(チェチェン)
パトリック・ブリュノー、ヴィアチェスラフ・アヴュツキー 著/萩谷 良 訳
まだ記憶に新しい昨年秋の北オセチア学校占拠・人質テロ事件以降、ロシアによるチェチェン武装勢力の掃討が激化している。今年三月、チェチェン独立派指導者マスハドフ司令官が戦闘で死亡し、穏健派の指導者を失ったチェチェンでは、緊張が高まり、和平への道は遠のいている。本書は、カスピ海と黒海に挟まれグルジアの北方に位置する小国チェチェンが、ロシアに侵攻されてきた歴史を辿ってゆく。石油産業や宗教についても解説し、紛争の本質に迫る。著者と専門家による最近までの動向を補った解説も収録。
(カガクテツガク)
ドミニック・ルクール 著/沢崎壮宏、竹中利彦、三宅岳史 訳
ウィーン学団やバシュラールを経てクワインやハッキングへと至る科学哲学は、サイエンスの目的と方法をめぐる探求である。本書は、その潮流を19世紀の成立時期から解説し、科学哲学という学問分野についての見取り図を与えようとするものである。フランス科学哲学の伝統、エピステモロジーに見られる歴史的手法と、英米の論理学を駆使する分析的手法という二つの伝統が合流する将来についても展望してゆく。科学のみならず、技術を介して科学に巻き込まれる人間社会からも要請される新しい哲学の、わかりやすい入門書。
(シンヤクセイショニュウモン)
レジス・ビュルネ 著/加藤 隆 訳
神との新しい契約を伝える、聖なる書物――新約聖書は、初期キリスト教の歩みとともに成立していった。諸文書の個々の内容、執筆時期や背景、正典化の過程などをわかりやすく解説。
(インターポール コクサイケイジケイサツキコウノレキシトカツドウ)
マルク・ルブラン 著/北浦春香 訳
映画や劇画をとおして、秘密捜査官というイメージがつきまとうインターポール――国際刑事警察機構は、国際犯罪の情報収集・交換のネットワークである。その歴史や機能・活動を解説。
(フーリガンノシャカイガク)
ドミニック・ボダン 著/陣野俊史、相田淑子 訳
サッカーに群がる、欲求不満な暴徒ども──フーリガンは、希望格差社会の申し子か? 本書は、メディアが作りあげた集団像を問い直し、その群集心理や祝祭化のメカニズムを解明する。
(カンゴショクトハナニカ)
カトリーヌ・デュボア・フレズネ、ジョルジェット・ペラン 著/久世順子、刀根洋子、平尾真智子 訳
白衣の天使から健康の実践者へ! 本書は、看護の歴史を辿るとともに、看護職が法によって専門職として認知されていったフランスを中心に、教育制度や職務内容の変化について解説する。
(カタルーニャノレキシトブンカ)
ミシェル・ジンマーマン、マリ=クレール・ジンマーマン 著/田澤 耕 訳
バルセロナを州都とする、スペイン北東部の自治州─カタルーニャは、かつて一大地中海帝国であった。南仏、地中海に進出し、遠くギリシアにまでその支配を広げていたが、王家の断絶によって15世紀頃から衰退してゆく。以降、不遇をかこつことになる。本書は、先史時代も視野に入れつつ、独自言語と独立志向を保ちつづけた民族的アイデンティティー確立の道のりと、その豊かな文化を解説してゆく。ガウディ、ダリ、ミロなどに代表される建築・美術に偏りがちなカタルーニャ文化の紹介が多いなかにあって、文学についても詳しく述べられている解説書である。
(オフロノレキシ)
ドミニック・ラティ 著/高遠弘美 訳
フランスでは、毎日身体を洗う人の割合は40パーセント! 1850年頃の人びとは、2年に一回しか入浴しなかった! それというのも、熱い風呂は、毛穴を開き有害な菌が体内に入ると考えられて避けられ、ペストや梅毒の流行がそれに拍車をかけたのだった。肉体を蔑視し、快楽を遠ざけるキリスト教の影響もあり、身体を布で拭き、衣装のレースを替えるだけだった。とはいえ、庶民がくつろぐ蒸気風呂や娼館のような混浴風呂、王妃アントワネットの浴槽サロンなど、かつてはお風呂を楽しむ文化もあったという。本書は、古代からの入浴の歴史をさまざまな逸話とともに紹介する。快楽と禁欲のあいだで揺れる人々の姿を浮き彫りにした、親しみやすい風俗史。
(フランスリョウポリネシア)
エマニュエル・ヴィニュロン 著/管 啓次郎 訳
南太平洋東部に浮かぶ約118の島からなる仏領ポリネシアは、ゴーギャンが鮮やかに描いた楽園タヒチで知られている。浸食された高い火山島の周囲に珊瑚礁がひろがり、壮麗なラグーンを形づくっている。その景観は旅行者を惹きつけてやまない。一方、核実験の場でもあり、わずかな年月で著しい経済発展と西欧化が進んだという顔ももつ。本書は、フランス植民地帝国の最後の一角であるこの地について地理学的に紹介してゆく。分散する島々において、それぞれの自然条件にいかに対応しながら人びとが居住空間を切りひらいてきたか、そしてそれが現代の社会・経済・政治的環境ではどのようなパターンを描いて変化しつつあるかを解説する。
(カクダイヨーロッパ)
ジャン=ドミニック・ジュリアーニ 著/本多 力 訳
統合を進めてきた欧州が、いま岐路に立っている。2004年に中東欧など10カ国が加盟し、25カ国体制になった欧州連合。昨年は、その統合の基盤である欧州憲法の批准が、フランスやオランダで相次いで否決された。加えてトルコの加盟問題もあり、規模の拡大にブレーキがかかっている。本書は、EUへの加盟プロセスと基準、その機構などを紹介するとともに、今後の展望と課題を解説する。ヨーロッパの境界を定める地理・歴史・文化的背景や、米国を含めた各国の思惑についての記述からは、20世紀最大の政治構想の理想と現実が浮かびあがってくる。現在の加盟候補国のデータも収録。