ウナギ目ウナギ科Anguillidaeの硬骨魚の総称,またはそのうちの1種を指す。ウナギ類は海で生まれ淡水中で成長するが,その生活史はまだなぞに包まれている部分が多い。いずれもウナギ属Anguillaの魚で世界中に16種いるが,そのうち3種はそれぞれ2亜種に分けられているので計19種類。日本にいるものはウナギとオオウナギの2種である。すべて温水性魚類で,熱帯ないし温帯に分布する。
体は円筒形で,胸びれはよく発達しているが,腹びれはなく,背びれ,尾びれ,しりびれは連続している。鰓蓋(さいがい)は発達せず,比較的小さな鰓孔(えらあな)を開く。体色は背面が黒く,腹面は白色で,ときにやや黄色みを帯びる。うろこは長楕円形で小さく,皮膚に埋没してモザイク状に並んでいる。うろこには輪紋があるが,年齢を推定するのには内耳にある耳石の輪紋によるほうが正確である。胃は噴門胃,盲囊胃,幽門胃の3部に分かれ,腸は直走して短い。血液中にイクチオトキシンichthyotoxinと呼ばれる神経毒を含む。
夜行性で,淡水中に生活している成魚は日中は水中の物陰に潜み,夜間泳ぎ出して小魚,エビ,カニ,ミミズ,水生昆虫などを捕食する。遊泳は蛇行型。体の表面に多量の粘液(ムチンmucineなどの糖タンパクを主とする複雑な物質よりなる)を分泌し,皮膚呼吸の能力も優れているので,雨が降った後など,水中から出て湿った地面をはってかなりの距離を移動することがある。川と連絡のない池などにウナギがすみついていることがあるのもこの性質による。
ウナギの成熟年齢は一定していないが,早いものは生後5,6年,遅いものでも12年ほどで成熟する。いずれにせよ,川の中で十分に成長し,成熟し始めたウナギは9~11月ころ,産卵のため川を下って海に入る。このときには,体の背面および胸びれは濃黒色となり,腹面も黒みを帯びた銀色に輝いてくるので銀腹(ぎんばら)ウナギと呼ばれる。海に出た後,産卵場に達するまでの過程についてはわかっていない。産卵場も明らかでないが,大西洋のウナギの産卵場はデンマークの海洋生物学者シュミットErnst Johannes Schmidt(1877-1933)によってつきとめられた。体が透明でヤナギの葉のような形をしたレプトセファラス(葉形幼生)がウナギの仔魚(しぎよ)であることは,当時すでに知られていた。シュミットは1904年から調査船で北大西洋の各水域を回って採集を重ねた末,より小さなレプトセファラスの採集される場所をたどって,ついに22年バミューダ島の南東方のサルガッソー海がウナギの産卵場であることをつきとめた。日本のウナギの産卵場はまだ明らかにされていないが,これまでのレプトセファラスの採集された位置や海洋条件などから判断して,沖縄の南方,台湾の東方の水域が産卵場としてもっとも有力視されている。
卵は浮遊性で,産卵時の卵径は約1mmであるが,日本のウナギでは産み出されると直ちに吸水して1.8mm程度になり,およそ35時間後に孵化(ふか)。レプトセファラスとして黒潮にのって日本近海まで流され,陸岸に近づいたところで変態するものと考えられる。変態後の稚魚の形は成魚と同様であるが,まだ体は透明でシラスウナギと呼ばれる。シラスウナギは河口周辺に集まり,やがて群れをなして川をのぼり,体色はしだいに着色してクロコと呼ばれるようになる。以後は淡水中にすみつき成長することになる。
ウナギAnguilla japonicaは北海道石狩川と襟裳岬以南の日本の各地,朝鮮半島,南西諸島,台湾,中国,北ベトナムにわたって分布。日本では太平洋側,とくに利根川以南に多い。全長はふつう40~50cmであるが,ときに1mを超すものもある。脊椎骨数は112~119。シラスウナギの来遊は11,12月から4月にわたる。各地で養殖されている。漁法としては一本釣り,置鉤(おきばり),縄釣り,ウナギかき,ウナギ筒,引網,やな,待網などのほか,地方によりさまざまな小規模漁具を用いる方法もある。蒲焼,白焼き,酢の物,卵とじなどとして賞味され,肝臓,消化管は肝吸いとされる。
オオウナギA.marmorataはカニクイともいう。本州南部から中国,フィリピン,ニューギニア,インド洋,アフリカ南東部にわたり分布範囲はすこぶる広い。体表には黒褐色の斑紋がある。名前が示すようにはなはだ大きくなり,全長1m以上になるものが少なくない。脊椎骨数は100~110。日本のおもな生息地では天然記念物に指定され保護されている。
ウナギの養殖は1879年に東京深川で初めて試みられた。その後,浜名湖周辺,豊橋,桑名などに養鰻(ようまん)池がつくられ,これが基になって東海地方でしだいに養鰻業が盛んとなり,1965年ころまでは静岡,愛知,三重の3県下で全国生産量の90%以上をあげていた。気候が温暖で,水利もよく,とくに昔はウナギのおもな餌とされたカイコのさなぎが豊富に入手できたことも,この地方で養鰻が盛んになった理由である。現在では,ウナギ養殖は広く本州,四国,九州の各地で行われるようになった。
養殖の方式には止水式,流水式,循環ろ過式などがある。70年ころまでは屋外池での止水式がふつうだった。水温が下がるとウナギの成長が衰えるので,止水式では新しい水をあまり入れない。その代り,池の中に藍藻類や緑藻類の植物プランクトン(俗称アオコ)を繁殖させ,それらの炭酸同化作用によって水中に酸素を補給させ,ウナギの呼吸に役だてるとともに,排泄物,残餌など有機物の分解を促すわけである。また,池の水を流動させ,大気を水中に積極的に溶けこませるため,水面に攪水(かくすい)車を設けている。最近は室内に止水式の池をつくり加温する方式もある。流水式はボイラーの冷却水など各種の工業による温排水を注入して,十分な酸素を供給しながら余剰の熱エネルギーを有効利用してウナギの成長を促す方式である。また,循環ろ過式は水を飼育池とろ過槽との間で循環させ,水質を悪化させる有機物をろ床中の微生物によって分解除去しながらウナギを飼う方式で,用水と熱エネルギーの利用効率が高い。
養殖用種苗としては,シラスウナギに餌づけをし,ある程度大きくなったものを使う。シラスウナギは海岸に寄ってきたものを夜間すくい網ですくいとるか,袋網を河口付近に設置して,上げ潮にのって川へのぼってくるシラスウナギをとらえ,種苗池に収容する。ここでイトミミズや配合飼料を与えて,餌になれさせ,体重が1~13g程度になった養ビリ(養殖段階に入ったいちばん小さいもの),さらに大きく15~40g程度になった養中を種苗として養魚池に移す。なお,商品にできるほど大きくなったものを養太(ようた)/(よた)という。近年,日本で漁獲されるシラスウナギだけでは養殖用種苗としての需要をみたすことができないので,台湾,韓国,フランス,イタリア,モロッコ,カナダ,アメリカ,キューバ,ニュージーランドなどの諸外国からシラス,あるいは養ビリ,養中をかなりの量輸入して不足を補っている。海水を入れた水槽の中で,親ウナギに生殖腺刺激ホルモンなどを与えて産卵を人工的に促すことも試みられ,産卵,孵化と初期飼育には成功しているが,まだレプトセファラスを飼いあげ変態させてシラスウナギを得るまでには至っていない。
養殖用飼料としては水で練った配合飼料とか生魚をすり身にしたものを与える。一つの池の中で育てても成長は一様に進まず共食いも起こるので,かなり頻繁に大小を選別して分養する必要がある。また,養魚池内では細菌性,ウイルス性などさまざまな病気が発生し大きな被害を与えることがある。順調に成長して,体重が150g以上になると出荷できるので,網を用い,あるいは池の水を排出してウナギを取り上げ,容器に入れて2~4日間,シャワーを浴びせ,または水路に浸して,いわゆる〈活(い)けしめ〉を行う。活けしめによってウナギの代謝率が低下するので輸送中も健康を保つことができる。従来の止水式の屋外池ではシラスウナギから出荷できるまでには1年半~2年半を要するが,加温方式では冬の間も餌を食い成長が衰えないので半年~1年半で出荷できる。
なお,ウナギ目には上記のほか,アナゴ,ウツボ,ウミヘビ,シギウナギ,ハモ,ホラアナゴなどが含まれる。またその姿からか,フウセンウナギ,メクラウナギ,ヌタウナギ,ヤツメウナギ,デンキウナギなどのようにウナギの名のついた魚も多いが,生物学的にはウナギとはまったく違う仲間である。
ウナギの栄養価が高いことを日本人は古くから知っていたようで,《万葉集》には〈石麻呂にわれ物申す夏瘦(なつやせ)に良しといふ物ぞ鰻(むなぎ)とり召せ〉という大伴家持の歌が見られる。しかし,この歌にはウナギを美味とするどころか,逆に〈まずい〉〈気味の悪い〉とでもいいたげな口吻(こうふん)がある。たしかに江戸時代以前,ウナギは決して美味な魚ではなかった。室町時代には宇治丸(うじまる)のすし,蒲焼などのウナギの料理が行われていた。宇治丸は宇治川産のウナギの異名であり,同時にウナギのすしをもいった。このすしは,米飯で漬け込んで魚だけを食べるなれずしであった(すし)。蒲焼は,長いまま丸ごと焼いてからぶつ切りにして,しょうゆと酒を合わせたものか,サンショウみそをつけて食べた。
江戸時代になってようやくウナギをさいて骨やわたを除くようになった。しょうゆのほかに,みりんや砂糖も出回るようになって,いまのような〈たれ〉をつけて焼く蒲焼の手法が完成し,斎藤彦麿(1768-1854)が《傍廂(かたびさし)》でいうように〈無双の美味〉となったのである。
今の蒲焼は,関東では背開き,関西では腹開きにし,竹串を打って素焼き(しらやき)(白焼き)にする。何回も裏返して素焼きにしたあと,関西ではたれをかけながら付け焼きにし,関東では蒸器に入れて蒸してから付け焼きにする。たれは,しょうゆとみりんを合わせたもので,つぎたしつぎたしして使ううち,ウナギの脂肪が溶けこんで美味になる。蒲焼は大きさによっていろいろな呼び方があり,ふつう250g前後のものを中串,400g程度のものを中粗(ちゆうあら),600g程度以上のものを大串と呼ぶ。また,開いたものを切らずにそのまま串を打ったのを長(なが)と呼び,2尾さしたものを二長(になが),3尾のものを三長,そして,これらを〈いかだ〉と呼ぶこともある。ごく小さなウナギをメソ,メソッコと呼び,頭をつけたままさき,串に巻きつけて焼く。これを竜の姿で剣に巻きついた俱利迦羅竜王(くりからりゆうおう)に見立てて俱利迦羅焼きという。土用の丑(うし)の日にウナギを食べる風習はうなぎ屋の商策に出たものであるが,暑中の栄養補給からみて当を得ており,1820年代には行われていた。
ウナギの料理は,蒲焼およびそれを飯の上にのせてたれをかけたウナギ飯(うなどん,うな重)がもっともよく,それに緑茶をかけるウナギ茶漬も賞味される。関西ではウナギ飯を〈まむし〉とも呼び,蒲焼を飯の間に入れたり,小さく切って飯に混ぜたりする。〈まむし〉は〈まぶし〉の転で,飯にまぶすためという。福岡県柳川市の名物である〈蒸籠蒸(せいろむし)〉は,ウナギ飯をせいろうに入れて蒸したものである。そのほか,蒲焼を卵焼きに巻きこんだ〈うまき〉,キュウリもみに刻みこんだ〈うざく〉,煮たゴボウを巻きこんだ八幡巻(やわたまき)などもつくられる。素焼きはワサビじょうゆで食べるのがよく,肝はすまし仕立ての肝吸いや串焼きにされる。変わった料理では千葉県利根川河畔のてんぷら,京都の〈うぞうすい(鰻雑炊)〉がある。なお,フランス料理では赤ブドウ酒で煮こむマトロットが知られている。
アリストテレスがウナギの泥中自然発生を説き,また水中に落下した馬の毛がウナギに化したとか,祖霊や水生の小虫が化したと語る民族があるように,ウナギはその形態,発生の不可思議さから,古来,世界の各地で信仰の対象となってきた。台湾の高砂族の中にはウナギをまったく食せず,また漁猟中はウナギといってはならないという禁忌があった。マオリ族やミクロネシアのカナカ族,フィリピンのイフガオ族,マダガスカル島のベッシリオ族などでは祖先崇拝やトーテム信仰に結びついてウナギは神聖視された。
また,その形態から生殖器崇拝と結びついて,京都市三島神社,埼玉県三郷市彦倉虚空蔵堂などでは夫婦和合,子授けの信仰があり,願掛けにはウナギが交尾している絵柄の絵馬を奉納する習俗がある。伝説では片目ウナギ,物言うウナギとして登場し,川ざらえの前日,池や川の主であるウナギが坊主に化けて,その非をさとして帰る話が各地で語られている。ウナギの転生譚(たん)として山芋が化してウナギになる話が《醒睡笑》《東遊記》などに見え,笑話化している。ウナギは水界の主として登場する一方,水神,竜王,金比羅,三島明神の使わしめとされ,伊豆の三島神社の社地内では神使として捕獲は固く禁じられた。なかでも,ウナギは虚空蔵菩薩の使わしめとされ,これを祭る所の人はウナギを食べない。岐阜県郡上市の旧美並村の粥川では妖怪退治にこの川のウナギが虚空蔵菩薩を加護,案内したとして住人はウナギを決して捕獲せず,明治初年までこの禁を犯すと村八分の制裁を受けた。旧仙台藩領に特徴的に分布するウンナン神はウナギ神で,近世初期の新田開発と洪水の頻発から,ウナギは洪水を起こすものとして,これを慰撫(いぶ),祭りこめたものと考えられる。ウンナン神社の多くは湧水地や水流の近く,さらに落雷の跡に祭られるなど水神,作神的性格が強い。
中国では明の李時珍の《本草綱目》巻四十四鱗部魚類にあげられる〈鰻鱺魚(ばんれいぎよ)〉が,いわゆるウナギを指すらしいが,別にウナギに似た中国特産の〈鱓魚(せんぎよ)〉,もしくは〈鱔魚(ぜんぎよ)〉がいて,〈鰻〉と〈鱓,鱔〉は文字表記のうえでも混同されている。魚類を神聖視する民間信仰は,ほとんど世界に共通するが,中国では,寧波(ニンポー)の阿育王寺をはじめとして,江蘇,浙江を中心とする各地に〈鰻井〉〈霊鰻井〉のあったことが伝えられる。その井戸には神聖なウナギが住み,姿を現すと水害,干害が起きるとか,日照りに祈れば雨を降らせると信じられたが,これはウナギの形状から水神の総帥である〈竜〉が連想され,あるいはウナギをその化身とみたことに由来しよう。また,美味で人の口に入りやすいことから仏教の殺生戒と結びつき,明末の《警世通言》に収載される〈計押番金鰻産禍〉をはじめとして,ウナギの殺生応報説話も数多く伝わる。
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