灯火を消して神儀を行う祭りをいう。東京都府中市の大国魂(おおくにたま)神社の5月5日の祭礼は、暗闇祭として有名である。かつては、当日の午後11時に境内の灯火をいっさい消し、12時に8基の神輿(みこし)が御旅所(おたびしょ)に渡御、暗黒のなかに祭儀を執行した。現在は防犯上からも時間を早め、午後4時から行い、その名残(なごり)をとどめている。昔は町内一般の家も灯火を消したので風紀が乱れ、喧嘩(けんか)をする者もあり、喧嘩祭ともいわれた。京都府宇治(うじ)市の6月5、6日の県(あがた)まつりは、5日の夜、神体となる御幣(ごへい)が八番町の長者の家を出て本社に行き、そこで神霊を移し、6日の夜中3時ごろ、本社から御旅所の宇治神社へ渡御する。その沿道の灯火は消され、太鼓を先頭に御幣、獅子頭(ししがしら)、榊(さかき)の祭列が進むが、御幣の紙を参詣(さんけい)人が魔除(まよ)けになるといって奪い合い、悪口を言い合う。この夜、男女間の無礼講の風習が以前はみられたという。静岡県磐田(いわた)市見付の矢奈比賣(やなひめ)神社の旧8月10日の裸祭には、氏子の男子は裸体に藁(わら)の腰簑(こしみの)を着け、暗黒のなかに神輿を奉じ、人声を禁じ、総社淡海国玉(おうみくにたま)神社に奉遷する。その際、町の灯火はすべて消される。暗闇祭の名称はなくても、神輿渡御にあたって神霊を神輿に移すとき一時灯火を消すことは、各地の祭礼で行われていることである。
[大藤時彦]
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