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御伽草子

ジャパンナレッジで閲覧できる『御伽草子』の世界大百科事典のサンプルページ

改訂新版 世界大百科事典
御伽草子
おとぎそうし

狭義には,江戸時代に〈御伽文庫〉としてセットで刊行された絵入刊本23編をさす。すなわち《文正さうし》《鉢かづき》《小町草紙》《御曹子島渡》《唐糸草子》《木幡(こわた)狐》《七草草紙》《猿源氏草紙》《物くさ太郎》《さゞれいし》《蛤(はまぐり)の草紙》《敦盛》《二十四孝》《梵天国》《のせ猿さうし》《猫のさうし》《浜出草紙》《和泉式部》《一寸法師》《さいき》《浦嶋太郎》《横笛草紙》《酒呑童子》がそれで,《酒呑童子》の奥付に〈大坂心斎橋順慶町 書林 渋川清右衛門〉の刊記があることから,渋川版とも呼ばれている。23編23冊の揃い本は享保年中(1716-36)の刊行とされるが,もとのかたちはさらにさかのぼって,明暦から寛文の間(1655-73)に京都で38冊で刊行されたことが端本の存在により知りうる。この絵入刊本は室町末期ごろから作られていた横本の奈良絵本を模したものとされ,初印本の挿絵には丹,緑などの彩色を施したものも見受けられる。古い要素をとどめる作品もあるが,全般に古来の作をダイジェスト化した傾向が認められ,《猫のさうし》のように明らかに慶長(1596-1615)以降の創作もあり,また詞章面に厳密さを欠くところもあるため,渋川版のみに頼って中世文学としての御伽草子を論ずることはできない。

広義には,室町時代に製作・書写された物語,草子の汎称で,文学史では室町から江戸期にかけて,御伽草子,仮名草子,浮世草子と連ねて用いており,その製作・享受の時期は近世にまで及ぶ。渋川版以外の作品をも〈御伽草子〉〈御伽双紙〉〈御伽さうし〉などと称していたことが江戸期の類書に見られ,明治以降もこれを踏襲したので,便宜上御伽草子の呼称を用いるが,ほかに中世小説,近古小説,室町時代小説,室町時代物語,室町物語などの用語もあり,中世神仏説話の名のもとに御伽草子を収めるものまでまちまちである。同時代の説話,物語,軍記,縁起,法語,語り物,また芸能作品との境界も明瞭ではなく,その伝来の諸相,伝本の複雑さは,一概に御伽草子の語義や範囲を決めることの困難さを示している。

松本隆信編〈増訂室町時代物語類現存本簡明目録〉(《御伽草子の世界》(1982)所収)には三百数十に分類されているが,異本などを考慮するならばこの数はさらに上回るであろう。これは,御伽草子が,武士とか町衆とか地方の人々とか,従来は見られなかった新たな文学の担い手により,度重なる転写の経過の中で享受されてきたことにもよるが,また御伽草子が本来持っている口承性によるものでもあろう。内容による分類案は市古貞次により提示されているが(《中世小説の研究》1955),さらにその形態に即して,写本,絵巻,絵入写本,刊本,絵入刊本といった別,また丹緑本,古活字本とか時期を限って刊行された特殊なかたちをも含め,一つの作品がいずれの形態によって伝来してきたのかを整理してみるべきである。作者も3,4の例外はあるがほとんどわかっていないし,筆者の名を書きとどめた例もきわめて少ない。

以上のことからも,御伽草子の成立の時期を明確に位置づけることは難しいが,物語絵巻--《源氏物語絵巻》《寝覚物語絵巻》《葉月物語絵巻》また白描の《枕草子絵巻》など--や説話絵巻--《信貴山縁起》《長谷雄卿草子》《男衾三郎絵詞》など--とは明らかに一線を画す,《是害房絵詞》《箱根権現縁起絵巻》《熊野縁起》《厳島の本地》《日光山縁起》といった絵巻や,《神道集》と共通素材を有する一群の絵巻が,南北朝期から室町初期には成立していたことが知られている。伏見宮貞成親王の《看聞日記》には,絵巻や冊子の類が御所,禁裏,将軍家の間を往来し書写されていたことが克明に記されている。これらが著名な社寺の宝蔵に存していたことも推測される。江戸期に入るともっぱら横本の奈良絵本で流布し,その最盛期は絵入刊本が続々刊行された寛文期(1661-73)とも一致する。御伽草子以前を考察するには,《風葉和歌集》や《蔵玉和歌集》は必須のものであり,さかのぼって鎌倉時代物語(わずか二十数編のみ)にまで及ぶべきで,《三十二番職人歌合》や《自戒集》にうかがいうる〈絵解き〉のなりわいをも追究すべきである。

古作で重要なものは,本地物--《天神縁起》《諏訪縁起》など仏神の本縁や前生を説くもの,のちに〈本地〉の題名で継承されていく--とか異類物--《三宝絵詞》序に,草木禽獣を擬人化した作品の存したことがうかがわれる--である。異類物には,《鴉鷺(あろ)合戦物語》や《精進魚類物語》(後者は寛永期(1624-44)の丹緑本〈四生の歌合〉への系譜をなす)のような異類どうしの物語と,《狐の草子》《七夕》《鶴の草子》など口承性豊かな異類婚姻を扱うものとがある。また,前代の公卿の恋愛を扱ったものをうけて,《さごろも》《伏屋》《しぐれ》《一本菊》などが出たが,《岩屋》のような継子物をこの中から派生させた。室町期の雰囲気をもっとも濃厚に反映する作では《十二類合戦物語》《福富草子》《小男の草子》《猿源氏草紙》,江戸期に入って《鼠の権頭(ごんのかみ)》などがあげられる。これらの多くは絵巻として伝来しており,絵と詞とが分離されておらず,むしろ絵が主で,余白に当時の口語で会話や和歌や歌謡などがいきいきとふんだんに書き込まれているのは,御伽草子の本質の重要な一側面を示すものであろう。

御伽草子は,読むものであると同時に語るものであり,また見て楽しむものでもあった。《文正草子》や《弥兵衛鼠(やひようえねずみ)》の末尾に〈めでたいことのはじめ〉に読むがよいとか,《浦島太郎》の末尾に夫婦男女の契り深い例についてふれてあったり,《富士の人穴》の末尾に草子を聞く人また読む人の功徳を強調しているなどは,語り手や聴衆のおもかげや,御伽草子のもつ文学性以外の機能などを具体的に示す部分として注目してよい。〈トギ(伽)〉の語源の追求や,絵屋,絵草子屋の実態究明も急務とすべきである。
→奈良絵本
[徳江 元正]

[索引語]
御伽文庫 渋川版 猫の草子 近古小説 室町時代物語 室町物語 中世神仏説話 看聞日記 異類物 浦島太郎 富士の人穴
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16. あいぎょう‐がまし・い[アイギャウ‥]【愛敬─】
日本国語大辞典
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17. あい‐・する【愛】
日本国語大辞典
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18. あいぞめ‐がわ[あゐぞめがは]【藍染川・逢(あひ)初川・愛(あい)染川】
日本国語大辞典
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19. あい‐たん【哀嘆】
日本国語大辞典
〔名〕かなしみ嘆くこと。*御伽草子・李娃物語(室町時代小説集所収)〔室町末〕「此由を伝聞て、哀歎して、行て中将殿を見奉るに」*東京新繁昌記〔1874~76〕〈服 ...
20. あい‐の‐まくら[あひ‥]【相枕】
日本国語大辞典
〔名〕(1)夫婦が共寝に用いる長い枕。また、その共寝。*御伽草子・和泉式部〔室町末〕「あひのまくらの睦言(むつごと)に、はづかしとや思ひけん、五条の橋に捨にけり ...
21. あい を=する[=なす]
日本国語大辞典
(1)(子供などを)かわいがる。愛撫(あいぶ)する。*御伽草子・七草草紙(未刊国文資料所収)〔室町末〕「をのれよりおさなきをばいとふしみあいをなし」(2)(子供 ...
22. あ・う[あふ]【合・会・逢・遭】
日本国語大辞典
・臣下ちゃうしが事「さあらんにとりては、あはざる訴訟なりとも、一度は、などや御免なからん」*御伽草子・鉢かづき〔室町末〕「兄御たちきこしめし、あはぬ事とは思へど ...
23. 会(あ)うは別(わか)れの始(はじ)め
故事俗信ことわざ大辞典
とてもかくても、あふはわかれのはじめなれば、さてしもはつまじきわざにこそ』とて、うちなき給」御伽草子・小町草紙(室町末)「昔をしのび給ふなよ。あふは別(ワカレ) ...
24. あ‐うん【阿吽・阿〓画像
日本国語大辞典
表わすとする。*謡曲・安宅〔1516頃〕「出で入る息に阿吽の二字を唱へ、即身即仏の山伏を」*御伽草子・御曹子島渡〔室町末〕「大日の一の巻に、ぬれての法と申すを行 ...
25. あえ・す【落・零】
日本国語大辞典
が所へ御出の事「未だ所作も果てざらんに切りて社壇に血をあへさんも、神慮の恐(おそれ)あり」*御伽草子・福富長者物語〔室町末〕「うちやられし頭(かしら)より、御か ...
26. あおぎ‐け・す[あふぎ‥]【扇消】
日本国語大辞典
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27. あお‐くさ・い[あを‥]【青臭】
日本国語大辞典
あをくさ・し〔形ク〕(1)青草のような匂いがする。なまなましい、いやな匂いにいう。*御伽草子・酒茶論(古典文庫所収)〔室町末〕「いかに色めきあへる茶なりとも、酒 ...
28. 青葉の笛の物語(著作ID:10162)
新日本古典籍データベース
あおばのふえのものがたり 仁明天皇物語 青葉物語 青葉の笛 御伽草子 室町時代 ...
29. あおみ‐い・ず[あをみいづ]【青出】
日本国語大辞典
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30. あおり‐た・てる[あふり‥]【煽立】
日本国語大辞典
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31. あか‐はだか【赤裸】
日本国語大辞典
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32. 赤本
日本大百科全書
題材は「桃太郎」「舌切り雀(すずめ)」「鉢かづき姫」「頼光山入(らいこうやまいり)」などの昔話や御伽草子(おとぎぞうし)、浄瑠璃(じょうるり)本で、近藤清春、西 ...
33. あがた‐めし【県召】
日本国語大辞典
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34. あがり‐まち【上─】
日本国語大辞典
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35. あき の 雲(くも)
日本国語大辞典
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36. あきのよのながものがたり【秋夜長物語】
国史大辞典
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日本国語大辞典
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38. あきみち
日本国語大辞典
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40. あき‐み・つ【飽満】
日本国語大辞典
を食ひたるが、あきみちたる心ちして」【二】〔自タ上二〕(中世以降現われた形)【一】に同じ。*御伽草子・鉢かづき〔室町末〕「数のたからを持ち給ふ。あきみちて乏(と ...
41. あ‐きょう[‥キャウ]【阿香】
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〔名〕「あこう(阿香)」に同じ。*御伽草子・二十四孝〔室町末〕「王〓 慈母怕 ...
42. あき・れる【呆・惘】
日本国語大辞典
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43. あく‐ぎゃく【悪逆・悪虐】
日本国語大辞典
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日本国語大辞典
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日本国語大辞典
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46. あけ て 悔(くや)しき=玉手箱(たまてばこ)[=箱(はこ)]
日本国語大辞典
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日本国語大辞典
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49. あけ ぬ 暮(く)れぬ
日本国語大辞典
一日片時も、ただしのぶべき身にてなかりしが、あけぬくれぬとする程に、五七日にもなりにけり」*御伽草子・御曹子島渡〔室町末〕「あけぬくれぬと行くほどに、七十五日と ...
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故事俗信ことわざ大辞典
「一日片時も、ただしのぶべき身にてなかりしが、あけぬくれぬとする程に、五七日にもなりにけり」御伽草子・御曹子島渡(室町末)「あけぬくれぬと行くほどに、七十五日と ...
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