コトバJapan! 社会 の 記事一覧


 クリックするだけで世界にアクセスできるインターネットは、我々の視野をおおいにひろげてくれるツールである。……過去にはそんな幸せな展望もあった。現実的には、「有用な」「都合のいい」ワードしか検索しないことが多い。最適化された検索結果から、好きな情報だけ読んでいれば、逆に視野が狭くなる可能性も高い。

 最近、ネット上における「エコーチェンバー現象」がよく語られている。「エコーチェンバー」とは、音楽がよく響くように設計された「残響室」のことである。たとえばSNSでは、基本的に同じ趣味や思想のコミュニティができ上がる。「おかしな反論をしてくる連中」がいれば排除すればいいだけのことだ。だから、互いが互いの意見に共鳴して、自分たちがあるべき正義のように思い込んでしまう。意見というものは、反対意見について考えることでしか磨き上げられないのに。

 多くの仲間たちとインターネット空間に引きこもっていると、どんどん自信がついてきて、主張も攻撃的になりがちだ。非常によく見かけるのが、新聞など大手マスコミに関する批判。もちろん思想の偏りはみえる。だが少なくとも、しっかりと取材して書かれている記事が多く、その正確性はネット上のあやしげな情報と比べものにならない。もちろん、マスコミというものは冷静な批判にさらされてしかるべきだが、少なくとも「新聞は嘘つき。ネットが真実」ではなかろう。エコーチェンバーの中にいると、それすらもわからなくなってくる。

 とはいえ、社会に影響力を持つ層が、いまから急にSNSから距離を置くことなどありえない。今後の我々は、ネットを活用できる賢さを身につけられるのか。それともネットに翻弄され、断絶が断絶を呼ぶ、悪夢的な世界に生きることになるのか。まずは、なるべく多様な意見に耳を貸す心の余裕が求められるだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 「カップ焼きそば現象」とは、もとのモノから派生した食品などが、別モノとして人気を獲得する現象のことだ。桜場コハルの漫画『みなみけ』に登場する、「焼きそばを食べたい時とカップ焼きそばを食べたい時は別の時」というくだりから広まった。もとはネットスラングといえるが、いろんな事象を説明するのに便利で、リアルの場でも耳にする機会があるようだ。

 たとえば、ソーセージと魚肉ソーセージ、インドなどのカレー料理とそこから独自の進化を遂げたカレーライスなど、食の分野では「カップ焼きそば」的な関係性が語られることが多い。カニの肉を模したカニカマなどは、いまや「surimi」の名前で世界的にも有名な食品だ。インスタントラーメンの例を持ち出すまでもなく、「似せてつくった→気がついたらもはや違う美味(うま)さになっていた」は、昔から日本のお家芸といえる。

 ちなみに「カップ焼きそば現象」は、アニメなどで「キャラクターデザインがそっくりだがよく見ると違う」という意味でもよく使われる。意図的か偶然かはさしおいて、人気キャラをめざそうとすると、表現のパターンは集約されるものらしい。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 最近、JK(=女子高生)を中心とする若者のあいだから流行り出した……そうな相づちの一種。

 「JKを中心とする〜」からには、とても解読不可能な難解ワードかと思いきや(※実際、字面だけを見れば意味深な雰囲気をかもし出していなくもない?)……よくよく調べてみると、なんてことはない「そうだね!」「たしかに!」「それいいね!」「そのとおり!」……といった賛同の意を伝えるカジュアルな台詞の一種であるらしい。

 ちなみに、自慢じゃないが、筆者は「それな!」をもう20年ほど前から、わりと頻繁に使用しており、これが今さら流行語としてフィーチャーされていることに、今ひとつピンと来ていない。

 一度、電車のなかで大学生風の男女が会話ごとに「それな」「それな」……を連発しているのを目の当たりにしたんだが、「それな!」の「!(=ビックリマーク)」を感じさせるイントネーションの強弱、メリハリはほとんど確認できず、どちらかと言えば「それな」「それな」……と、平淡な語感の相づちっぽく、あえて例えるなら「ほう…」だとか「ふぅ〜ん…」程度の覇気がないニュアンスでしかなかった気がする。

 「JKを中心とする若者発の言葉」とするよりは、「昔からあった常用語を、若者風の使い方にアレンジした」と“解説”したほうが、より正確なのではなかろうか?
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス