学習図鑑の過去と今のおもしろトピックスを紹介します。毎月15日ころ更新予定。
『小学館の学習図鑑シリーズ 理科実験の図鑑』より
2017-09-25
毎年8月下旬になりますと、図鑑編集部に何件かのお問い合わせをいただきます。それは、「子どもの自由研究に何をやったらよいの?」というもの。なぜか子ども本人でなく、お母さんがかけてこられることが多いです。夏休みも後半にさしかかる微妙なタイミング・・・なんと8月31日の午後8時にかけてきてくださったこともありました。電話口の後ろでは、締め切りまであと一晩だというのに、まだな~んにも手が着いていないお子さんが泣き叫ぶ、悲痛な声が・・・。
そこで今回は『理科実験の図鑑』を取り上げてみましょう。
(図1)『小学館の学習図鑑シリーズ⑱ 理科実験の図鑑』昭和34年刊
理科実験・・・私もかつて自由研究で苦い経験をしました。輪ゴムの力で動く(はずの)箱で作った自動車。ゴムの強さや箱の重さ、車輪の強度などの一切を考えずに、ただの思いつきで組み立てていったのはよかったのですが、できあがった車(らしきもの)は、動力の輪ゴムをまいても、ピクリとも動かず・・・。今考えると、ゴムの太さにしては、箱があまりにも大きく重かった。そんな想像力もない私は、前述の電話口の子どもと全く同じように、絶望感に、ただただ泣き叫ぶばかりでした・・・。
それはそうと、今回も巻頭から見てみましょう。
この巻で本シリーズ初登場の、白井俊明・東京理科大学教授による以下の巻頭言から始まります。
科学や科学技術の発達が、わたくしたち人類のはん栄のもとになっていることは、よく知られていることです。ことに、それが宇宙旅行の計画や原子力利用の研究とむすびついて、いまや科学的研究方法や科学技術をどう利用したらよいかということに、世界じゅうの人が努力しているときです。こうしたときに、知識を吸収するだけが科学のべんきょうだと考えていると、とんでもないおくれをとることになります。
昭和34年・・・すでに今から60年前の時代から、知識吸収型の勉強方法に警鐘が鳴らされています。今と同じでは!!
ここで、理科の学習に実験・観察がかくことのできないたいせつなものだということになってくるのです。その実験・観察も、たんなる「あそび」におわってしまっては役にたちません。その実験・観察の結果の説明を考えたり、さらにすすんで、新しい実験を計画したりする態度と能力を養うようにしなければなりません。
巻頭言では最後まで、科学的リテラシーの大切さが訥々と語られています。詰め込み一辺倒の勉強は否定され、「自分の頭で考えよ」と説いているのです。
さてこの本の冒頭には、いきなり凄いページが登場します。それは、「遊び場の理科実験」。この時代の特徴である見開きの「漫景図」に、たくさんの子ども達が遊んでいます。よく見ると・・・。
わわっ、「きりふき」で虹を作っている!(しかもよだれかけをした幼児!)
走って風車を回している!(やはり、よだれかけをした幼児がいる!)
こちらでは、夕日を手鏡で反射させている!
漫景図は、「動物」然り、「魚」然りで、テーマをより効果的に表現するためにありえない光景を描くことが常ですが、「科学実験」の漫景とは・・・。すでに学習図鑑における漫景図の究極の形を見た気がいたします。この絵の中には、まだまだたくさんの「科学実験」がひそんでいます。ぜひ目をこらして見つけてみてください。
いよいよ図鑑ページを見てみましょう。この図鑑では、テーマごとに分けられた、たくさんの科学実験が見開きを目一杯使って詰め込まれています。
「はなれないきゅうばん」トイレ掃除用の吸盤を2つ合わせて、二人で引っ張り合いをしています。左の子どもの楽しそうなこと。でも、子どもの力ではとれないだろうなあ・・・。すっぽ抜けると怪我をしそうなので、今の図鑑では注意書きのひとつも入れたくなります。
「そばのブランコをひくと、反作用のために自分のブランコもひきよせられます。」
なるほど、その様に考えて遊ぶと、ひと味違った楽しみ方ができますね。
「おどりだすゴム管」。なるほど!車を洗っていたり、庭の水まきをしていて勝手にホースが暴れ出し、濡れねずみになってしまうことがありますが、あれは作用と反作用の影響だったのですね。勉強になります。
なんと見開きのテーマが「飲料水!」
この図に示されている「水こし器」は素敵です。大きな木製のおけの中に、大小のじゃり、しゅろ、玉石などを、きれいな層状にして濾過する仕組みです。その中には、なんと木炭まで。この水こし器を使えばきっとニオイのない、澄んだおいしい水が飲めることでしょう。これなどは、真剣に自由研究で作ってみたいです!
そして巻末には、あらゆる実験器具をモノクロのイラストで掲載した、「実験のやり方」。かっ車、シャーレ、にゅうばち、アルコールランプ・・・無機質な実験器具が、こうして並べるだけでとても楽しく、魅力のあるもののように思えてきます。
「科学実験」をテーマにした図鑑は、「動物」や「昆虫」「植物」などの基本図鑑に比べ、対象読者が若干高学年になります。必然、潜在的な読者数も比較的少なく、担当編集者達はあらゆる知恵を駆使して、いかに楽しく図鑑を読んでいただけるか、という努力を普段以上にすることになります。その結果が、ご紹介した巻頭の漫景図であったり、本文の至る所にちりばめられた楽しい図版であったり、巻末の「実験のやり方」にみるような、無機質な物をとても楽しく見せる工夫であったりするのです。しかしそれだけに、図鑑を作る楽しさのようなものも、他の基本図鑑以上のものになっていたことは間違いありません。この図鑑には、そんな編集者の楽しいアイデアと試みが、これでもかと詰まっているのであります。
<引用文献>
『小学館の学習図鑑 ⑱ 理科実験の図鑑』(白井俊明 金子淳一 加藤武男 共著 1959年)
*本連載に掲載されている図版について、著作権者または著作権継承者の方に許諾をいただいております。しかし、調査を行いましても連絡先の不明な方がいらっしゃいました。
つきましては、著作権者、著作権継承者の方のお申し出をいただきたいと思います。
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小学館 図鑑編集部 03-3230-5421