(チェチェン)
パトリック・ブリュノー、ヴィアチェスラフ・アヴュツキー 著/萩谷 良 訳
まだ記憶に新しい昨年秋の北オセチア学校占拠・人質テロ事件以降、ロシアによるチェチェン武装勢力の掃討が激化している。今年三月、チェチェン独立派指導者マスハドフ司令官が戦闘で死亡し、穏健派の指導者を失ったチェチェンでは、緊張が高まり、和平への道は遠のいている。本書は、カスピ海と黒海に挟まれグルジアの北方に位置する小国チェチェンが、ロシアに侵攻されてきた歴史を辿ってゆく。石油産業や宗教についても解説し、紛争の本質に迫る。著者と専門家による最近までの動向を補った解説も収録。
(カタルーニャノレキシトブンカ)
ミシェル・ジンマーマン、マリ=クレール・ジンマーマン 著/田澤 耕 訳
バルセロナを州都とする、スペイン北東部の自治州─カタルーニャは、かつて一大地中海帝国であった。南仏、地中海に進出し、遠くギリシアにまでその支配を広げていたが、王家の断絶によって15世紀頃から衰退してゆく。以降、不遇をかこつことになる。本書は、先史時代も視野に入れつつ、独自言語と独立志向を保ちつづけた民族的アイデンティティー確立の道のりと、その豊かな文化を解説してゆく。ガウディ、ダリ、ミロなどに代表される建築・美術に偏りがちなカタルーニャ文化の紹介が多いなかにあって、文学についても詳しく述べられている解説書である。
(オフロノレキシ)
ドミニック・ラティ 著/高遠弘美 訳
フランスでは、毎日身体を洗う人の割合は40パーセント! 1850年頃の人びとは、2年に一回しか入浴しなかった! それというのも、熱い風呂は、毛穴を開き有害な菌が体内に入ると考えられて避けられ、ペストや梅毒の流行がそれに拍車をかけたのだった。肉体を蔑視し、快楽を遠ざけるキリスト教の影響もあり、身体を布で拭き、衣装のレースを替えるだけだった。とはいえ、庶民がくつろぐ蒸気風呂や娼館のような混浴風呂、王妃アントワネットの浴槽サロンなど、かつてはお風呂を楽しむ文化もあったという。本書は、古代からの入浴の歴史をさまざまな逸話とともに紹介する。快楽と禁欲のあいだで揺れる人々の姿を浮き彫りにした、親しみやすい風俗史。
(フランスリョウポリネシア)
エマニュエル・ヴィニュロン 著/管 啓次郎 訳
南太平洋東部に浮かぶ約118の島からなる仏領ポリネシアは、ゴーギャンが鮮やかに描いた楽園タヒチで知られている。浸食された高い火山島の周囲に珊瑚礁がひろがり、壮麗なラグーンを形づくっている。その景観は旅行者を惹きつけてやまない。一方、核実験の場でもあり、わずかな年月で著しい経済発展と西欧化が進んだという顔ももつ。本書は、フランス植民地帝国の最後の一角であるこの地について地理学的に紹介してゆく。分散する島々において、それぞれの自然条件にいかに対応しながら人びとが居住空間を切りひらいてきたか、そしてそれが現代の社会・経済・政治的環境ではどのようなパターンを描いて変化しつつあるかを解説する。
(ローマノキゲン シンワトデンショウ、ソシテコウコガク)
アレクサンドル・グランダッジ 著/北野 徹 訳
狼に育てられたというロムルスとレムスの伝説をはじめ、ローマ草創期をめぐる伝承は、どこまで史実を反映したものなのか? そんな疑問に答える新たな事実が、近年のローマやラティウム地方における考古学調査によって明らかになってきている。ローマの創建についての研究は、ローマ市の誕生に先立つ時代と王政初期にあたる紀元前11世紀から紀元前5世紀初頭までを対象とし、考古学・文献学・宗教史学・法制史学・神話学によって学際的に研究される独立した一分野となっている。本書は、ローマの神話や伝承と、近世以降の文献批判を紹介するとともに、考古学調査のおもな成果を解説する。歴史の流れや出来事が、文献伝承中に語られている内容と符号することが、考古学によって鮮やかに導きだされていく。
(セキユノレキシ ロックフェラーカラワンガンセンソウゴノセカイマデ)
エティエンヌ・ダルモン、ジャン・カリエ 著/三浦礼恒 訳
原油価格の高騰が続いている。資源ナショナリズム、中国・インドの需要伸張、石油枯渇の危惧、イラン核開発問題の地政学的リスクなどが相場を押しあげている。本書は、1859年の本格的採掘開始から、それにつづく企業の創設、巨大多国籍化、国有・民営化、合併・買収などの国際石油資本の変遷をたどる。2006年4月までの動向を押さえた補遺と専門家による解説も収録。エネルギー安全保障で日本と類似するフランスの立場から論じた概説書である。
(カザフスタン)
カトリーヌ・プジョル 著/宇山智彦、須田 将 訳
ユーラシアの中心に位置し、世界第9位の広大な国土を擁する共和国─カザフスタンは、豊かな鉱物資源の開発によって著しい経済成長を続けている。本書は、その風土・歴史・政治・経済・外交を目配りよく紹介する。モンゴル帝国などの陰になりがちな遊牧民王朝の知られざる歴史を、現在の国境領域をふまえつつ解説している。欧州とアジアの架け橋の役割を担う共和国の全貌にせまる概説書。
(フランスノオンセンリゾート)
フィリップ・ランジュニュー=ヴィヤール 著/成沢広幸 訳
ヴィシーや、ミネラル・ウォーターで有名なエヴィアン、ヴィッテルなど、フランスには100を超える温泉地がある。もともと水治療という、病気治療や体質改善を目的とした温泉利用であるため、医学的療養の色彩が濃い。療養が医師によって指導され、社会保障制度が費用を負担するシステムまでできあがっている。本書は、フランスの温泉の歴史と特徴、経済効果や他のヨーロッパ諸国との比較をまとめた総合的案内書となっている。各温泉の適応症・レジャー施設の一覧も掲載。
(ゲンダイチュウオウアジア イスラム、ナショナリズム、セキユシゲン)
オリヴィエ・ロワ 著/斎藤かぐみ 訳
ロシアとどうつきあっていくのだろうか? かつてスターリンは、中央アジアにおける連帯意識を効果的に打ち砕くために、新しい言語をあつらえ、文字に人為的変更を加えるという強引な言語政策を進めた。ソ連崩壊後、相次いで独立した共和国において、新たな帰属意識形成のためにとられたのは、まさにこれと同じ手法であった。本書は、中央アジアの民族の分布から書きおこし、ソ連時代の政策を経て、独立した新生諸国(ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタン、トルクメニスタン)の政治・経済を解説する。ナショナリズム、地域対立、イスラム、石油資源などの要点を押さえた明解な概説書。
(フランスチュウセイシネンピョウ 481カラ1515年)
テレーズ・シャルマソン 著/福本直之 訳
次々と王朝が入れかわる激動の時代を展望――日本では古墳時代のさなか、フランスでは、フランク王国の初代国王クロヴィスが即位し、メロヴィング朝が幕をあけた。本書は、それに続くカロリング朝、カペー朝を経て、ヴァロワ朝のフランソワ一世の即位までをとりあげる。政治的出来事と、宗教的・文化的事項をまとめ、複雑な時代の理解を助けるために巻末には王家の系図も収録している。関連する逸話や社会背景についての訳注が随所にちりばめられた「読む」年表。