原索動物門尾索 (びさく)綱海鞘 (かいしょう)亜綱に属する海産動物の総称。汽水域にも生息する。成体は他物に固着して生活し、単独でいる単体ボヤと、小さな個虫が集合する群体ボヤとがあるが、虫体の構造に根本的な差はない。単体ボヤには直径20センチメートルに達する種(たとえばベニボヤ)があり、群体の総湿重量が2キログラムを超すボウズボヤなども知られる。他方、砂粒のすきまにすむ微小な単体あるいは群体ボヤもあり、この仲間にはホヤの成体としてはきわめて珍しい、移動能力をもつ種も知られている。ホヤ類は、極地を含む全世界の潮間帯や浅海にごく普通にみられるほか、8430メートルに至る深海にも生息する。現在のところ2目4亜目14科約170属に分類され、日本近海からはこれまで丘浅次郎 (おかあさじろう)および時岡隆 (ときおかたかし)などにより13科約70属300種が記録されている。これは、未整理のものも含む全既知種の10%以上にあたる。
形態・生態
まず、単体ボヤの形態について説明する。外形はさまざまで、他物に固着するのも後端部によるとは限らず、体側全面で行う種も少なくない。固着のための長い柄 (え)をもつ種も少なからずあり、また根状突起がよく発達する種(たとえばマボヤ)もある。この突起で岩に付着するようすを宿り木(古語で「ほや」という)の寄生状態に見立てたのが、「ホヤ」の語源らしい。古来、保夜、老海鼠などの漢字があてられてきた。
体は被嚢 (ひのう)というじょうぶな袋で覆われ、その中に筋膜体が入っている。ホヤ類の学名Ascidiaceaやその俗称ascidianは、被嚢を「酒を入れる革袋(ギリシア語でaskos)」に見立てたところに由来する。被嚢は筋膜体の表皮細胞によって分泌形成され、植物のセルロースとよく似たツニシンという多糖類を含む。不透明皮革状から透明寒天状までさまざまで、表面にいぼや棘 (とげ)が出ることもあり、繊維状の微細な突起で砂粒をまとうこともある。被嚢の表面に入水孔と出水孔が一つずつ開く。入水孔は体前端付近に、そして出水孔はその近くの背正中線上に開くのが普通であるが、例外も珍しくない。被嚢に刺激を加えると体が収縮して固くなるとともに、入・出水両孔から勢いよく水を噴き出すところは、ホヤの英名sea squirt(海の水鉄砲)を連想させる。
筋膜体の壁(筋膜)は平滑筋でできていて、内臓を包み込んでいる。内臓のうち通常もっとも広い部分を占めるのが鰓嚢 (さいのう)で、囲鰓腔 (いさいこう)という腔所によってすっぽりと取り囲まれる。囲鰓腔の外壁が筋膜にあたる。鰓嚢は咽頭壁 (いんとうへき)に相当し、多くの場合、無数の鰓裂 (さいれつ)(ホヤ類では鰓孔とよぶ)が整然と並ぶ。鰓嚢は前方で入水孔と、そして後方では食道とそれぞれつながる。一方、囲鰓腔は出水孔を通じて外界に連絡している。入水孔のすぐ内側に触手が輪状に並び、流入粒子の大きさをチェックしている。鰓嚢の内面にはそのほぼ全長にわたり、背正中に背膜または舌状突起列、腹正中に内柱がある。内柱は粘液を分泌するが、それは上皮の繊毛の働きで薄いシートとなって広がり、つねに鰓嚢の内面全体を覆う。シートは全体として後背方、つまり食道に向かって移動している。鰓孔の縁に密生する繊毛が引き起こす水流にのって、入水孔から鰓嚢内に入った食物粒子(おもに植物プランクトン)は、この粘液シートにからめとられる。シートは背膜または突起列のところで、紐 (ひも)によじられて食道に入り胃腸へと向かう。海水自体は鰓孔から囲鰓腔に出て、ここに開く肛門 (こうもん)や生殖腺 (せん)から出る糞 (ふん)や配偶子とともに外界に排出される。このような摂餌 (せつじ)法(濾過 (ろか)摂餌)によるのがホヤの通例であるが、無孔類という一群の深海ホヤでは、鰓嚢が極度に退化しており、小形の無脊椎 (むせきつい)動物をまる飲みにするらしい。
群体ボヤでは、その個虫が単体ボヤの筋膜体に相当し、被嚢(共同外皮という)にいろいろな程度に埋まり込んでいる。群体は薄く、他物を覆うのが一般的であるが、棍棒 (こんぼう)状をはじめさまざまな外形を示すこともある。個虫どうしが血管系で連絡し血液を共有する種類も多い。
鰓嚢には血管系が種類によってさまざまな程度に発達し、血液のガス交換に働くほか鰓嚢を支えるのにも役だっているらしい。心臓の作用で血流が周期的に逆転する現象や、バナジウムという微量金属元素を高濃度に含む血球があることは、ほかに類をみない特徴である。
体の各部にいろいろな生物が共生するが、被嚢中に埋没する二枚貝のタマエガイや、鰓嚢内外に寄生する甲殻類のホヤノシラミやホヤノカクレエビなどが有名である。単体ボヤの囲鰓腔はクダヤガラなどの魚類の産卵場所となる。また、群体内には単細胞藻類が共生することがある。ヒトを含むいろいろな動物の餌 (えさ)となる種類もある。他方、船底や養殖筏 (いかだ)などに群生し漁業者に嫌われる種もあり、さらに養殖カキの表面に付着して、カキ打ち従事者にアレルギー(ホヤ喘息 (ぜんそく))を引き起こすこともある。
発生
ほとんど例外なく雌雄同体であり、体外受精とともに、おもに群体ボヤで体内受精も知られる。後者の場合、胚 (はい)を孵化 (ふか)直前までいろいろな方法で保持する(卵胎生)ほか、親から栄養供給のある胎生種もまれにある。群体ボヤでは親個虫の退化後、胚が群体の血管系に養われて成長する種もある。幼生はオタマジャクシのような外形で、楕円 (だえん)体をした胴体の後ろに長い尾部をもち、尾部のけいれん的な動きで、普通、1日以内の短い浮遊期間を過ごす。なお、幼生に尾部がなく、浮遊せずにいきなり変態する種もわずかに知られている。尾部には脊索が貫通し、それに沿って神経管が走り、それらを筋細胞(横紋筋)が挟み込んでいる。神経管の前端部は胴体のかなり前方にまで達して大きく肥大し、普通、単眼と耳石 (じせき)を各1個含む。これらは変態とともに消失するが、成体の神経中枢は神経管の一部から分化する。胴体には成体の器官が、種類によってさまざまな程度に形成されて変態を迎えるが、この間、幼生はいっさい摂餌をしない。変態に伴って脊索は完全に消失する。幼生の初期には向光、背地性をもち、分布の拡大に寄与するが、後期にはこれが一転するため、岩の側面や裏側に着底する傾向が強いが例外も多い。砂泥底に下りて体の大半をそこに埋没させて生きる種もある。
以上のような有性生殖のほか、無性生殖がきわめて多彩に発達し、おもに群体の拡張に役だっている。
食品
ホヤには、ウニに似た特有の香りがあり、肉は鮮紅色で歯ごたえがある。またグリコーゲンを多く含み、肉には特有の甘味がある。ホヤは水分が多いため、タンパク質含量は約5%で、他の魚貝類に比べると少ない。一方、鉄分は5.7%と多く含まれている。調理には、堅い外皮を切り開いて肉を取り出し、内臓を除いて用いる。椀種 (わんだね)、煮物などにもするが、ホヤのうま味を味わうには生食がいちばんである。とくにキュウリと相性がよく、ホヤに添えて酢の物にすることが多い。加工品では塩辛がある。
ホヤは、その産地である三陸海岸から仙台湾にかけてよく食べられる。「ほやの水もの」は、取り出した肉を短冊に切り、塩水を張って食べる料理であるが、塩水は、外皮を切り開いたときに出る汁を使うと、いっそう風味がよい。このほか、しょうが入りの酢じょうゆで食べたり、酢みそ和 (あ)えにしたり、1時間ほどみそに漬けたものをさっと焼くなど、各種の食べ方がある。