集まった群衆が互いに悪口を言い合うことが特徴の祭礼。悪口(あっこう)祭、悪たれ祭、喧嘩(けんか)祭などともいう。相手を言い負かせば幸運を得るとしたことに基づくらしいが、年頭の祭りに多く、もと年占(としうら)の意味が濃かったようである。現に、島根県安来(やすぎ)市の清水(きよみず)寺では、節分の夜参詣(さんけい)人同士が悪口を言い合い、「清水の喧嘩祭」と称され、相手に言い勝てばその年豊作になるとされた。京都祇園(ぎおん)・八坂神社の白朮(おけら)祭(白朮参り)をはじめ、栃木県足利(あしかが)市大岩町の毘沙門(びしゃもん)堂における悪態祭、茨城県笠間(かさま)市泉(いずみ)の愛宕(あたご)神社裏手にある飯綱(いづな)神社における悪態祭(あくていまち)など悪口の言い合いは激しかった。いったいに祭りの場では常の日と異なる挙措言動が目だつもので、悪口もその一種とみなされる。愛知県北設楽(きたしたら)郡東栄(とうえい)町、豊根(とよね)村、設楽町津具(つぐ)の花祭(国の重要無形民俗文化財)、長野県下伊那(しもいな)郡の遠山の霜月祭(国の重要無形民俗文化財)、岩手県平泉町毛越寺(もうつうじ)の延年(えんねん)(国の重要無形民俗文化財)などでも、見物人から演者に対して悪口が飛ばされる。ただし、各地とも悪口の意味が忘れられ、近来はかなり減少してきている。
[竹田 旦]
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