(さらしなにっき)
菅原孝標女
平安時代の中流貴族の女の半生をつづる仮名日記文学
『源氏物語』に憧れていた少女――菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)は、13歳の時に、父の任国・上総国(千葉県)より京に上る。その出来事より筆を起こし、夫・橘俊通(たちばなとしみち)と死別した翌年、52歳のころまでの約40年間の半生を振り返った自伝的回想記。平安の女性の宮仕え、結婚、出産などの様子が垣間見られる。平安女流日記文学の代表作のひとつ。
[平安時代(1060年ごろ成立)][日記]
《校注・訳者/注解》 犬養 廉
(さぬきのすけのにっき)
藤原顕綱の娘長子
夭折した天皇を看取った、宮廷女房の愛情あふれる日記
作者は、堀河天皇に典侍(ないしのすけ)として仕えた、藤原顕綱(あきつな)の女(むすめ)、長子。女房名を「讃岐典侍(さぬきのすけ)」と言う。上下二巻の日記で、上巻では堀河天皇の発病から崩御に至るまでが記され、下巻では幼い鳥羽天皇へ再出仕した様子が描かれる。文中には、堀河天皇と男女の関係にあったとされる長子の堀河天皇への愛情が溢れている。
[平安時代(1109年ごろ成立)][日記]
《校注・訳者/注解》 石井文夫
(はままつちゅうなごんものがたり)
作者未詳
輪廻転生と夢のお告げがキーとなる数奇な物語
亡き父への思い断ちがたく、母の再婚相手を疎んじ……、という青年(中納言)が主人公。再婚相手の娘に恋し、亡き父が唐土(もろこし)の皇子に転生していると聞けば大陸に渡ってその皇子の母に恋をし……、という大がかりな舞台設定のファンタジー。『更級日記』の菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)の作とも言われる。三島由紀夫の最後の長編小説『豊饒の海』のモチーフになった作品。
[平安時代(1062年ごろ成立)][物語]
《校注・訳者/注解》 池田利夫
(よるのねざめ)
作者未詳
寝覚めては許されぬ愛に思い悩むヒロインを描いた女流文学の傑作
主人公は美少女・中の君(寝覚の上)。姉の許嫁と許されぬ一夜を契り、懐妊してしまう。義兄妹の許されぬ愛に、〈例の寝覚めの夜な夜な起き出でて……〉と、ヒロインは事あるごとに寝覚めては悩み苦しむ。文中、何度も登場する〈寝覚め〉の描写を通して、揺れる女心を描写する。『浜松中納言物語』と同じく、菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)の作とも言われる。中巻・末尾に欠巻あり。
[平安時代(1045~68年ごろ成立)][物語]
《校注・訳者/注解》 鈴木一雄
(さごろもものがたり)
源頼国の娘の禖子内親王宣旨(ばいしないしんのうせんじ)
光り輝く美貌の貴公子の悲恋を描いた王朝物語の秀作
〈いろいろに重ねては着じ人知れず思ひそめてし夜の狭衣〉と、主人公の狭衣の君は、従妹の源氏の宮への思慕の情を歌にするが、思いは拒絶される。以後、さまざまな女性と恋をするが、付き合う女性たちは皆身を破滅させ、狭衣の君の憂愁だけが深まっていく。悲恋を描いた平安後期の物語。『源氏物語』の影響が色濃く、その趣向を発展・高揚させたとの高い評価を得ている。
[平安時代(1077~81年ごろ成立)][物語]
《校注・訳者/注解》 小町谷照彦 後藤祥子
(えいがものがたり)
作者未詳
藤原道長の栄華を中心に、平安時代を編年体で記す歴史物語
宇多天皇(887年~897年在位)から堀河天皇(1087年~1107年在位)まで15代、約200年間の仮名文の編年史。権勢をふるった藤原道長のエピソードをはじめ、宮中の権力争いや貴族の生活、思想を、年代を追って描く。全40巻で、初めの30巻を正編、あとの10巻を続編とよび、正編の作者を女流歌人・赤染衛門(あかぞめえもん)とする説などがあるが正続ともに作者未詳。
[平安時代(正編1028~34年ごろ成立、続編1092~1107年ごろ成立)][物語(歴史物語)]
《校注・訳者/注解》 山中 裕 秋山 虔 池田尚隆 福長 進
(おおかがみ)
作者未詳
摂関家藤原氏の隆盛を描く人間ドラマ、傑出した歴史物語
道長の栄華を中心に、平安時代の出来事を、二老人の昔語りを歴史好きの若侍が批評する形で描いた紀伝体の歴史物語。虚構を交えながら逸話の積み重ねでつづる。文徳天皇の850年から後一条天皇の1025年まで、14代176年間の歴史を描いた。『大鏡』で用いられた、問答、座談形式の歴史叙述はその後の『今鏡』『水鏡』『増鏡』にも用いられ、これらを称して「鏡物(かがみもの)」という。
[平安時代(1086~1123年ごろ成立)][物語(歴史物語)]
《校注・訳者/注解》 橘 健二 加藤静子
(こんじゃくものがたりしゅう)
作者未詳
1000以上の説話を載せる、仏教&世俗説話の集大成
〈今昔(いまはむかし)……〉で始まる和漢混交文で書かれた1059の説話を、1~5巻「天竺(てんじく)部」(インド)、6~10巻「震旦(しんたん)部」(中国)、11~20巻「本朝(日本)仏法部」、21~31巻「本朝世俗部」の31巻で構成。このうち本朝仏法・世俗部を収録。内容は多岐にわたり、貴賎上下も老若男女も、はては犯罪者や霊鬼・妖怪まで跳梁暗躍する。編者成立年ともに未詳。
[平安時代(1120年以降成立)][説話]
《校注・訳者/注解》 馬淵和夫 国東文麿 稲垣泰一
(すみよしものがたり)
作者未詳
継母の執拗な妨害をかいくぐって掴み取る女の幸せ
『枕草子』や『源氏物語』の中でも、名がふれられている有名な物語で、原型は平安時代に成立か。原作は散逸し、現在残っているものは、鎌倉時代初期の改作と言われる。主人公は、中納言の姫君。継母は継子である中納言の姫君に求婚した四位少将を、自分の娘の夫にしようと企み、姫君の結婚を執拗に妨害する。最後は、長谷寺観音の霊験のおかげでハッピーエンド。
[平安時代~鎌倉時代初期][物語]
《校注・訳者/注解》 三角洋一
(とりかえばやものがたり)
作者未詳
男装の姫君と女装の若君の波瀾万丈な宮廷生活を描く
権大納言に瓜二つの異母兄妹がいたが、兄は内気で人見知り。妹は外向的で活発。そんな二人を見て、父の権大納言は「とりかへばや」(二人を取り替えたいなあ)と思い、若君を娘、姫君を息子として育ててしまう――。性別が入れ替わった異母兄妹の数奇な運命を描いた物語。同性愛、ジェンダーの違和感など、今日的なテーマも描かれる。平安末期に成立したとされるが、作者は未詳。
[平安時代末期][物語]
《校注・訳者/注解》 石埜敬子