学習図鑑の過去と今のおもしろトピックスを紹介します。毎月15日ころ更新予定。
2016-09-15
学習図鑑を読んでいる子どもたちは気づいていると思いますが、図鑑はいわゆる「分類」によって並べられているものだけではありません。とくに植物!
同じキク科の草でも、ハルノノゲシとノコンギクでは咲く時期がおよそ半年近くも違うので、同じページに載っていても、調べる植物の候補が多くなるだけで使い勝手がよくありません。種類によって花の咲く時期がまちまちですので、「キク科」「イネ科」などの分類順に並べてしまうと、「使いにくい」図鑑になってしまうのです。
そこで学習図鑑草創期より採用されているのが、「季節順」「環境順」あるいはその「合体型」であります。小学館の学習図鑑第1号『植物の図鑑』(1956年発行)では、冒頭より「春の庭」「春の野」「春の山」などという季節・環境合体型のページ順になっています。
後継シリーズの小学館の学習百科図鑑『植物の図鑑』(1971年発行)も季節・環境合体型で、「春の花だん」「春の庭木」「春のしめった野原」「春の山の草」…などとなっています。
(図05)小学館の学習百科図鑑『植物の図鑑』(1971年発行)
(図06)「春の庭木」 前シリーズの並べ方を踏襲しています。
さらに小学館の図鑑NEO「植物」(2002年発行)では、「身近な植物・春」「山の植物・春」の大きなくくりの中に、「草花」「木」を分けて並べていて、基本的な並び順は、やはり季節・環境合体型です。
(図10)「身近な植物・春 草花」現代の学習図鑑も季節と環境を中心に掲載。
「アゲハチョウのなかま」「セミのなかま」あるいは「タイのなかま」など分類順に並べている「昆虫」や「魚」の巻にくらべますと、根本的な考え方が異なっているのです。
(図13)「アゲハチョウのなかま」 小学館の図鑑NEO『新版昆虫』
最近、「それで本当によいのだろうか」という議論も、頻繁におこなわれるようになりました。とくに近年ではDNAを根拠にした分類が盛んになってきており、その分類こそ、子どもに伝えるべきであるという意見もあります。そこで登場したのが、2014年発行の小学館の図鑑NEO『花』であります。この本では、従来の「季節順」「環境順」の並べ方を捨て去り、純粋に分類順に掲載しているのです(しかも最新のDNA分類による、「APG分類」順。一般向けの植物図鑑もやっていなかったことを、児童書がさりげなくやっている!)。
(図17)「タンポポ・ノゲシのなかま」 学習図鑑の常識を破った、分類順!
(図18)「シソのなかま」分類順ですと、近いなかまの植物の共通性がわかります。
(図19)「ミカンのなかま」果実も花もよく似ていることがわかりますね。
この並べ方が読者の子どもたちに浸透してゆくのか否か、結論にはしばし時間が必要になりますが、今のところ無理なく受け入れられているようです。あまり知られていませんが、植物の学習図鑑の世界で、実は大きな革命が起きようとしているのです!
<引用文献>
『小学館の学習図鑑 ① 植物の図鑑』(本田正次 牧野晩成 監修1956年)
『小学館の学習百科図鑑 ① 植物の図鑑』(本田正次 牧野晩成 監修1971年)
『小学館の図鑑NEO ② 植物』(畑中喜秋 和田浩志ほか指導・執筆 2002年)
『小学館の図鑑NEO新版昆虫』(小池啓一 監修 2014年)
『小学館の図鑑NEO新版魚』(井田齊 松浦啓一ほか監修 2015年)