学習図鑑の過去と今のおもしろトピックスを紹介します。毎月15日ころ更新予定。
『小学館の学習図鑑シリーズ 音楽の図鑑』より
2017-06-30
2017年夏現在、書店の児童書売り場には、各社から出版されたあらゆるジャンルの図鑑が所狭しとひしめいております。改めて図鑑という出版物の無限の可能性を感じます。
そこで今回は、過去に小学館から出版されたちょっと風変わりな図鑑を紹介します。
それは、何と・・・。
(図1)『小学館の学習図鑑シリーズ㉖音楽の図鑑』昭和39年刊
音楽の図鑑・・・どのような図鑑なのだろう。そもそも「音楽」を図鑑にできるのか?など、タイトルを聞いただけで想像力をかき立てられます。巻頭言には、下記の文言が。
「この図鑑は、みなさんが音楽を勉強したり、また音楽をいっそう深く楽しむのに役だてるために、音楽に関するいろいろな事がら-たとえば歌の歌いかた、楽譜の知識、楽器の正しい演奏法、音楽鑑賞のしかたや楽曲の聞きどころ、あるいは創作のもとになるたいせつな知識など-を総合的に集めました。」
なるほど、図鑑というよりも、「百科」的な内容なのかもしれません。さっそく、最初の見開きをめくってみました。
おお、いきなり「音楽のはじまり」。そこからですか。しかも、古代人が車座になり、半裸で歌い踊っています。
「音楽はどのようにして起こったのでしょう。おおむかし、人びとは、野山でかりをして、食物を手に入れましたが、たくさんのえものがとれると、みんなでおどったり歌ったりして喜び合いました。また自然の中で神様を信じ、それを祭るのにも、この絵のように、歌いおどったのでした。そのほか戦いや遊びや愛情表現の中で、自然に音楽が生まれ出てきたものと考えられます。」
私たちがふだん何気なく聞き、歌う音楽。これは、人間が本来もつ、ごく自然な営みと考えてよさそうです。
ページを繰って行くと、3見開き目に「くらしと音楽」なるページがありました。
「みなさんは、人間と生活と音楽とが、どんなによく結びついているかを考えてみたことがありますか。私たちの生活のまわりには、おどろくばかりの多くの音楽があるのです。」
日常生活にまつわる様々な「音楽」が紹介されています。
奥様が歌いながら洗濯をする図。描かれている「絞り器」のような謎の器具はさておき、じつに楽しそうです。さらに「のめや歌えやの花見」。いつの世も、宴会は楽しい場です。アコーディオンや三味線も登場して、大変盛り上がっております。そして「みんなで歌うハイキング」!私もよくハイキングに行きますが、歌を歌いながらハイキングというのは、最近はほとんど見かけませんね・・・。
お次は、「声の出しかた」の見開き。こちらも丁寧な図解入りで、美しい声の出し方を解説しています。
これは実にわかりやすい。私がカラオケでうたうときには、完璧に顎を出し、お腹を突き出した悪い例の姿勢になっているに違いありません。これでは絶対に良い声なんか出ませんよね。「はらを引きすぎた悪い姿勢」。こんな形になっている人も、クラスに一人ぐらいはいたような。母音の口の形も参考になります。今すぐ発声練習へ!
そして本書の後半戦は、親しまれている名曲の解説です。
「アルルの女」で踊る実に楽しげな娘たち。ブドウ摘みの穏やかな秋の日和が伝わってくるようです。「ボルガのふな歌」における、労働者たちの苦役の様子。「金婚式」では、一族のほのぼのとした祝賀の空気が伝わってきます。そして「日本の子もり歌」。とても紹介しきれませんが、この様な展開が延々と続きます。子どもに興味を持ってもらえるよう、躍動感溢れるイラストで音楽を表現した傑作のページであります。
これらは本書のほんの一部。この図鑑では全編にわたり、きちんと描かれたイラストがびっしりと詰まっています。解説しにくい「音楽」という抽象的なテーマを、いかに読者の子ども達に伝えるか。優れたイラストを描いた画家のみならず、この表現方法を考えた編集者の苦悩と努力が手に取るようにわかります。図鑑は「昆虫」や「恐竜」だけではない。この図鑑からは、あらゆるものが、図鑑になり得る可能性を感じることが出来るのです。
*本連載に掲載されている図版について、著作権者または著作権継承者の方に許諾をいただいております。しかし、調査を行いましても連絡先の不明な方がいらっしゃいました。
つきましては、著作権者、著作権継承者の方のお申し出をいただきたいと思います。
また、著作権者、著作権継承者の方の連絡先に関する情報をお持ちの方は、下記連絡先までご連絡くださいますようお願いいたします。
小学館 図鑑百科編集室 03-3230-5421