棘皮 (きょくひ)動物門ウニ綱の海産動物の総称。半球形の硬い殻の上に針のような棘 (とげ)がたくさん生え、全体が「いがぐり」のような外観をした動物。世界の海から約870種、日本近海からは180余種が知られている。
形態
体に前後の方向性はなく、上下の区別があり、器官の配列などは5方向に相称で、口と肛門 (こうもん)はおのおの体の下側と上側の中心に位置し、内臓は殻の中に包み込まれている。殻は貝の殻とは違って、小さな殻板が多数集まってできたもので、その上を薄い表皮が覆っている。殻の表面には多数の丸いいぼがあり、その一つ一つは棘の基部と凹凸の関節構造をとってつながっている。棘は基部についた筋肉の働きで自由に動くようになっている。殻の表面には棘のほかに長さ1ミリメートルにも満たない叉棘 (さきょく)という三つ叉 (また)ピンセット状のものが多数ある。殻の表面からは、糸のように細長く、伸縮自在で先端に吸盤のついた管足がたくさん伸び出ている。
殻の内側には、骨と筋肉が複雑に組み合ってできた「アリストテレスの提灯 (ちょうちん)」とよばれる大きなそしゃく器がある。その下部先端の5本の歯の部分だけは口から外に露出している。内臓器官系としては、消化、水管、血洞、神経、生殖系があるが、心臓や肝臓はない。もっともよく発達しているのは水管系で、薄膜からなる袋と管が殻の内側に沿って5対走り、さらに食道の周りを環状に取り囲んでいる。生殖巣は5対あり、繁殖期が近づくと殻を埋めるほどに大きくなる。生殖孔 (こう)は殻の頂上部に5個ある。雌雄は異体であるが、外形からはほとんど区別できない。
ウニ類は分類学的に九つのグループに分けられるが、いがぐり形のものはそのうちの3~4グループで、そのほかのものは、一見ウニとは思えないような変わった形をしている。フクロウニ類は平たくてぶよぶよした革袋のような体をしていて、全体をいくらか膨らませたり縮めたりする。カシパン類、タコノマクラ類などとよばれるグループは殻が円盤状となり、表面は長さ1ミリメートルぐらいの短い棘で一面に覆われている。また、殻の上には5弁の花びら模様が刻まれている。ブンブクチャガマ類は殻がいびつに膨らんでいて、表面は体毛のように密に生えた湾曲した棘で覆われている。また、体にはっきりとした前後の方向性があり、口は下面前方に、肛門は後端にある。これらのほかにタマゴウニ類、マンジュウウニ類という変わった形のグループもある。
生態
いがぐり形のウニの多くは岩礁地に生息し、種類によって岩の上、転石の下、岩のくぼみの中や岩棚の下など、少しずつ好む場所が違っている。岩に自ら穴を掘ってすむものもいる。砂泥地に生息するのはカシパン類とブンブクチャガマ類で、前者は砂泥をかぶる程度に浅く潜り、後者は砂泥中に深く、種類によっては20センチメートル以上も潜っている。
岩礁地にすむ種類は体の移動に管足と棘を用いる。まず最初に数本の管足を伸ばし出してその先の吸盤を岩に張り付け、次々と多数の管足を同じ方向に伸ばして張り付けたのち、それらを収縮させて体全体を引っ張り、棘の助けを借りながらゆっくりとはうように進む。吸盤の吸着力と管足の力は強いので、どんなに急な斜面でもはい上ることができる。餌 (えさ)をとるときには、管足で吸い付け、棘で押さえ、叉棘で挟んで運搬や保持を行う。餌は海藻、または生物体の破片や腐食物で、体の下側に運び、歯でゆっくりとかじりながら食べる。外敵を退けたり、体表の異物を除去するときには棘と叉棘を使う。
繁殖期になると雌雄はおのおの放卵、放精を行い、海中で受精がおこる。受精卵から生じる幼生は独特な形をしていてエキノプルテウスとよばれる。エキノプルテウス幼生は数週間海中を漂ったのち、変態して底生生活に入る。寿命は5~6年のものが多い。
危害
触れると危険な種類もいくつかある。ガンガゼの棘は長くて細く、活発に動き、表面には微小な逆棘がいっぱい生えているので、皮膚に深く刺さって折れやすく抜けにくい。ガンガゼモドキは逆棘の生えた棘のほかに、細くて長い髪の毛のような毒棘をたくさんもっている。イイジマフクロウニの棘は先がとがって刺さりやすく、毒袋に包まれている。ラッパウニは体表一面に毒袋のついたラッパ形の叉棘をもっている。シラヒゲウニも毒袋のついた叉棘をいっぱいもっている。これらの棘や叉棘に刺されると発赤したり、周囲が紫色にはれあがって疼痛 (とうつう)を感じる。ラッパウニとシラヒゲウニの場合、掌 (てのひら)など皮膚の厚い部分は刺されない。被害者の体質や刺された本数しだいでは悪寒、心悸亢進 (しんきこうしん)、顔面のしびれなどの全身的症状がおこることもまれにある。
利用
生殖巣は生のまま、すし種 (だね)や生 (なま)うにとして、あるいは塩とアルコールを加えて加工した雲丹 (うに)として食用に供される。食用として採捕される種類は地方によって決まっていて、北海道と東北地方北東部ではエゾバフンウニとキタムラサキウニ、奄美 (あまみ)、沖縄地方ではシラヒゲウニ、そのほかの本州、四国、九州の大部分の地域ではバフンウニ、ムラサキウニ、アカウニである。
それ以外の種類もほとんど食用となるが、生息量が少ないので漁業対象とされない。ナガウニは奄美、沖縄地方ではもっとも普通にみられる種類であるが、臭気があり食用とならない。ウニを食べる習慣は地中海沿岸諸国をはじめ世界各地にあるが、日本の消費量は桁 (けた)はずれに多く、近年は生殖巣重量にして1年に2000トン以上を世界十数か国から輸入している。
食用以外の利用としては、実験的取扱いが容易なため、発生学の研究材料として世界各地の大学や研究機関で広く用いられている。そのほか、さらした殻やパイプウニの棘は装飾品とされる。
料理
ウニの生殖巣をきれいに引き出したものを生うにといい、独特の芳香がある。生うにを塩湯で煮てから加熱し、乾燥したものを焼うにといい、高級品として扱われている。うにの産地は東海、東北、北陸、西南海など広い地区にわたっているが、旧国名に「前」のついた地方、越前 (えちぜん)(福井県)、羽前(山形県)、陸前(宮城県、岩手県)、豊前 (ぶぜん)(福岡県、大分県)などのうにの味は格別に優れている。また東北地方でうにの多くとれる地方では、トコブシ、アワビなどの殻に生うにを詰めて蒸し焼きにしたものがある。福島県小名浜 (おなはま)地方では、ハマグリやホッキガイの殻に詰めて焼いたものをつくっている。うにの塩蔵加工には、泥 (どろ)うに、水うに、練りうにの3種類がある。泥うには、生うにを海水でよく洗い、水分を少し除き、2~3割の塩を加えたもの、水うには、水分の一部を除き、塩を多く加えたもの、練りうには、泥うにの水分を少なくして調味料などを加え精製したものである。越前の練りうには味がいい。これは、江戸時代に徳川将軍家に献上用にする優秀な練りうにをつくりだすために、加工法を多年にわたり研究した成果である。うにをほかの食品に加えてつくりあげるうに加工品は、うにかまぼこ、うに煎餅 (せんべい)などいろいろある。