コトバJapan! 早川幸子 の 記事一覧

早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。


 南海キャンディーズの山里亮太や、渡辺直美、品川庄司の庄司智春(しょうじ・としはる)らお笑い芸人が相次いで症状を告白。注目を集めているアニサキスによる食中毒だが、ここ最近被害報告が増加している。

 厚生労働省によると、2007年に6件だったアニサキスによる食中毒の被害報告は、2016年に124件に増加。これをもとにした全国での発生件数は、年間7000件に上ると推計される。保存技術の進歩や流通網の多様化により、魚介類を生で食べる機会が増えたことが原因だとして、注意を呼びかけている。

 アニサキスは寄生虫の一種で、その幼虫は長さ2~3cm、幅0.5~1㎜ほどの白い糸のような形状をしている。サバ、イカ、サケ類、サンマ、アジ、イワシ、カツオなどの魚介類の内臓に幼虫が寄生しており、その魚介類が死ぬと内臓から筋肉に移動する特性がある。

 アニサキスが寄生していても、その魚介類を十分に加熱するか、マイナス20度以下で24時間以上冷凍すれば死滅するが、生のままだと魚介類の中で生き続ける。そうしたアニサキスが寄生したままのサバやイワシ、イカなどを生、または生に近い状態で食べると、アニサキスが人の胃壁や腸壁を刺して食中毒(アニサキス症)を引き起こすことがある。

 その多くは、胃に激痛を感じる急性アニサキス症で、食後数時間から十数時間後に、みぞおちに激しい痛みや吐き気、嘔吐などの症状が起こる。腸でアニサキス症が発症した場合は、食後数時間から数日後に吐き気や嘔吐を伴った持続する腹痛や差し込むような痛みが起こる。

 アニサキス症を避けるためには、魚介類の生食を避けて、よく加熱することが大切だ。また、冷凍処理するとアニサキス幼虫は感染性を失うので、生で食べる場合はいったん魚を冷凍して解凍後に刺身にするなどの方法が有効だ。また、新鮮なうちに魚介類の内臓を取り出すことも、感染を減らすことには効果がある。また、イカそうめんやなめろうにするなど、漁師たちが昔からやっている切り刻むという調理法も効果があるそうだ。

 酢で〆たり、醤油につければ、アニサキス症を予防できるとの期待もあるが、料理に使う程度の量や濃度では幼虫を死滅させるには至らない。生で食べる場合は、よく目で確認して、アニサキス幼虫がいないかどうかを確認する必要がある。

 アニサキス症になった場合、放置しておいても人の体内に入ったアニサキス幼虫は3~4日程度で死ぬが、その間、激しい痛みに悩まされる。

 サバなどの生魚を食べて、数時間後に激しい胃の痛みを感じたら、消化器系を専門とする医療機関を受診しよう。アニサキス症と診断されると、現在は胃の内視鏡を使って、胃粘膜に穿入(せんにゅう)している幼虫を取り除く処置が行なわれる。

 ちなみに、民間の医療保険などに加入していて、手術給付金の支払い対象に内視鏡手術が含まれているものであれば、請求すれば手術給付金を受け取ることが可能だ。忘れずに請求しよう。

 刺身は和食の真骨頂ではあるが、アニサキス症で胃に激痛を受けるのご免被りたい。生でサバなどを食べるときは、ご注意を。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 「総理夫人とは、公人ではなく私人であると認識しており、それはお尋ねの『安倍昭恵総理夫人』についても同様である」(内閣衆質一九三第一一二号 平成二十九年三月十七日)

 「憲法や教育基本法(平成十八年法律第百二十号)等に反しないような形で教育に関する勅語を教材として用いることまでは否定されることではない」(内閣衆質一九三第一四四号 平成二十九年三月三十一日)

 これは、今国会(第一九三回通常国会)会期中に安倍内閣で閣議決定された答弁書の一部だ。

 閣議決定は、総理大臣をはじめとする内閣全体の統一見解を示すもので、本来は法律や予算案などの重要政策の基本方針を決める際に用いられるものだ。

 内閣の意思決定手段のなかで最も高く位置づけられており、ひとりでも反対する閣僚がいると閣議決定はできない。全閣僚の意思統一が原則なので、政策決定が優先される場面では閣議決定に反対する大臣は罷免(ひめん)されることもある。

 もちろん、法律を制定するためには改めて国会に図る必要があるが、閣議決定は内閣、ひいては政府の統一見解を国内外に示す重要なもので、閣議決定された法案の9割は成立している。

 ところが、このところニュースで取り上げられる閣議決定には、冒頭のように「こんなものが…」と首をかしげざるを得ないものもある。

 なぜ、安倍内閣は、わざわざ総理夫人を「私人」と閣議決定したり、教育勅語を教材として使用することの是非を閣議決定したりしているのだろうか。

 実は、冒頭の閣議決定は国会議員からの質問主意書に対する答弁書で、内閣にはこれに答える義務があるからだ。

 質問主意書は、国会議員が国政に関することを内閣に対して質問する文書で、内閣は原則的に7日以内に答弁書を作って、閣議決定して回答しなければならない(国会法第75条)。

 質問主意書を衆参の議長に提出すると、国会の各委員会や本会議での質疑の場以外に政府の見解を問いただすことができるため、与えられている質問時間の短い野党や無所属議員にとっては有効な政治活動になっている。過去には質問主意書によって問題解決が図られた事案もある。また、政府の見解が明らかになり、国民が政権評価をするときの情報にもなっている。

 ただし、今国会での質問主意書は、明らかにこれまでとは質の違いが見て取れる。

 これまでは、医療や介護、沖縄の基地問題など国民生活に直結する質問、政府や官僚組織内で起こっている不祥事について情報提供を促すものなどが主流だったのに対して、今国会では総理大臣をはじめとする閣僚の発言の趣旨を問いただすものが目につく。

 たとえば、「稲田防衛大臣の法的な意味における戦闘行為との答弁に関する質問主意書」「安倍総理の東京オリンピック招致演説に関する質問主意書」「アドルフ・ヒトラーの著作『我が闘争』の一部を、学校教育における教材として用いることが否定されるかどうかに関する質問主意書」などが提出されている。

 教育勅語に関する政府見解や、総理夫人の行動や言動に関する質問については、提出者が入れ替わりながら複数の質問主意書が出されているのも特徴だ。

 こうした質問主意書が提出されるのは、それだけ現閣僚、その関係者の言動や行動が、これまでとは異質のものに映っているからにほかならないが、そこで閣議決定された内容に不安を覚えている国民も多いだろう。

 教育勅語は、国のために身をささげる軍国主義を正当化する内容で、基本的人権を損なっていることを理由に、1948年に国会で失効を決議している。ところが、当初の閣議決定では、憲法や教育基本法に違反しないことを前提としているものの、道徳の教材などに使うことを否定していなかった。その後、別の質問に対して「教育現場での教育勅語の活用を促す考えはない」という新たな答弁書が出されたが、政府の統一見解がこれほどまでにコロコロと変わるのはあまりにも軽く、閣議決定の存在意義を疑わざるを得なくなる。

 憲法や法律に適合していなかったり、歴史的事実を顧みず国民感情と大きく乖離したりしている閣議決定は、いくら時の内閣が統一見解だと示したところで、国民は受け入れることはできない。

 閣議決定は、国の行く末を決める重要なもので、今のような軽い扱いは理不尽だ。日本だけではなく、世界の人々にとっても望ましいものになるように、本来の重みを取り戻してほしい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 数々のポテトチップスがスーパーの棚から消えて早1か月が経過した。

 3月上旬、大手菓子メーカーのカルビーが、4月から自社のポテトチップス製品の一部を休売することを発表。同様に、湖池屋(こいけや)も一部商品の終売・休売に追い込まれた。これを受けて巷では、買い占めやネットオークションでの高値販売まで起こる始末。ポテトチップス狂騒曲は、この春の大きな話題となった。

 原因は、北海道産ジャガイモの不作だ。

 地域によって異なるが、ジャガイモは春に植えつけたあと5月末から8月にかけて収穫する。北海道の収穫時期は8~9月だ。ところが、2016年8月は北海道に観測史上はじめて1週間で3つの台風が上陸し、大雨によって農作物は大打撃を受けた。この台風の被害によって、道内産のジャガイモの出荷量は前年よりも1割少ない152万6000トンにとどまった。

 カルビーも、湖池屋も自社製品の原料であるジャガイモの7~8割を北海道産に頼っている。昨夏、北海道を襲った台風が、この春のポテトチップス生産に大きな影響を与えたというわけだ。

 では、輸入に頼ればいいかというと、問題はそう簡単ではない。

 外国からの病害虫の侵入を防ぐために、日本では植物防疫法によって輸入植物の検疫が行なわれている。ジャガイモには「ジャガイモシストセンチュウ」などの病害虫がおり、これらが発生している欧州、アメリカ、カナダ、メキシコ、ペルー、アルゼンチン、インドなどからの輸入は原則的に禁止されている。

 現状、生のジャガイモを輸入することはできないため、日本では国内産のジャガイモを使ったポテトチップスしか作ることはできないのが実情だ。

 ジャガイモの収穫は年に1回。そのため、ポテトチップスメーカーでは、貯蔵技術を駆使し、収穫したジャガイモの発芽を抑え、糖度が上がらないようにして保存している。糖度が上がると、ポテトチップスの色が黒くなり焦げやすくなるからである。そうした技術のおかげで、これまで日本では1年中、ポテトチップスの生産を可能にしてきた。ところが、昨夏の不作で収量自体が不足し、終売・休売に追い込まれる製品が出てしまったのだ。

 TPPが成立すれば、外国からのジャガイモはどんどん入ってきて、いつでもポテトチップスが食べられるようになるかもしれない。だが、外国産のジャガイモは、日本では禁止されている発芽を抑える薬品などが使われていることもあり、食の安全面では不安もある。また、メーカーが国内産ジャガイモにこだわるのは、その品質の違いもある。

 自然を相手にする農作物は本来、出来不出来が一定ではないのが当然のことだ。都市生活にどっぷり浸かっていると、当たり前の農の営みも忘れがちだ。今回のポテトチップス狂騒曲は、食の調達や供給のもろさを感じさせることになったが、当たり前にある日常が当たり前ではないことを日本人に知らせてくれたのかもしれない。

 人間の力ではどうにもならない自然と対峙した結果、ようやく得られるのがジャガイモをはじめとした農作物だ。だからこそ収穫の喜びはひとしおなのだ。

 今年は自然災害に見舞われずに、豊作の年になることを願いたい。そして、秋にはポテトチップスを食べながら収穫の喜びを分かち合いたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子