コトバJapan! 早川幸子 の 記事一覧

早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。


 独特の仕草と愛らしい表情で、人を魅了する猫たち。愛猫のためならお金に糸目をつけずに餌や玩具などを与える猫好きも多く、ネコノミクスの快進撃は衰えを知らない。そうした飼い主に出会えた猫は、家族として慈しみ、育てられ、暖かい寝床と空腹を満たす餌に事欠くことはないだろう。

 その一方で、飼い主のいない猫たちもいる。環境省の「動物愛護管理行政事務概要」によると、2015年度に全国の動物愛護相談センターに持ち込まれた猫は9万75匹。そのうちの6万7091匹が殺処分されている。10年前の殺処分数22万6702匹に比べると3分の1以下に減少したものの、いまだ人間の都合で多くの罪のない猫の命が奪われている。

 そうしたなか、2011年から6年連続で「猫の殺処分ゼロ」を実現しているのが、東京都千代田区だ。

 野良猫による糞尿、ゴミ荒らしなどの苦情が保健所に寄せられ、頭を悩ませていた千代田区では、2000年から「飼い主のいない猫の去勢・不妊手術費助成事業」を開始。翌年、住民と在勤者によるボランティアと動物病院の獣医師などがネットワークを組んで、「ちよだニャンとなる会」が発足した。

 そして、路上で暮らす飼い主のいない猫に不妊・去勢手術を行なって繁殖を抑え、元の場所に戻して地域猫として見守っていく「TNR(Trap,Neuter,Return=一時保護/去勢・不妊手術/元の場所に戻す取り組み)活動」を行なっている。

 また、区の協力のもと、区内で保護された猫の譲渡会を定期的に開催し、飼い主探しもしている。譲渡の対象になる猫は、ワクチン接種、去勢・不妊手術、ウィルス検査、のみやダニの駆除も済んでおり、参加費用もかからない。猫が、愛情を注いでくれる飼い主と出会えるような場を提供しているのだ。

 こうした活動が実を結び、千代田区は猫の殺処分ゼロを実現。全国の意欲ある自治体やボランティアの間に、この取り組みが広がりつつある。

 犬に比べて、猫の殺処分数は格段に多い。それは、繁殖率の高い猫の特性にもある。猫は、年に2~3回出産し、1回につき4~5匹の子猫が生まれる。いくら可愛くても、生まれた子猫すべてを飼ったり、新たな引き取り手を探したりするのは難しい。その結果、全国の動物愛護相談センターに持ち込まれて、殺処分の対象となっている猫の8割が生まれたばかりの子猫となっている。

 人間の都合で、猫に不妊・去勢手術を施すことに異を唱える意見もあるが、飼い主のいない猫を年間数万頭ずつ殺処分している現実の前では、バースコントロールは不可欠な対処法となっている。

 2月22日は、「にゃんにゃんにゃん」の猫の日だ。

 人の都合で殺処分される猫がいなくなり、人と動物が共生できる社会の実現を祈りたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 1月17日、「ハーボニー配合錠」というC型肝炎治療薬の偽造品が見つかったことを、厚生労働省が発表した。

 ハーボニー配合錠(成分名:レジパスビル アセトン付加物/ソホスブビル)は、C型肝炎ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬だ。副作用がほとんどなく、100%に近い確率で治癒することが期待されている画期的新薬で、2015年8月に国の薬価収載時には大きな話題を呼んだ。

 話題になったのは、その効果だけではない。収載直後の薬価は1錠あたり8万171.3円で、高額薬の登場としても注目を浴びたのだ。その後、薬価は改定され、現在は1錠あたり5万4796.9円まで引き下げられたが、まだまだ高額であることに変わりはない。

 ハーボニー配合錠は、1日1回12週間、継続して服用することで効果を示すもので、1クールの薬剤費だけで500万円近くなる。ただし、公費助成の対象なので、患者の自己負担は原則的に月1万~2万円だ。

 今回、このハーボニー配合錠の偽造品が、奈良県の調剤薬局チェーンと東京都の卸売販売業者から見つかり、医薬品業界に動揺が走っている。

 ハーボニー配合錠の正規品はだいだい色をした菱形の錠剤で、白い樹脂製の薬品ボトル1本につき28錠入っている。また、薬剤には必ず、薬の効能や服用方法、副作用、禁忌などが記載された添付文書がつけられている。

 ところが、今回、厚生労働省が問題の偽造品を分析した結果、ボトルの中身は市販されているビタミン剤や漢方薬、別のC型肝炎治療薬のソバルディだったり、本物のハーボニー配合錠とその他の錠剤が混在していたりするものもあった。錠剤の入った薬剤ボトルは正規品なので、何者かが中身を入れ替えたものと推測されており、添付文書もついていなかった。

 偽造品の納入ルートは、製薬メーカーが指定した正規の医薬品卸売業者ではなく、いわゆる「現金問屋」と呼ばれる業者だ。

 通常、医薬品は製薬メーカーから医薬品卸売業者を介して調剤薬局や医療機関に納入されるが、購入したものの在庫がダブついている医薬品を、薬局などが現金問屋に持ち込むこともある。

 そうした現金問屋では、公定価格よりも安く買い取って、別の卸売業者に転売することで利ざやをもうけている。

 1錠あたり5万4796.9円するハーボニー配合錠は、1ボトル(28錠)あたり約153万円するが、現金問屋での買い取り価格はこれを大幅に下回っていたようだ。

 そうした非正規ルートで仕入れれば、薬局も医薬品を安く購入できる。その一方で、患者や健康保険組合には国が決めた薬価で請求できるので、ここでどれだけ薬価差益を取れるかが、薬局の経営にも影響を与えている。今回のC型肝炎偽造薬の問題が起こった背景には、こうした医薬品の納入ルートがあることも原因のひとつといえるだろう。

 医薬品研究の進歩によって、ハーボニー配合錠のように、これまでとは桁違いの高額薬が次々と登場しており、今後、類似の問題が起こらないとも限らない。

 今回は、幸いにも健康被害を訴えた患者は出ていないが、患者が偽造薬と気づかずに服用してしまったら、せっかく始めた治療にも影響を及ぼす可能性もあった。今回の問題を受けて、発売元の医薬品メーカーのキリアド・サイエンズはボトル包装をやめて、錠剤をプラスチックとアルミで挟むPTP包装に変更する予定だ。

 また、添付文書のない医薬品の取り引きは、医薬品医療機器法違反にあたる可能性があるため、行政処分する方針が打ち出されている。関わった調剤薬局チェーンや卸売業者は、二度とこのようなずさんな問題が起こらないように体制を整えるべきだろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 「子どもがいない」「子どもはいるが、郷里を離れて都市部で暮らしている」などの理由で、年々、墓守をする人がいないお墓が増えている。

 訪れる人が誰もいないお墓は荒れ果て、いずれは無縁墓となる。そうなる前に、魂抜きなど供養をしたうえで先祖の遺骨を墓から取り出し、墓石を解体して更地に戻すのが「墓じまい」だ。

 郷里の墓から取り出した遺骨は、墓参りのしやすい生活圏内の墓地や共同の永代供養墓などに改葬するのが一般的だが、なかには海や山への散骨、墓石を持たない樹木葬などを希望する人もいるという。

 ただし、墓じまいするには、一定の行政手続きが必要だ。「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」では、公衆衛生を守るために遺骨の埋葬に関して定めた項目がある。そのため、墓じまいする際も、これまでの墓の管理者からの「埋蔵証明書」、遺骨を移す新しい霊園などの「受入証明書」を「改葬許可申請書」に添えてこれまで墓のあった市区町村に提出し、改葬の許可を得る必要がある。

 古い墓の管理者が先祖代々の菩提寺などの場合、檀家が減るのを恐れた寺院から高額な離檀料(りだんりょう)を請求されるなどのケースもあるようだ。離檀料は墓じまいする際に、檀家が寺院に支払う謝礼だが相場は決まっていない。なかには数百万円もの離檀料を請求されて、トラブルに発展するケースもあるようだ。

 トラブルを避けるには、いきなり墓じまいを切り出すのではなく、墓守ができない理由などをきちんと説明し、それまでお世話になった感謝の気持を伝えるなど、少しずつ準備を始めるのが得策だ。

 また、墓埋法では、墓地以外の区域での焼骨(遺骨)の埋蔵を禁止しているため、海や山などに勝手に散骨すると罰せられる可能性があるので注意したい。

 少子化や都市部への人口集中が進む今、墓じまいを希望する人は増えそうだ。そうしたニーズを汲み取り、行政手続きの代行、墓石の解体、永代供養墓の紹介、散骨や自然葬の手配など、一連のサービスを提供する業者やNPO法人も出ている。

 これまで、子孫が守り続けるのが当たり前だった先祖の墓への考え方も、人口問題や宗教観の変化などによって大きく変わりつつある。お墓がなくなるのは寂しい一方、墓守のいない荒れ果てた墓が増えるのも問題だ。

 お墓に対する考え方はそれぞれだが、どこかで区切りをつけるのであれば、墓じまいもまた選択肢のひとつであることは間違いない。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子