コトバJapan! 結城靖高 の 記事一覧

結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。


 クリックするだけで世界にアクセスできるインターネットは、我々の視野をおおいにひろげてくれるツールである。……過去にはそんな幸せな展望もあった。現実的には、「有用な」「都合のいい」ワードしか検索しないことが多い。最適化された検索結果から、好きな情報だけ読んでいれば、逆に視野が狭くなる可能性も高い。

 最近、ネット上における「エコーチェンバー現象」がよく語られている。「エコーチェンバー」とは、音楽がよく響くように設計された「残響室」のことである。たとえばSNSでは、基本的に同じ趣味や思想のコミュニティができ上がる。「おかしな反論をしてくる連中」がいれば排除すればいいだけのことだ。だから、互いが互いの意見に共鳴して、自分たちがあるべき正義のように思い込んでしまう。意見というものは、反対意見について考えることでしか磨き上げられないのに。

 多くの仲間たちとインターネット空間に引きこもっていると、どんどん自信がついてきて、主張も攻撃的になりがちだ。非常によく見かけるのが、新聞など大手マスコミに関する批判。もちろん思想の偏りはみえる。だが少なくとも、しっかりと取材して書かれている記事が多く、その正確性はネット上のあやしげな情報と比べものにならない。もちろん、マスコミというものは冷静な批判にさらされてしかるべきだが、少なくとも「新聞は嘘つき。ネットが真実」ではなかろう。エコーチェンバーの中にいると、それすらもわからなくなってくる。

 とはいえ、社会に影響力を持つ層が、いまから急にSNSから距離を置くことなどありえない。今後の我々は、ネットを活用できる賢さを身につけられるのか。それともネットに翻弄され、断絶が断絶を呼ぶ、悪夢的な世界に生きることになるのか。まずは、なるべく多様な意見に耳を貸す心の余裕が求められるだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 「カップ焼きそば現象」とは、もとのモノから派生した食品などが、別モノとして人気を獲得する現象のことだ。桜場コハルの漫画『みなみけ』に登場する、「焼きそばを食べたい時とカップ焼きそばを食べたい時は別の時」というくだりから広まった。もとはネットスラングといえるが、いろんな事象を説明するのに便利で、リアルの場でも耳にする機会があるようだ。

 たとえば、ソーセージと魚肉ソーセージ、インドなどのカレー料理とそこから独自の進化を遂げたカレーライスなど、食の分野では「カップ焼きそば」的な関係性が語られることが多い。カニの肉を模したカニカマなどは、いまや「surimi」の名前で世界的にも有名な食品だ。インスタントラーメンの例を持ち出すまでもなく、「似せてつくった→気がついたらもはや違う美味(うま)さになっていた」は、昔から日本のお家芸といえる。

 ちなみに「カップ焼きそば現象」は、アニメなどで「キャラクターデザインがそっくりだがよく見ると違う」という意味でもよく使われる。意図的か偶然かはさしおいて、人気キャラをめざそうとすると、表現のパターンは集約されるものらしい。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 2020年東京オリンピックがいよいよ近付いてきた。その前に、来年は韓国での平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックを控えている。が、計画の遅れなどが報道され、どうもマイナスのニュアンスでとらえられることも多い。加えて北朝鮮情勢も厄介になってきた。2022年には北京でも冬季五輪が開催される。韓・日・中という五輪アジアリレーの先陣を切る韓国、その成否がアジア全体に及ぼす影響は大きいのだが。

 そんな平昌大会のマスコットキャラクターが、白虎の「スホラン」。白虎は現地では「守護」の象徴とされている。名前の「スホ」もその意味だ。加えて、トラを意味する「ホランイ」、開催自治体の江原道(カンウォンド)民謡「旌善(チョンソン)アリラン」から来た名前を持つ。そのデザインは、筆者の主観では、小つぶな目の癒やし系といった愛らしさがある。パラリンピックのマスコットであるツキノワグマの「バンダビ」とともに、五輪を盛り上げる……はずだった。

 古くはロス五輪の「イーグルサム」など、毎回、それなりに話題を集める五輪のマスコット。だが、今回は心なしかマスコミへの露出が少ないように思える。情報が少ないが、スホランを巡って組織内での協議が遅れ、この期に及んでも立ちゆかなくなっているらしい。ここはキャラクター活用をゴリゴリと推し進めるべきタイミングで、運営面での熱意のなさが残念といえよう。不安は大きいが、いまからの盛り上げに期待したいところだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高