学習図鑑の過去と今のおもしろトピックスを紹介します。毎月15日ころ更新予定。
2016-12-19
(図1)『小学館の学習図鑑 ③ 魚貝の図鑑』(末広恭雄 黒田新市 監修1956年)
小学館から60年前に出版された『学習百科図鑑 魚貝の図鑑』を眺めていましたところ、はっと驚く記述をみつけました。
「アオギス 東京湾に多い。体長は50㎝くらいになる」・・・・・・
東京湾に多い!!
この魚、東京湾では1962年(昭和37年)を最後に姿を消している、つまり絶滅しているはず。図鑑の出版が1956年(昭和31年)ですから、「東京湾に多かった」アオギスは、わずか6年の間に絶滅に追い込まれてしまったことになります。東京湾の干潟は昭和30年代に急速な埋め立てがおこなわれていますが、その環境変化がいかに大きいものであったのかを物語る事例であります。敏捷であるが故に船釣りでは側へ寄ってこない為に考案され、かつて有名な魚類学者・田中茂穂博士に「東京での遊漁ではキスよりもアオギスの方が面白いのである」(図説有用魚類千種 1955年 森北出版刊)と記述された「アオギスの脚立釣り」という東京湾ののどかな風物詩も、あっという間に消えていったのです。
ほかにも興味深い記事がありそうだと読み進めてゆきますと・・・。
「いそでゴカイをほっているところ」
何やら貝を掘るときに使う「ジョレン」のような器具で、大がかりにゴカイを掘っている図が載っていました。今では、釣り餌のゴカイは養殖物を釣具屋さんなどで買うのが一般的ですが、かつてはこのように人力で掘った「天然物」が使われていたことが推察されます。
一方、このような記事もありました。
「金魚の飼い方」。
「ワキンが一ばん安くリュウキン、デメキンがこれにつぎ、ランチュウやオランダシシガシラはずっとねだんがたかい」
今でも観賞魚屋さんを覗きますと、この一文に登場する金魚が店頭を賑わせていますが、値段の付き方もやはり同じ。ワキンが一番安く、ついでリュウキン、デメキン、ランチュウやオランダシシガシラとなっていることがわかります。60年たっても、この序列は変わらないのですね。
そして、私個人的に最大のナゾが下の記述。
「魚屋の店先のコチ」
紹介されているのは、「マゴチ」と思われますが、噴水のように水をかけて酸素を供給し、魚屋さんで生かして売っている!この見慣れぬ装置は?タンクの水圧で水が噴き出す仕組みになっているように見えますが、水はすぐになくなってしまわないのか?などなど、疑問が増すばかりです。この装置、正体がわからないのですが・・・どなたか、ご存知の方はいらっしゃいますでしょうか?
<引用文献>
『小学館の学習図鑑 ③ 魚貝の図鑑』(末広恭雄 黒田新市 監修1956年)
『図説有用魚類千種(田中茂穂 阿部宗明 共著 1955年 森北出版)』