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 安倍晋三総理の悲願は自主憲法の制定である。同じ憲法改正を掲げる石原慎太郎「日本維新の会」代表と手を組み、今夏の参議院選挙で再び自民党が大勝すれば、改正に動き出すという見方が強くある。
 だが、事はそう簡単ではないと『週刊ポスト』(1/25号、以下『ポスト』)が「誰も知らなかった『憲法改正』の基礎知識」という大特集を組んだ。私は『ポスト』は改正容認派と見ていたから意外な感じはしたが、読んでみてなるほどと納得した。
 まず憲法改正のスタートは、衆議院議員100人、参議院議員50人以上の賛成で発議(提案)される。
 その際重要なのは「関連事項ごとに区分けして行なう」ことで、たとえば第1条の「天皇」に関する条文と、第9条「戦争の放棄」の条文改正は別々に発議されるのである。
 したがって自民党が作っている改正草案をすべて実現しようとすると、100以上の発議が必要になる。
 発議、本会議での趣旨説明の後に、衆参それぞれに設置された憲法審査会で議論される。審査会には各政党・会派の議席数に応じた委員が出席しており、審査(審議)や公聴会を経て、委員の過半数の賛成を得て可決となる。
 ここを通過しても憲法改正発議には議員定数の3分の2(衆院では320、参院では161)以上の賛成が必要。項目ごとの採決となるので「1条改正は可決、9条改正は否決で廃案」というケースもある。
 その後、可決された発議は別の院に送付され、先院(先に審査、採決をした院)と同様に「趣旨説明→審査会採決→本会議採決」という流れをくり返す。後院(発議したところとは別の院)でも同じ数の賛成が要る。
 一方の院で可決、もう一方で否決となった場合はどうするのか? 憲法改正には「両院で3分の2以上の賛成」が憲法96条に規定されているから、衆院の議決優先はない。
 この高いハードルを超えて初めて改正案は両院議長によって国民に提案され、60~180日以内に国民投票にかけられる。
 投票前に「国民への周知期間」があり、国会に設置された広報協議会が新聞やテレビなどで改正案を広報し、各政党や市民団体は「改正は必要」「改正反対」という投票運動を行なうことができる。
 投票日の2週間前から有料広告が禁止され、国が決めた枠での放送・新聞広告だけになる。
 投票方法は印刷された「賛成」「反対」のいずれかに○をつける二択式だが、区分が100以上に分かれた場合、区分ごとの投票箱が必要になり、投票を済ませるまでに数時間かかることもあり得る。
 有効投票の過半数の賛成があれば承認される。仮に投票率が40%であれば、全有権者の20%の賛成でも憲法改正は実現することになるから、「国民投票が成立するための最低投票率を定めるべきだ」という指摘もある。諸外国では最低投票率を50%としているところが多いようだ。
 このように、憲法改正までは「途方もなく長く、煩雑な道程」が待っていると『ポスト』は結んでいる。また、憲法改正といっても自民党と維新、みんなの党の方向性は正反対だから、改憲政党の中でも大きな対立が起きると『ポスト』は読んでいる。
 安倍総理、これでも改正やりますか?

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読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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