(サルトル)
アニー・コーエン=ソラル 著/石崎晴己 訳
サルトルとは「誰」だったのか。多様なジャンルに作品を残し、変貌することが本質的でもあった(「自由とは、いついかなるときにも自分自身から脱出するというあり方なのだから」)20世紀最大の知識人の軌跡を、綿密な調査をもとに新証言を交えながらたどる。二つの家系の狭間に過ごした幼年時代から高等師範学校を経て類い希なる教育者として過ごしたリセでの日々、共産党との関係の変遷、カミュとの軋轢、ボーヴォワールとの生活、そして死に至るまでを、自由に往来しつつ愛情を籠めた筆致で書かれたサルトル研究の第一人者によるこの小さな評伝の中に、読者は世紀を隔てて生きる思想家の新たな姿を予感するだろう。
(サンスクリット)
ピエール=シルヴァン・フィリオザ 著/竹内信夫 訳
「完成された言語」を意味するサンスクリットは、インドにおけるあらゆる知的活動を数千年にわたり支えてきた。現在もインドの公用語のひとつであるが、日常語としての話者はほとんどいない。本書は、その歴史と構造を紹介するとともに、長い生命力・不変性・聖性という特徴について解説してゆく。サンスクリット文法家たちは、その考察を哲学的次元へと高めてゆき、「言葉がブラフマン(梵)であり、意識はそこから生まれるものにすぎない」という境地に達する。彼らによって浄化と贖罪の言語となったこの言葉の有り様がわかりやすく述べられている。
(ローマノキゲン シンワトデンショウ、ソシテコウコガク)
アレクサンドル・グランダッジ 著/北野 徹 訳
狼に育てられたというロムルスとレムスの伝説をはじめ、ローマ草創期をめぐる伝承は、どこまで史実を反映したものなのか? そんな疑問に答える新たな事実が、近年のローマやラティウム地方における考古学調査によって明らかになってきている。ローマの創建についての研究は、ローマ市の誕生に先立つ時代と王政初期にあたる紀元前11世紀から紀元前5世紀初頭までを対象とし、考古学・文献学・宗教史学・法制史学・神話学によって学際的に研究される独立した一分野となっている。本書は、ローマの神話や伝承と、近世以降の文献批判を紹介するとともに、考古学調査のおもな成果を解説する。歴史の流れや出来事が、文献伝承中に語られている内容と符号することが、考古学によって鮮やかに導きだされていく。
(セキユノレキシ ロックフェラーカラワンガンセンソウゴノセカイマデ)
エティエンヌ・ダルモン、ジャン・カリエ 著/三浦礼恒 訳
原油価格の高騰が続いている。資源ナショナリズム、中国・インドの需要伸張、石油枯渇の危惧、イラン核開発問題の地政学的リスクなどが相場を押しあげている。本書は、1859年の本格的採掘開始から、それにつづく企業の創設、巨大多国籍化、国有・民営化、合併・買収などの国際石油資本の変遷をたどる。2006年4月までの動向を押さえた補遺と専門家による解説も収録。エネルギー安全保障で日本と類似するフランスの立場から論じた概説書である。
(カザフスタン)
カトリーヌ・プジョル 著/宇山智彦、須田 将 訳
ユーラシアの中心に位置し、世界第9位の広大な国土を擁する共和国─カザフスタンは、豊かな鉱物資源の開発によって著しい経済成長を続けている。本書は、その風土・歴史・政治・経済・外交を目配りよく紹介する。モンゴル帝国などの陰になりがちな遊牧民王朝の知られざる歴史を、現在の国境領域をふまえつつ解説している。欧州とアジアの架け橋の役割を担う共和国の全貌にせまる概説書。
(キリストキョウシンボルジテン)
ミシェル・フイエ 著/武藤剛史 訳
アダムが食べたのはリンゴではないのに、なぜ原罪のシンボルになったのか、食卓の上のサソリは何を暗示するのか? 映画や絵画などをより深く味わうために!
『スター・ウォーズ』の主人公ルーク、『マトリックス』のネオ、これらの名前にこめられた意味がわかるだけで、映画の味わいがちがってくる。聖ペテロを題材にした絵画では、かたわらに鍵が描かれている意味を知ることで、その印象が変わる。本書は、西洋の文化芸術の理解を助ける500以上のシンボルを、福音書を中心に聖書全体から集めて、解説する。芸術鑑賞の折のハンドブックとして利用するのも、読み物として通読するのも楽しい小事典。
(フランスノオンセンリゾート)
フィリップ・ランジュニュー=ヴィヤール 著/成沢広幸 訳
ヴィシーや、ミネラル・ウォーターで有名なエヴィアン、ヴィッテルなど、フランスには100を超える温泉地がある。もともと水治療という、病気治療や体質改善を目的とした温泉利用であるため、医学的療養の色彩が濃い。療養が医師によって指導され、社会保障制度が費用を負担するシステムまでできあがっている。本書は、フランスの温泉の歴史と特徴、経済効果や他のヨーロッパ諸国との比較をまとめた総合的案内書となっている。各温泉の適応症・レジャー施設の一覧も掲載。
(シケイセイドノレキシ)
ジャン=マリ・カルバス 著/吉原達也、波多野 敏 訳
国家は、殺人犯やその他の危険な犯罪者を殺す権利を有するのか否か? この重い問いについて、長きにわたって議論が重ねられてきた。私たちは、犯罪や暴力にどう向き合えばよいのだろうか? 日本でも、3年後に裁判員制度が始まる。凶悪重大な刑事事件について導入され、死刑か無期か、一般市民が量刑の判断を迫られることになる。一人ひとりが、刑罰のありかたについて改めて考えねばならない。本書は、古代から現代までの死刑制度の歴史と現況を解説するとともに、死刑賛成論者と反対論者の議論の道のりをたどってゆく。法学者、哲学者のみならず、作家たちの見解も紹介している。死刑制度存廃問題を考えるための必読書。
(チェスヘノショウタイ)
ジェローム・モフラ 著/成相恭二、小倉尚子 訳
歴史と、社会や芸術とのつながりを解説。頭脳のスポーツと称されるチェスは、昨年のドーハ・アジア大会から正式競技になり、将来的にはオリンピックでの実施を目指している。古代インドの「チャトランガ」だといわれているその起源から、ネット・チェスがめざましく普及した現代までの歴史を解説する。社会や芸術とのつながりや、個性的なプレーヤーたちの逸話も紹介され、ラーセン対スパスキーの名局を再現するくだりでは、ゲームの醍醐味を味わうことができる。
(カトリシスムトハナニカ キリストキョウノレキシヲトオシテ)
イヴ・ブリュレ 著/加藤 隆 訳
キリスト教の本格的理解へとみちびく入門書「教会の普遍主義」を意味するカトリシスムは、ローマ・カトリック教会だけに関わることではない。宗教改革者ルターもみずからを「福音的なカトリック」と呼んでおり、彼らにとって、使徒的・福音的な教義に忠実な教会がカトリックなのである。本書は、二千年におよぶキリスト教の変遷をカトリシスムという観点から手際よくまとめたものである。キリスト教の運動が歴史の現実のなかでどのような紆余曲折を体験し、そもそもどのようなことが問題とされてきたのか、現在も何が問題なのか、について解説する。キリスト教の本格的理解へとみちびく入門書。