・黒崎を歌舞伎役者の片岡愛之助(41)、支店長の浅野を石丸幹二(47)、半沢を追い込む本店人事部次長の小木曽にお笑い芸人から俳優に転身した緋田康人(49)、東田の愛人に壇蜜(32)と個性的な俳優を配している。

 銀行員を主人公にしたドラマはこれまでも数々あったが、このドラマのように胸のすく爽快感のある銀行員ものはなかった。『週刊文春』(8/15・22号)の座談会で原作者の池井戸氏がこう語っている。

 「この物語は銀行という堅い業界が舞台で一見シリアスですが、じつは中身はマンガなんですよ」

 半沢が銀行に入った動機について、中小企業の経営者だった父親が、半沢が入った大手銀行の前身の銀行に「貸し剥がし」をされて自殺したためとなっているが、原作では死んでいない。このほうが「ドラマとしては分かりやすく効果的だと思いました」(池井戸氏)。

 半沢については「正義の人じゃないんです。清濁併せ呑んで、汚い手を使っても上に行くという人。正義の人より、そんな悪漢のほうが、僕ははるかに魅力的だと思うんです」と、単なる勧善懲悪ドラマではないとも言っている。

 『週刊ポスト』(8/16・23号)ではドラマの裏話を特集している。いくつか紹介しよう。

 第1話に半沢が下町のバルブ工場を視察して、社長へ融資の検討を約束するシーンがあるが、そこに登場して熟練の技を見せる職人は本物だったそうだ。

 小木曽次長が半沢を叱責するとき、怒りとともに机をバンバン叩き続けるシーンが話題になったが、この叩き方は「手は曲げずにまっすぐ叩く」という指示があり、やる方はかなり手が痛いそうだ。

 東田の愛人役の壇蜜は実はカナヅチで、プールに浮いているエアマットに寝そべっている壇を東田がひっくり返すシーンがあるが、その瞬間、怖くてセリフが出てこなかったそうである。

 番組関連グッズも売れ行き好調で、これからは番組での決めぜりふ「やられたらやり返す。倍返しだ!」にちなんだ「倍返しまんじゅう」も発売する予定とか。

 ほかにも「部下の手柄は上司のもの。上司の失敗は部下の責任」「銀行は、晴れた日は傘を差し出し、雨の日には傘を取り上げる」などの名ゼリフが随所に出てくる。

 『週刊現代』(8/17・24号)は半沢の演じる世界は本当で、「銀行は減点主義です。一度でもバツがつくとそれが出世に響く」。住宅ローンを組むと辞めることはないと判断されて「家を買った人は転勤になる」というジンクスがある。同期との成績争いや派閥争いに負けると、40代から「黄昏(たそがれ)研修」と呼ばれるセミナーを受けさせられ、片道切符の出向を受け入れざるをえなくなると、過酷な銀行マンの実態を描いている。

 社内では上司にへつらい、同期の成績に一喜一憂し、外では無慈悲な貸し剥がしをして恨みを買う。それ故に、理不尽な上司の要求に耐えながら、最後にクローズアップされた堺が3D映画のように顔を上げながら上司を睨みつけ、怒りを爆発させるシーンに胸がスカッとするのであろう。『昭和残侠伝』で高倉健演じる花田秀次郎が敵役の悪行に耐えて耐えた後、吹雪の中で抜刀して殴り込みに行く場面を彷彿とさせる。

 我が家の家訓は「国と銀行は信用するな」である。中内功ダイエーの最盛期には無理矢理貸し付け、潰れたときは家族の家屋敷まで取り立ての対象にした“血も涙もない”銀行のあくどさを持ち出すまでもなく、こちらが必要なときには頼りにならないからである。このドラマの視聴率が高いのは、銀行不信がますます高まっている証左なのかもしれない。 


 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 地球最大のイカ、ダイオウイカ。『ナショナルジオグラフィック』のサイトの紹介によれば(大きさの記述は図鑑やサイトによって実にまちまちなのだが)、体長は10メートル、これまで公的に発見された最大のもので17.5メートルだったという。映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズにも登場した伝説の怪物「クラーケン」のモデルだ。この「モンスター」がいま、大ブレイク中である。

 人気のきっかけは、2013年1月に放送された『NHKスペシャル』。世界初となる海中でのダイオウイカの映像は、テレビ業界も驚くほどの高視聴率を叩き出すことになる(余談だが、このときの裏番組はドラマ『とんび』など強力な作品ばかりであった)。これまで知名度のわりに生態に不明な点が多かったダイオウイカだが、神秘的に動く映像を捉えたのは、まさにプロジェクトスタッフの汗と涙の結晶。放送後も興奮は冷めやらず、番組内容を収録したDVDや関連グッズが販売された。さらに、8月17日からは映画化作品も公開される。NHKとしてはホクホク顔なのではないだろうか。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 1947年5月3日に施行された日本国憲法の前文では、第2次世界大戦での過ちを反省し、戦争の永久放棄を明確に決意している。それは、憲法9条の理念が入っているからだ。

日本国憲法 第9条

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
 
 憲法9条があるおかげで、日本は67年間、他国を侵略する戦争に加担することなく、平和な国家を維持することができていた。ところが、自民党が政権与党に返り咲き、夏の参院選でも過半数の議席をとったことで、憲法改正論議が熱を帯びだしている。

 自民党の憲法改正草案では、第1項の「永久に放棄する」が、たんに「用いない」に変更されている。さらに、第2項がバッサリと削られ、代わりに「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」に入れ替わっている。

 第2項がなくても、第1項に「戦争を放棄」という言葉があるので、平和は維持されるという意見もある。しかし、第1項はすでに国際標準ともいえるもので、1928年のパリ不戦条約で「国権の発動たる戦争」が禁じられ、第2次世界大戦後に「武力による威嚇又は武力の行使」も国連憲章によって禁じられた。

 現在、日本が他国のように戦争をできないのは、第2項で「戦力の保持」と「国の交戦権」を認めていないからで、第2項がなければ平和を維持するのは難しくなる。

 さらに9条の2を新たに創設して、治安維持、邦人救出などに出動できる「国防軍」を保持することを宣言している。しかし、これは単なる邦人救出などに終わらず、戦前はこれを口実にして戦争に突入していった経緯がある。自民党は、9条を変えることで、戦前のような軍隊を復活させようとしている可能性が高いのだ。

 現在、憲法改正議論を盛り上げる手段の一つとして、安倍首相は集団的自衛権の法解釈を変えようとしている。集団的自衛権は、アメリカなどの同盟国が他国に攻められたとき、日本が攻撃されたとして反撃する権利で、日本にも国連憲章によって国際法上の権利が認められている。しかし、これまで国は憲法9条の法解釈によって、使えないという立場を貫いてきた。

 しかし、安倍首相は、集団的自衛権の行使容認に積極的な外務省出身の小松一郎駐仏大使を内閣法制局長官に起用することで、法解釈変更の議論を加速させようとしている。

 もしも、憲法9条が自民党案に改正され、戦争ができる国になり、徴兵制が復活したら、その戦争に行くのは知らない誰かではない。あなたの子どもであり、孫であり、夫なのだ。

 今の平和な日本が、なぜできあがったのか。終戦68年目を前に、今一度考えてみたい。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 なにもかも受け入れそうな懐の広さを感じるということだろうか。一部の女子のあいだで「お坊さん」がブームである。2012年3月には、イケメンの「草食」ならぬ「僧職系男子」を集めた『美坊主図鑑』(廣済堂出版)が出版された。お酒を飲みつつ悩み相談ができる「坊主バー」も人気となっている。

 その一方では、現実的には仏門の世界も「出逢い」が少なく、「嫁不足」に悩んでいる。そこでさらなるユニークな動きが登場。独身の僧侶と女性たちが語らうイベント、いわば「坊コン」である。2013年6月、新潟県三条市の真宗大谷派三条別院で行なわれた坊コンでは、女性の定員がすぐに埋まる人気に。婚活を業務とする地元企業が参画し、目新しさだけに終わらなかったためか、一地方のイベントをこえた話題となった。

 女性たちは、落ち着いた男性に癒やされたい。僧侶たちは、法事ぐらいでしか縁のない仏教を少しでも世俗の我々に理解してほしい。こうした双方の想いがかみ合っているのが、いまどきの坊主ブームであろう。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 いま、世界の金融市場が中国経済の「リスク要因」として、固唾(かたず)を飲んでその行方を見守っているのが、シャドーバンキング(影の銀行)問題だ。

 シャドーバンキングとは、銀行を介さずに交わされる金融取引全般のことをいう。

 中国では、当局の銀行に対する規制が厳しく、銀行に相手にされない信用度の低い不動産会社や、地方政府系投資会社の調達先としてシャドーバンキングが近年、急拡大した。

 投資家サイドからすれば、シャドーバンキングは利回りがよく、「理財商品」と呼ばれる高利の金融商品には、財テクマネーがどっと流れ込んだ。その資金が不動産会社などに高利で貸し付けられるのである。

 ただ、シャドーバンキングから資金調達して作ったマンションやオフィスビルは、作りすぎたり高すぎたりして売れ残る物件が少なくない。返済が焦げ付けば、当然、不良債権化する。そのため、「リーマンショックを引き起こしたサブプライムローン問題の再来」と危惧する向きもある。

 シャドーバンキングの問題は対岸の火事ではない。中国輸出頼みの日本経済を直撃するからだ。シャドーバンキングの融資規模は総額30兆元(約480兆円)にのぼるとの推計がある。

 

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



  送り火は門火(かどび)ともいい、家の入り口や四つ辻(つじ)に焚く火のことである。先祖の霊魂の道しるべとなり、盆の送り火は、8月13日に焚く迎え火に対し、16日に焚く火を送り火と呼んでいる。京都東山の如意ヶ嶽(にょいがたけ)に「大」の文字を点(とも)す五山送り火は、祖先の霊の去来を見送る火であると同時に、暑い夏の日に別れを告げる節目の行事として根づいている。これほど規模の大きな送り火行事でありながら、起源となった時期や意味を記した史料が見つかっていないということには、改めて驚いてしまう。一説に、松明(たいまつ)を空に投げ上げて霊を見送るという風習をもとに、投げ上げた火が虚空にとどまるかのように、山々に火を点したのではないかともいわれている。如意ヶ嶽の大文字を基点に、五山送り火を東から西へと並べてみると、松ヶ崎の万灯籠山(まんどうろうやま)と大黒天山(だいこくてんやま)の「妙法」、西賀茂船山(にしがもふねやま)の「船形(ふながた)」、金閣寺付近の大北山(おおきたやま)の「左大文字」、上嵯峨仙翁寺山(せんおうじやま)の「鳥居形」となる。古くは「い」「一」「竹の先に鈴」「蛇」「長刀(なぎなた)」の文字の送り火もあったということである。

 8月16日は、五山の麓(ふもと)に早朝からそれぞれの保存会の方が集まってくる。火床の状態や点火方法は五山それぞれの決まりがあり、少しずつ異なっている。準備しておいた護摩木や割木は山上に運び上げ、護摩木は積み上げて種火をつくる。50~100あまりもある火床の準備を終えたら、あとはじっと夜を待つのである。午後8時、如意ヶ嶽の大文字が点火されると、ほかの四山も一斉に点火を開始する。一山、一山と、山々に灯が点ってはゆっくりと消えていく様子を眺めていると、穏やかに手を合わせて祖先を見送る気持ちが湧いてくるように思う。それは精霊たちが、東山と西山に点った「大」の文字を道しるべに、「妙法」(妙法蓮華経)を聞きながら「船」に乗り、「鳥居」の向こうへ戻っていくかのような情景に映るからであろう。


読経と薪の燃える音に満ちた、送り火のときの山上。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


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