~ 『数え方の辞典』収録のコラムより ~
イカやカニなどは生(い)きている時には、「1匹」と数えますが、ひとたび商品となって市場に出ると「1杯」と数えられます。商品になっても「1匹」で数えることはできますが、その場合は、活(い)きの良さ、まるで生きているかのような新鮮さをアピールする場合に限られます。
イカを「1杯」と数える由来には、イカやタコを軟体動物の貝類の一種として「貝(バイ)」と数えたことにちなむとする説もありますが、「1バイ」「2バイ」とは数えません。そのことから、「杯」という漢字にヒントが隠されていると考える説が有力です。「○△杯」と書かれた優勝カップやトロフィーの形を思い浮かべるとわかりやすいと思いますが、漢字の「杯」は胴の部分が丸く、中に水などを注ぎ込めるような甕(かめ)型の容器を表しています。イカの胴体も、イカ飯(めし)やイカ徳利(どっくり)にできるような形になっており、漢字「杯」のイメージにぴったりするので、「杯」で数えるようになりました。そこから派生して、タコをイカと同じ「1杯」で数える数え方が出てきたと考えられています。また、カニの甲羅が丸く容器のような形をしているので、しばしば「1杯」で数えます。また、アワビの殻もそれに似ているので、「1杯」で数えることがあります。
著者:飯田朝子(いいだあさこ)
東京都生まれ。東京女子大学、慶應義塾大学大学院を経て、1999年、東京大学人文社会系研究科言語学専門分野博士課程修了。博士(文学)取得。博士論文は『日本語主要助数詞の意味と用法』。現在は中央大学商学部教授。2004年に『数え方の辞典』(小学館)を上梓。主な著書に、『数え方もひとしお』(小学館)、『数え方でみがく日本語』(筑摩書房)など。
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