ミミガイ科の巻貝のうち大型の3種マダカアワビ(マダカともいう)Nordotis madaka,メカイアワビ(メンガイ,メガイともいう)N.gigantea(=N.sieboldii),クロアワビ(オンガイ,オガイともいう)N.discus(英名Japanese abalone)およびエゾアワビ(クロアワビの亜種)N.d.hannaiの総称。
殻はいずれも大型で10cm以上になり,卵円形または卵楕円形で巻きは低く,最後の巻きがはなはだしく広く大きい。殻頂は後方へ寄っている。また殻頂が巻きに応じて富士山形に盛り上がった穴の列があるが,最後の数個を除いては穴はつまっている。開いた穴は出水孔で糞もここから排出される。殻表は黒青色の殻皮をかぶり,また低い波状のしわがあり,さらに細い肋があるが,個体によっては平滑なこともある。また成長するにつれいろいろな動植物が付着して汚れ,殻が傷んでくる。内面は強い真珠光沢があり,大きく広い殻口となっている。ふたは稚貝のときはあるが成長すると失われる。動物体は殻で覆われるが,大きくまるい貝殻筋で殻に付着して,下面の広く大きい足で地物に付着する。足の周縁には小さい多くの上足突起がある。頭には1対の触角とその基部の外側に眼がある。口には多くの歯が縦横に並んでいる。これで海藻などを削り取って食べる。外套(がいとう)腔内には1対のえらがあり,心臓も1心室2心耳になっている。神経系としては足神経がはしご形に走っている。これらの特徴のように殻が巻いているにもかかわらず,体が左右相称の体制になっているのが多くの巻貝と著しく異なる点で,生きている化石オキナエビスガイ類に似ているので,巻貝中原始的な種類とされる。殻が大きく平らで巻きが著しくないので,二枚貝の片方の殻のように思われて,一方からのみ恋い慕う片思いにかけて,〈磯の鮑の片思い〉ということわざがある。
雌雄異体であるが外部生殖器はないので外観的には区別できない。軟体の巻きの先端部(ふんどし,またはつのわたといわれる部分)に生殖腺があり,これが黄白色なのが雄,緑色なのが雌である。産卵期は水温20℃内外のときで,北海道では8~9月,岩手県で10~11月,房総半島で11~12月。卵は緑色,直径0.23mm(クロアワビ),0.28mm(メカイアワビ)など。殻は1年で2.5cm,2年で5cm,5年で12cmくらいになる。アラメ,ワカメ,カジメなどの褐藻を好んで食べるので,本来は分布しないが褐藻の多い内浦湾有珠へ幼貝を放養したところよりよく成長したという報告がある。
マダカアワビは殻は卵円形で膨らみ強く,水孔は高く盛り上がり水孔列に沿って肋がある。腹面の殻口上端は平らになる。分布は北海道南部西岸~九州,朝鮮半島南部。メカイアワビは殻は前種に似て卵円形であるが膨らみ弱く,水孔の高まりは低く,水孔列に沿って肋はない。分布は北海道南部西岸~九州,朝鮮半島南部。クロアワビは殻が卵楕円形で殻口上端は平らにならず,水孔の高まりは弱く,水孔列に沿って肋がある。分布は北海道南部西岸~九州,朝鮮半島南部,中国山東半島。エゾアワビはクロアワビの北方型で殻表に波状のひだが多いが連続的に変化する。
漁獲は北海道,岩手,千葉,宮城,三重,長崎などで多いが,幼貝の移植放養のほか人工授精による養殖技術が進歩して幼貝まで飼育槽で飼育して,その後に放養されるようになった。アワビの漁獲の50%はクロアワビである。
鰒,鮑,蚫,石決明,あるいは鰒魚,鮑魚などと書かれた。《和名抄》が〈乾して食う可し〉としているように,古代には多く乾燥品にされ,次いで塩辛などにされたようである。それらは加工法,形状などによってさまざまに呼ばれ,その名称はきわめて多い。生食はあまり行われなかったが,《延喜式》によると,秋~春の季節には生鮮品が志摩の御厨(みくりや)から貢進されている。乾燥品の代表ともいうべきものが,伸鰒,長鰒などと書く〈熨斗(のし)鮑〉で,かんぴょうをつくるように外縁部から長くむいて乾燥したものである。古くから酒のさかななどとして多用されたが,いまでは祝儀用の飾物になってしまった。
アワビは,ふつう種類によって使い分ける。肉がしまっていてかたいオガイ(クロアワビ)とエゾアワビは水貝に向き,やわらかいマダカアワビとメガイ(メカイアワビ)は塩蒸し,酒蒸し,煮物などにする。水貝はさいの目に切った肉を冷水に浮かべ,ワサビじょうゆなどで食べるが,まず肉の表面にたっぷり塩をあててよく洗ってから,殻からはずして包丁する。肉をはがすには,殻の薄いほうを手前に置き,その中央やや左よりからおろし金の柄などを差し込み,貝柱を殻からはがす。中央右よりから入れると内臓を破ることが多い。蒸物や煮物の場合は表面を軽く洗う程度でよい。現在行われている加工品には前記の熨斗鮑(のし)や干鮑があり,後者は乾鮑(カンパオ)と呼ばれ中国料理の重要な材料である。なお,アワビに似て小型のトコブシは蒸物や煮物にして美味である。
《延喜式》にアワビの加工品の名が多く見え,多くの料理に利用されていた。アワビは乾燥して中国にも輸出され,貝殻は細工用となるほか眼病の薬ともなり,真珠も採取されるなど古来海人(あま)と呼ばれた漁民の生活の対象であった。加工品の中でも〈熨斗鮑〉は貴人や神祭の食物として供された。また,武士の出陣,帰陣にも吉例としてこれを出した。アワビは海産の食物として代表的であり,また常時準備しておくことが可能なものだったからであろう。このことから他の人への贈物としてもアワビは貴重であり,品物に添えて形ばかりでもこれを供したのが,現今の熨斗紙の起りである。また,各地にアワビを祭る神社のあることが知られているが,南方熊楠は,アワビが一枚貝で内面の真珠質の部分に光線のぐあいで神仏の像に似た模様が浮き出るのを神秘と見た結果ではないかと論じた。
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