コトバJapan! 暮らし の 記事一覧


 「おとふ(豆腐)」がおいしい京都は、むろん「おあげ(油揚げ)」もおいしい。いろんなうどんや丼物、甘味などを提供する食事処では、豆腐店で特別に厚めに揚げてもらった「おあげ」を仕入れている店が多く、「おあげ」に出汁やカレーを吸わせたり、煮込んで「甘きつね」に仕上げたりして、じゅわっと肉感のある「おあげ」を献立の主役として扱っている。

 そのような「おあげ」自慢の京都で発祥した、といわれる独特の丼物が「衣笠丼」である。やや甘味を付けて炊いた「おあげ」を短冊に切り、刻んだ九条ねぎをたっぷり載せて卵でとじ、どんぶり飯のうえに載せてある。丼といえば、関西人は卵とじが本当に大好きで、一般的な親子丼やカツ丼をはじめ、薄く切った蒲鉾と九条ねぎを卵でとじた「木の葉丼」、出汁で溶いた卵だけの玉子丼などと種類が多い。どの丼にも、山椒をたっぷりかけて食べるが特徴だ。そういえば、卓上に用意されている薬味や調味料には、七味唐辛子ではなく、山椒だけが常備されている店も少なくないはずだ。

 「おあげ」とネギに卵が絡み合っている「衣笠丼」。一風変わった「衣笠」という名称は、こんもりとして淡い黄色の色合いが、衣笠山(北区)に由来する、といわれている。衣笠山とは、麓に金閣寺(北区)と龍安寺(右京区)などの名所旧跡を抱える標高202メートルほどの小山で、そのほとんどは松の木に覆われている。山の名は、平安期(899年)に出家して仁和寺に入った宇多法皇が、真夏の雪見を思い立ち、山全体に素絹(そけん、練っていない絹織物)をかけたという伝説に由来し、「絹笠山」や「衣掛山」とも呼ばれている。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 「おくどさん」は「お曲突さん」と書く。「くど」とは「火処(ほど)」を意味しており、前後に「お」と「さん」を付けた最高尊敬語といえるだろう。今日では、火を焚く「かまど」や「かまど」のある場所を意味することばとして使われ、「町家の台所」みたいなイメージで受け取られている場合が多い。だが、本来はかまど神信仰に基づく神様を表したことばである。かまど神とは、「荒神(こうじん)さん」が「かまど」に宿るという民間信仰に基づき、「三宝荒神」を意味している。京都における「三宝荒神」は火伏せ神であり、家の守り神としても大切にされている。

 実際の町家に残っている「おくどさん」では、「かまど」のうちの一つ(通常は大かまど)を「三宝荒神」とし、神棚のように祀っている家が多い。昔はこの「かまど」には、神様の依り代(しろ)となる「榊(さかき)」を欠かさず、火を絶やすこともなかったそうだ。また、「おくどさん」にある「かまど」の数は、縁起の悪い「四」の数を嫌い、「三つかまど」や「五つかまど」、「七つかまど」などの形態が多い。また、「おくどさん」の蓋の形や焚き口には、火難除けの魔除けとして「猪(い)の目」などの装飾が施されている場合が多く、これは家や地域独特の模様となっている。

 今でも薪で火を焚いている「おくどさん」というのは、本当に少なくなってしまったが、昔は焼けるとよい香りを発する栗の皮などを一緒にくべて、「荒神さんを喜ばせていた」というような話を聞いたことがある。京都の町家では「おくどさん」にある荒神棚の伏見人形の「布袋(ほてい)さん」を七体揃え、開運、厄除け、火防(ひぶ)せなどの願いを込めるという風習がある。


愛宕神社の一の鳥居脇にある、あゆよろし・平野屋のおくどさん。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 「ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難して下さい。」

 「ミサイル通過。ミサイル通過。先程、この地域の上空をミサイルが通過した模様です。不審な物を発見した場合には、決して近寄らず、直ちに警察や消防などに連絡して下さい。」

 8月29日、午前6時過ぎ。北関東以北の地域で、携帯電話やスマートフォンから突然、警報音が鳴った。警報の正体は、総務省消防庁の「全国瞬時警報システム」で、通称・Jアラートだ。

 ほどなくして、菅義偉(すが・よしひで)官房長官は緊急記者会見を開き、北朝鮮が発射したミサイルが日本の上空を通過して、襟裳岬沖の太平洋上に落下したことを報告。北朝鮮の脅威を強調したが、突然の緊急情報に戸惑いを覚えた人も多いのではないだろうか。

 Jアラートは、2007年に運用が始まった国の情報システムで、対処するのに時間的余裕のない緊急を要する事態が発生した場合に、国が直接、国民(住民)に情報を伝えることを目的としている。

 Jアラートの伝達方法は、市町村の防災無線と携帯端末のエリアメールの2種類。

 現在、すべての地方自治体がJアラートに対応しており、総務省消防庁が情報を送信すると、人工衛星を通じて市町村の防災無線が自動的に起動し、屋外スピーカーから緊急情報が流されるようになっている。

 また、携帯電話会社を通じて、個人の携帯端末にエリアメールや緊急速報メールが流されるようになっている。ただし、格安スマホを利用している場合は緊急情報が届かないこともある。緊急情報を受け取りたい場合は、一部の市町村が実施している登録制メールを利用する方法などがある。

 配信される情報は全部で25項目で、「内閣官房による有事関連情報」と「気象庁による気象関連情報」の2つに大別される。

 有事関連情報は弾道ミサイル情報、航空攻撃情報、ゲリラ・特殊部隊攻撃情報、大規模テロ情報など。気象関連情報は、緊急地震速報、大津波警報、津波警報、噴火警報(居住地域)、気象等の特別警報などだ。

 8月29日に流されたのは前者の有事関連情報で、北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、長野の12道県が対象となった。

 今回のJアラートでは、1つめのミサイル発射の情報が流されたのは午前6時02分。その12分後の6時14分には、ミサイルが通過したことを伝える2つ目の情報が流れている。つまり、北朝鮮からミサイルが発射されれば、10分程度で日本の国土に届くというわけだ。

 1つめのJアラートでは、「頑丈な建物や地下に避難して下さい」と警告したが、ほんの数分の出来事に対処できる人はほとんどいなかったはずだ。

 今回は、幸運にもミサイルは日本の上空を通過したが、もしも日本の国土にミサイルが落ちていたら多くの人の尊い命が奪われていた可能性もある。

 一部には、日本政府は今回のミサイル発射を事前につかんでいたという報道もある。本気で国民の命を守ろうと思っているなら、もっと早い段階での情報提供があってしかるべきだろう。

 国民の命にかかわる緊急情報を伝えるJアラートの存在は重要だが、有効活用するためには、個人が対応しうるような情報でなければ、注意喚起ではなく、たんに国民を不安に陥れるだけの狼少年になりかねない。

 いつ起こるかを人間が予測できない自然災害とは異なり、近隣諸国との衝突は外交努力によって有事への発展を避けられるはずだ。北朝鮮をめぐる状況は、日に日に緊迫感を増している。だが、かの国でも、愛する家族のいる普通の人々が暮らしている。最後まで武力に頼らない対話での解決を求めたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子