『日本国語大辞典』の初版は、日本大辞典刊行会の編集により昭和47年(1972)から51年にかけて全20巻が、続いて54年から56年にかけて縮刷版全10巻が上梓された。本辞典は、上代から現代に至る日本語の歴史を確実な文献によって跡づけた本格的な国語大辞典として、国語国文学界のみならず各界より高い評価を得て、海外においても日本語の研究には欠かせぬ基本的な資料となるに至っている。
この4半世紀の間、世界は激動し、政治・経済・社会・文化等あらゆる領域に及ぶ変貌は当初の予想をはるかに超えるものがあった。一方、科学技術の発展はめざましく、ことにコンピュータの驚異的な普及による文字情報処理の革新、通信手段の国際化は日本語の環境そのものを変えつつある。
初版刊行後、多くの読者からさまざまな意見が寄せられ、編集部ではその都度検討を重ねる傍ら、第2版を想定しつつ、大小の国語辞典や、ことわざ・方言等各種辞典を編纂することによって、新たな語彙・用例の採集と語釈の見直しを進めてきた。平成2年(1990)には、新しい委員による編集委員会が開かれ、資料を再検討して語彙と用例を増補すること、出典に成立年または刊行年を示すこと、近年の研究成果を反映した「語誌」欄を設けることなどが決められて、本格的な改訂作業に入った。
各時代別に設けた部会や、記録・宗教・民俗等の部会を通じて、総数50万におよぶ用例を新たに採集し、百科項目については最新の情報に更新すべく、各分野の専門家に逐一執筆あるいは校閲をお願いした。ほかに、古来の辞書類の漢字表記を示し、上代特殊仮名遣いにも言及するなど、第二版では、初版の方針をさらに具体的に実現するために種々の工夫を試みた。
20世紀までの日本語を集大成し、次世代に継承するというこの一大事業には幾多の困難を伴ったが、それを克服して、ほぼ予定通りに刊行できる運びとなったのは、編集・制作にかかわった一人一人の不断の創意と努力に負うところが大きく、また、関係識者のひとかたならぬ御協力と、大勢の読者からの熱い御支援があったからこそと深く感謝する次第である。第二版が、日本語の最も信頼できる辞書として、さらに広く世に受け入れられて活用されることを念じている。
平成12年11月 小学館