図鑑 今昔ものがたり

学習図鑑の過去と今のおもしろトピックスを紹介します。毎月15日ころ更新予定。

第9回 ~昔の図鑑のイラスト表現②~

『小学館の学習図鑑シリーズ 動物の図鑑』より

2017-04-28

前回に続き、『小学館の学習図鑑シリーズ』から、昔の図鑑を検証してゆきます。今回は昭和33年に発行された『動物の図鑑』です。

まずは扉ページ。前回ご紹介した『魚貝の図鑑』の扉では「磯で採集している子どもたち」が描かれていましたが、『動物の図鑑』だけに「動物園でキリンを眺めている子どもたち」が主役です。この光景は、じつに現代でもよく見られますよね。今も昔も、動物園は子どもたちにとって、貴重な観察の場であります。キリンに手を振る女の子の後ろ姿もかわいい。


(図1)『小学館の学習図鑑シリーズ⑪動物の図鑑』扉

そして、この時代の図鑑に見られる代表的な手法。パノラマ画であります。この見開きでは、東南アジアにすむ森林・水辺の動物が、1本の木を中心に所狭しと描かれています。樹上にはおもにサルのなかま。地面にはマレーバクをはじめ、センザンコウ、マレーグマ、バビルサまで…。まさに動物たちの楽園であります。このような密度で動物が集う光景はもちろんあり得ませんが、想像力を掻き立て、眺めているだけで楽しくなってきます。


(図2)見開きに描かれたパノラマ画。1つの画面に収められた動物たち。

この表現方法については、本書の監修者である古賀忠道・上野動物園長(当時)による巻頭言で、以下のように語られています。

「この動物の図鑑は、いままでに出版されている、いろいろの動物図鑑とは、たいへんちがっています。この図鑑では、同じ地方にすんでいる、いろいろの動物たちが、同じ場面にいっしょにえがかれていて、動物の生活のありさまが、そのままわかるようになっています。 中略 みなさんは、この図鑑をみていると、自然に楽しくなることと思います。そして、いつのまにか、たくさんの動物について、いろいろのことを知ることができるでしょう。」


(図3)古賀忠道氏による巻頭言

学習図鑑というジャンルは、実は日本でしか見られないといってもよい、世界的には特異なジャンルです。その学習図鑑の大きな役目である「楽しみながら知る」という思想が、すでにこの場に書かれているのです。古賀先生は続けます。

「動物たちも、わたくしたちと同じように、この世界の中で生活しています。みなさんは、動物たちの生活をよく理解して、みなさんのお友だちと同じように、動物たちとも仲よくなってください。わたくしは、みなさんがこの図鑑によって、動物のことをよく知り、そして、そのことが動物を愛するもととなるように願っています。」

さて、いくつか別のページを見てみましょう。


(図4)ヨーロッパ


(図5)南アメリカ


(図6)日本

ヨーロッパヤマネコは灌木の上で佇み、ジャガーがアメリカバクを襲っています。パノラマ画のなかでは、動物たちはさまざまな行動をしていて、その生きざままでが表現されています。この「なにかやっている動物たち」をいかに面白く盛り込めるか、図鑑画家の腕の見せ所です。また最後の「日本」のページでは、「にほんぐま」と表記されているクマが見られます。このクマが「ツキノワグマ」と呼ばれるようになったのはいつの時代なのか。昔の図鑑からは、動物の名前の変遷も垣間見ることができるのです。

そしてこの時代の図鑑に特徴的なのは、巻末に展開される解説ページ。ここでは、カラーのパノラマ画を補足する情報がより詳しく説明されています。


(図7)巻末の解説ページ「身のまもりかた」


(図8)いろいろな「身のまもりかた」

身のまもりかた。「すずがえる」は腹を見せて敵をおどろかせ、「やまあらし」は体中のとげを逆立てています。「キューバのひきがえる」…ほんとうにこんなのがいるのだろうか…。


(図9)巻末の解説ページ「子のそだてかた」


(図10)いろいろな「子のそだてかた」

子のそだてかた。「アリゲーター」は枯れ草などで巣をつくり、「ダーウィンがえる」はおすがのどのふくろに子ガエルを入れて守っています。「ひぐま」の親子も愛らしい。


(図11)巻末の解説ページ「動物のとらえかた」より


(図12)いろいろな「動物のとらえかた」より

そして動物のとらえかた。

かばやぞうは、本当にこのような方法で捕まえるのだろうか…。


(図13)各動物の解説

そしてこの時代の図鑑に特徴的なのは、巻末のモノクロページに、各動物の解説をまとめている点です。パノラマ画を邪魔しないよう、しかも解説に一定のボリュームを出すための、理にかなった構成です。


(図14)後ろ見返し

これは後ろ見返し。こうして1冊を通してみますと、1冊のなかに「起承転結」が明確に存在し、当時の図鑑が「図鑑」だけの機能ではなく、1冊のものがたりを眺めているような気分になります。この物語性こそが、ただの種の羅列でない、日本が誇る「学習図鑑」の神髄ではないかと思うのです。この要素は、実は過去だけでなく、現代の学習図鑑にも脈々と受け継がれている思想でもあるのです。