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カタルーニャの歴史と文化
文庫クセジュ896 M・ジンマーマン著 / M=C・ジンマーマン著 / 田澤耕訳
歴史・地理・民族(俗)学
まえがき 千年の歴史
「カタルーニャは千年以上の歴史を有する国である」 ―― これは自治政府大統領ジョルディ・プジョル〔現在は、元大統領〕が好んで使う表現である。彼はこれによって、ある一つの「民族共同体」が、紀元一〇〇〇年より少し前に「固有の領土」という意識を持つに至ったということを言いたいのである。ある民族が、地理的空間を占有することによって自己主張を始めたというわけだ。
カタルーニャは、周辺諸国に対抗して国としての意識を持ちはじめたのちにも、完全な主権を有無を言わさず認めさせる機会にはほとんど恵まれなかった。カタルーニャは単独の君主というものを持ったことがない。唯一の主君を戴き、その法によって支配されたことがない。約一〇〇〇年のあいだ、その歴史は、隣国の歴史に束縛されたり、統合されたり、同化させられたりしてきた。国家を持たないために、カタルーニャ民族はほかの国家の一部を成さざるをえなかったのである。自分の領土にしがみつく、典型的な国家なき民族の地位に甘んじたのである。あるときは隣国や同盟国に存在を否定され、またあるときには破壊されそうになり、存続を脅かされたり、死に瀕したりすることもあった。いや実際、九八五年、〔アラブ軍の〕略奪にあった直後のバルセロナの公文書は「カタルーニャは死んだ」と嘆いてさえいるのである。しかしカタルーニャはそのたびに不死鳥のごとく蘇った。敗れはしても、消滅することはなかったのである。カタルーニャの人びとはジェノサイドに遭ったり、領土を追われたりすることはなかった。外敵の攻撃ををはねつけ、じっとうずくまってきたのである。政治的に支配されれば、経済的成功によってその意趣返しをした。事実、政治的に抑圧された時期と経済的繁栄の時期とのあいだには明らかに関連がある。「われわれは一つの国である」 ―― カタルーニャ人が誇らしげにこう言うとき、彼は、このあたりまえの事実を改めて認めて欲しいと望んでいるわけではない。国としての伝統が途切れずに続いてきたのだということを主張しているのである。
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