コトバJapan! 早川幸子 の 記事一覧

早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。


 これまで男性の仕事とされてきた狩猟の世界に、足を踏み入れる「狩猟女子」が3~4年前からメディアに登場するようになった。

 一見、どこにでもいそうな若い女性が、山や森に入り、罠を仕掛けたり、銃を使ったりして、クマやイノシシ、シカ、サル、ウサギなどの野生鳥獣を捕獲する。鳥獣の種類にもよるが、たとえばイノシシだと、体長は100~180cm、体重が80~180㎏ほどになる。力のある男性でも扱いに手こずるものだが、狩猟女子たちは自分よりもはるかに大きなイノシシを解体し、調理して食べている。

 ブームを象徴する1冊の本が、畠山千春さんの『─狩猟女子の暮らしづくり─ わたし、解体はじめました』(木楽舎)で、東日本大震災を機に、自給自足の暮らしを目指した彼女が、狩猟免許を取得して狩猟女子になるまでの心の動きや暮らしの変化を描いている。

 また、2012年には、北海道で「狩猟(shoot)」と「食(eat)」を2本の柱に掲げて活動するTWIN(The Women In Nature -shoot & eat-)という女性狩猟者の団体も発足。狩猟者確保のために女性ならではの視点と発想で狩猟環境を整え、捕獲した野生動物を食や衣などの暮らしに取り入れる提案を行なうのが目的だという。

 これらの狩猟女子に共通するのは、たんに野生動物を捕るという行為にとどまらず、「食」とのつながりを考え、「命をいただく」ことに真摯に向き合う姿勢だろう。

 ただ、狩猟女子の注目を、無邪気に眺めてばかりもいられない。ブームの裏にあるのが、狩猟者数の全体の減少だ。1975年度に51.8万人いた狩猟免許所持者は、2012年度は18.1万人まで落ち込んだ。その後、狩猟ブームの影響で所持者は増加傾向にあるものの、2014年度は19.4万人だ。このうち12.9万人が60歳以上で狩猟者の高齢化も問題になっている。さらに言えば、この統計には免許を持っているだけのペーパー猟師も含まれているので、実際に活動している人はさらに少ないことが予想される(環境省「年齢別狩猟免許所持者数」より)。

 狩猟者の減少が原因のひとつと考えられているのが、野生鳥獣の増加により農産物への被害が深刻化していることだ。1990年代に20万頭ほどだったイノシシは、現在は100万頭に、シカは30万頭から300万頭に増加しているといわれている。これは、狩猟者のいなくなった地域で生態系が変化し、野生動物の生息域が拡大した結果、イノシシやシカ、サルなどによる農作物への被害が多発するようになったから、というのが大方の見方だ。

 これに比例して害獣として駆除された野生動物も増えており、イノシシは1990年度の7万200頭から、2014年度には52万600頭に。シカは1990年度の4万2000頭から、2014年度は58万8000頭へと増加している。

 このまま狩猟者が増加しなければ、山や森の生態系を守れなくなり、農産物への被害が拡大する恐れもある。狩猟女子が注目される背景には、狩猟者の減少と高齢化という待ったなしの状況が隠されていたというわけだ。

 ただ、一方で哀れなのは駆除されたイノシシやシカなどの野生動物たちだ。現状では、捕獲されてもジビエとして食用に回るのは1割程度で、ほとんどは焼却処分されたり、その場で埋められている。いくら害獣とはいえ、ただ殺して、埋めるという行為は、命あるものへの冒涜のようにも感じる。

 駆除された野生動物が食用に回らないのは、食品衛生法第52条により、食肉処理業の許可を得ていない施設で解体されたイノシシやシカなどは販売できないこととも関係している。野生動物の場合は、狩猟後すぐに屋外で解体されることが多いため、現状では市場にのせるのは難しい。

 生態系を守るために狩猟免許取得者を増やすなら、そこで駆除されたイノシシやシカの命を最後までいただくための仕組み作りも考えたいもの。それには、狩猟の延長線上に「食」や「衣」を見出している狩猟女子たちの視点が必要なのではないだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 警察によるGPS(全地球測位システム)捜査は、重大なプライバシーの侵害にあたるのか。

 3月15日、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は、「裁判所の捜査令状を取らずにGPSを使った警察の捜査は違法である」とする判決を下した。

 最高裁判決が下されたのは窃盗事件の上告審だが、争点は警察の捜査手法で、GPS捜査が重大なプライバシーの侵害にあたるかどうかが問われる裁判となった。

 警察は令状を取らずに、関西を中心に窃盗を繰り返していた男と共犯者の車やバイクにGPS端末を取り付けて位置情報を継続的に確認。捜査員はGPSのバッテリー交換のために、無断で私有地に立ち入るなどの行為を行なっていたのだ。窃盗は犯罪ではある。だが、捜査だからといって警察なら何をしてもいいわけではない。法治国家であるならば、人権を無視した捜査は許されないはずだ。

 そのため、一審の大阪地裁は、この捜査手法が「プライバシーを大きく侵害する強制捜査にあたる」と判断し、GPSによる証拠を排除して残りの証拠で被告を実刑とした。だが、二審の大阪高裁判決では有罪を維持しながら、「GPS捜査に重大な違法性はない」として一審判決を覆す内容となり、被告が上告していた。

 2月22日、原告・被告双方の主張を聞く弁論で、GPS捜査について検察側は「令状のいらない任意捜査の範囲内」「令状不要の張り込みや尾行を超えるプライバシーの侵害はない」と主張。一方、弁護側は「令状がなければできない強制捜査。GPSによる行動監視は重大なプライバシーの侵害にあたる」として、権力による行動の監視を牽制していた。

 だが、犯罪容疑に関する権利は、憲法第三十五条で次のように決められている。

憲法第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

 今回の最高裁判決では、憲法で定めた犯罪容疑に関する権利に「私的領域に侵入されない権利も含まれる」として、GPS捜査も権利保護の対象になるという見解を示した。

 人工衛星からの電波で現在位置を測るGPSを用いると、「いつどこにいたか」という行動のすべてを把握できるので、犯罪容疑とは直接関係のない情報まで警察が収集し蓄積することも可能になる。人には知られたくない情報を警察が握ることで、個人が不利な立場に追い込まれることも予想される。

 最高裁大法廷は裁判官15人の全員一致で「GPS捜査は、プライバシーを侵害し、令状が必要な強制捜査にあたる」と認定。現在の刑事訴訟法の枠組みでGPS捜査を行なうのは、手続きの公平さが担保する仕組みがないとして、新たな立法措置が必要という見解を示したのだ。

 今回の最高裁判決を受けて、警察庁はGPS捜査を控えるように全国の警察に通達。今後、法務省で特別法の制定などが検討される予定で、立法化されるまでは「ごく限られたきわめて重大な犯罪」に限って、現行の令状で捜査が認められることになりそうだ。

 これまでGPS捜査は、令状のいらない任意捜査と位置づけられ、当たり前に使われてきた。だが、今回のGPS捜査に関する最高裁判決によって、警察には法律の根拠なく行なってきた情報収集活動を見直すことが求められる。

 4月6日に、衆議院本会議で審議入りした組織的犯罪処罰法の改正案には、犯罪を計画段階で処罰できる「共謀罪」が盛り込まれているが、警察の情報収集活動に対して懸念を示す声が大きい。

 今回の最高裁判決が、共謀罪をめぐる警察の情報収集活動にも歯止めとなるのか。審議の行方を注視したい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 体外受精による「着床前スクリーニング」の臨床研究が始まった。2月14日に日本産科婦人科学会が発表したもので、体外受精でつくられた受精卵の染色体を調べ、変異がないものだけを子宮に移植するという。

 スクリーニングすることで、流産を予防し、妊娠率や出産率を引き上げるのが研究の目的だが、染色体に変異のある受精卵を作為的に排除することは命を選別することになる。そのため、今回の臨床研究には大きな懸念の声も上がっている。

 体外受精は、ヒトの卵子と精子を体の外で受精させて子宮に移植する不妊治療のひとつ。しかし、体外受精した卵子を子宮に入れても必ず妊娠するわけではなく、妊娠しても流産を繰り返すケースもある。原因のひとつとして考えられているのが染色体の変異だ。

 染色体は、人を形づくる遺伝子の情報を伝達するもので、通常は2本1組のものが23組ある。ただし、卵子や精子が分裂したり、受精卵が成長したりする過程で何らかの異常が起こると、1組の染色体が1本になったり、3本になったりすることがある。

 今回、新たに行なわれる臨床研究では、体外受精した受精卵を培養皿で育てる過程で染色体の数を調べ、1組2本の染色体をもつ受精卵だけを選んで子宮に移植する。

 対象は、女性が35~42歳のカップルで、「過去に3回以上体外受精しても妊娠しなかった」「原因不明の流産を2回以上経験した」という人のなかから、まず50組を予備的な研究対象とする。受精卵のスクリーニングをしないで、選別なしに子宮に移植した場合と妊娠や出産、流産の割合を比較し、その結果を踏まえて本格的な研究を始めるという。

 すでに欧米では着床前スクリーニングは実施されるようになっており、不妊や流産の確率を減らせるという研究結果もある。不妊や流産に悩んでいるカップルには朗報だが、倫理面では大きな問題をはらんでいる。

 着床前スクリーニングは、超音波診断(エコー)や羊水検査などの出生前診断と異なり、子宮に移植する前の受精卵の段階で染色体数が1組2本以外のものを排除する。

 だが、染色体が1組2本以外の受精卵が、すべて着床しないわけではない。たとえば、21番染色体が3本あるとダウン症候群となるが、そのすべてが流産しているわけではなく、元気に生まれて天寿を全うしている人もいる。

 また、性別を決定する性染色体のうちX染色体が2本以上ある男性はクラインフェルター症候群となるが、流産しないで成長しているケースもある。クラインフェルター症候群は無精子症になることが多いが、大人になって結婚した場合、体外受精で子どもを授かることも可能で、その子どもにクラインフェルター症候群が遺伝する確率は低いといわれている。

 染色体の数や構造に違いのある受精卵が流産する確率が高いのは事実だが、多様な染色体をもって生まれて、その人らしい生を全うしている人がいるのだ。

 着床前スクリーニングで「異常」と決めつけ、1組2本以外の染色体をもつものを受精卵の段階ですべて排除することは、多様な染色体の形をもつ人が生まれる機会を奪うことになる。それは、障害の有無などによって人に優劣をつけようとする優生思想につながりかねず、多様な人々を包摂する社会を否定することにもなる。

 日本産科婦人科学会は、研究の有用性とは別に倫理面の検討も行なうとしている。だが、一度始まってしまうと、検査の範囲は染色体の変異だけではなく、さまざまな病気や障害に関係する遺伝情報にまで広がる可能性もある。そうなれば、生まれることを拒否される命はさらに増えることにもなりかねない。

 命の誕生という神の領域を、人間が作為的に手を加えた世界には何が待っているのか。どうしようもない不安を覚えるのは、筆者だけではないだろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子