ガンジーの実像2 / 177
文庫クセジュ858 ロベール・ドリエージュ著 / 今枝 由郎訳
歴史・地理・民族(俗)学
はじめに
ガンジーが二十世紀をかたち作った偉大な人物の一人であることを否定する人は誰もいないだろう。時が経過するにつれ、その人となりは神話となり、その話は伝説となった。伝記の多くは何よりも聖人伝であり、そのほかのものは直接子供を対象に賞讃されるべき人物として彼を紹介している。何億もの人が観たデヴィッド・アッテンボローの映画は、この列聖の傾向をいっそう強いものにした。こうしてガンジーはほとんど神聖化されてしまい、その結果、歴史家、評論家の仕事は非常にむずかしくなり、あらゆる批判は冒瀆と見なされるようになった。ある人物が、貧しい人の擁護、非暴力、慈悲、善意といった寛大な思想を象徴するようになると、人に好感しか抱かせない。さもなければ、こうした思想を非難すると見なされてしまう。長い間、宗教的狂信者や、かたくななマルクス主義者といった極論主義者だけが、彼に異議を唱えてきた。そのほかは、右派にしろ左派にしろ、ガンジーは満場一致で受け入れられてきた。この賞讃の理由はいろいろであり、ときとして混乱したものだ。ある人たちにとって、ガンジーは非植民地化の指導者であり、別の人たちにとっては、人類を精神的に再活性化することができる予言者である。しかし多くの人びとにとっては、彼は智恵と善意を具現した本当にすばらしい人物ということにつきる。
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