図鑑 今昔ものがたり

学習図鑑の過去と今のおもしろトピックスを紹介します。毎月15日ころ更新予定。

第12回 ~昔の図鑑のイラスト表現⑤~

『小学館の学習図鑑シリーズ 採集と標本の図鑑』より

2017-08-03

夏到来!夏といえば夏休み、夏休みといえば、自由研究。そして自由研究といえば・・・そう、「採集」と「標本」です。半ば強引ですが・・・。今回は、なんと『採集と標本の図鑑』です。


(図1)『小学館の学習図鑑シリーズ⑰採集と標本の図鑑』昭和34年刊

昆虫採集・・・子どもの頃、散々行きました。当時の自宅は埼玉県所沢市。40年ほど前の所沢は、いわゆる「武蔵野の雑木林」がまだ多く残っており、家のすぐ近くで夜半のカブトムシやクワガタ採りに興じたものです。バナナや特製の蜜を木に塗って虫をおびき寄せる「昆虫トラップ」なんてものは全然必要がなく、クヌギ林に行けば大量のノコギリクワガタに出会えたものでした。しかし今・・・雑木林はみじんも見られず。今の子ども達が、気の毒でなりません。すべては我々大人の責任です!

それはそうと、さっそく懐かしの『採集と標本の図鑑』をみてゆくことにしましょう。


(図2)前後の見返しには、素敵な昆虫採集のイラストが。


(図3)『採集と標本の図鑑』巻頭言と扉ページ

同じ学習図鑑シリーズの『植物の図鑑』の巻頭言で素敵なメッセージ(連載第2回参照)を執筆された本田正次東京大学教授の、またまた素敵な言葉が書かれています。

動物や植物の勉強は夏休みだけではいけません。春夏秋冬のいつでも、また野原・山・川・沼・海のどこでも観察したり採集したりしなければなりません。

そうか、動物や植物の勉強は、夏休みの自由研究だけではいけないのです。小生の周囲にも、生物の知識が至極豊富な尊敬すべき方々が多くおられますが、総じて一年中、何かしら生き物を観察しています。

本田教授はまだまだ続けます。

この本はみなさんがいつどこへ行っても正しく動植物の種類やなかまを見わけながら採集したり、またそれらをりっぱな標本に作ったりするためにたいへん役に立つ図鑑ですから、今までの図鑑と同じようにかわいがってください。

立派な標本作りを礼賛しています。昆虫が激減してしまった今、標本作りを奨励する学校は非常に少なくなったと聞きます。60年ほど前の図鑑ならではの実に羨ましい記述であります。


(図4)チョウの標本作り


(図5)チョウの標本作り(2)

実際の標本作りの解説ページも、チョウだけで2見開きも費やしており、非常に丁寧に標本の作り方を説明しています。また、そのほかのグループのページでは・・・。


(図6)ガを手で捕まえる

なんとガを手で捕まえています(私もたまにやりますが)。別に悪いことではないのですが、なんとも大胆な紹介です。


(図7)幼虫の標本作り

幼虫は「しりの先から内ぞうをしぼりだし」、「ガラス管の先に、内臓をしぼりだした幼虫をしばりつける。」そして、「息をふきこみながら、熱で乾燥する」のだそうです。なかなかすごい。


(図8)コオロギなどの標本作り

コオロギは、なんと・・・頭を半分外して、ピンセットで内臓を取り出しております。


(図9)クモの標本作り

クモは・・・湯で殺す!! そういえば昔、自宅の土間に出現した大きなムカデに、自分の母親がやかんいっぱいの熱湯をかけた上で、これでもかと踏んづけて殺しているのを見たことがあります。すでに原型をとどめていない哀れなムカデに対し、「まだ生き返るから」といってこれでもかと・・・。ふと、そんな大むかしの記憶が蘇りました。


(図10)クモの乾そう標本の作りかた

熱湯で殺したクモは、幼虫と同じように乾燥させます。丁寧に「はらをきりはなし」て、ガラス管の先に付けて息を吹きながらであります

これは、『採集と標本の図鑑』のほんの一部の記述。このほかにも、植物からカタツムリ、砂浜の小動物から化石、鉱物にいたるまで、さまざまなグループの採集と標本作りの紹介がなされているのです。2017年の夏、私たちがこのような図鑑を出版したとすれば、誌面で紹介する生き物の種類は、かなり変わってくるものと思われます。それは、開発などで極端に数が減ってしまったり、姿を消してしまった虫たちや、外来種の猛威に自然の端に追いやられてしまった在来の植物しかり。そしてそもそも、昆虫採集がまるで「悪」のように扱われてしまう風潮。おそらく「作っても売れない」のひと言で、『採集と標本の図鑑』の新刊企画自体が消滅してしまうものと思われます。

この本が出たのが約60年前。60年後の学習図鑑がどのようになっているのか・・・。残念ながら私は見ることが出来そうにありませんが、大いに気になるところであります。

<引用文献>
『小学館の学習図鑑 ⑰ 採集と標本の図鑑』(本田正次 牧野晩成 監修 1959年)

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