コトバJapan! 早川幸子 の 記事一覧

早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。


 9月3日、北朝鮮による核実験を受け、広島平和記念資料館(原爆資料館)に設置されている「地球平和監視時計」がリセットされた。

 地球平和監視時計は、原爆による悲劇を知ってもなお、繰り返される核実験の実施を牽制するために、NPO法人「広島からの地球平和監視を考える会」が建立したもので、2001年8月6日から時を刻み始めた。

 設計者は広島市出身の彫刻家・岡本敦夫氏で、時計は高さ3.1m、幅0.8m、奥行き0.4mの御影石で作られている。その細長い形状の最上段には現在の時刻を示す丸い時計があり、その下に2つのデジタル表示板がある。いちばん下にあるのは縦に15個並んだ歯車装置で、このまま核を保有し続ければ人類が破滅への道に突き進むことを暗示的に警告している。

 デジタル表示板の上段は、「広島への原爆投下からの日数」。下段は「最後の核実験からの日数」が表示されており、新たな核実験が行なわれるたびにゼロにリセットされる。

 「最後の核実験からの日数」のデジタル表示は、2016年9月9日の北朝鮮の核実験から359日を刻んでいたが、2017年9月3日に原爆資料館の志賀賢治館長の手でゼロにリセットされた。

 地球平和監視時計がリセットされるのは、2001年に設置されてから24回目(本館リニューアル工事で操作できなかった2回を含む)。世界が、なかなか核廃絶への道に歩みだせない現実を突きつけている。

 北朝鮮に対して、国際社会は再三にわたり、核やミサイル開発の中止を求めている。しかし、金正恩(キム・ジョンウン)体制の維持をかけている北朝鮮は、制止をふりきって今回の核実験も強行した。

 制止のきかない一党独裁体制の北朝鮮が核を保有することは、世界にとって脅威であることは間違いない。国際社会は、今後も北朝鮮の核・ミサイル開発を止めるための努力をしていかなければならない。

 だが、核兵器を保有しているのは北朝鮮だけではない。アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5大国のほか、インド、パキスタンも保有を表明している(イスラエルは正式表明していないが、保有国とみなされている)。

 自らも核を保有しているのに、北朝鮮の核保有を認めないというのは道理が通らない。アメリカの核の傘の下にいる日本も同様だ。北朝鮮の核開発を止めるためには、これらの国々が核を手放すための勇気ある一歩を踏み出すことが必要だ。誰かが、その一歩を踏み出さなければ、核なき世界は永遠にやってこない。

 地球平和監視時計の下層に縦に並んだ歯車は、一番上の歯車の回転数(毎分100回転)が、核を手放せない地球の危機的状況の深刻化によって回転が早まり、固定されている一番下の歯車に達したときに、装置そのものが自壊するという発想で作られている。

 今後も「最後の核実験からの日数」がリセットされ続ければ、地球平和監視時計の歯車が暗示する世界が現実のものにはならないとも限らない。歯車の回転を止めるために、今こそ勇気ある一歩を踏み出したい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 「ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難して下さい。」

 「ミサイル通過。ミサイル通過。先程、この地域の上空をミサイルが通過した模様です。不審な物を発見した場合には、決して近寄らず、直ちに警察や消防などに連絡して下さい。」

 8月29日、午前6時過ぎ。北関東以北の地域で、携帯電話やスマートフォンから突然、警報音が鳴った。警報の正体は、総務省消防庁の「全国瞬時警報システム」で、通称・Jアラートだ。

 ほどなくして、菅義偉(すが・よしひで)官房長官は緊急記者会見を開き、北朝鮮が発射したミサイルが日本の上空を通過して、襟裳岬沖の太平洋上に落下したことを報告。北朝鮮の脅威を強調したが、突然の緊急情報に戸惑いを覚えた人も多いのではないだろうか。

 Jアラートは、2007年に運用が始まった国の情報システムで、対処するのに時間的余裕のない緊急を要する事態が発生した場合に、国が直接、国民(住民)に情報を伝えることを目的としている。

 Jアラートの伝達方法は、市町村の防災無線と携帯端末のエリアメールの2種類。

 現在、すべての地方自治体がJアラートに対応しており、総務省消防庁が情報を送信すると、人工衛星を通じて市町村の防災無線が自動的に起動し、屋外スピーカーから緊急情報が流されるようになっている。

 また、携帯電話会社を通じて、個人の携帯端末にエリアメールや緊急速報メールが流されるようになっている。ただし、格安スマホを利用している場合は緊急情報が届かないこともある。緊急情報を受け取りたい場合は、一部の市町村が実施している登録制メールを利用する方法などがある。

 配信される情報は全部で25項目で、「内閣官房による有事関連情報」と「気象庁による気象関連情報」の2つに大別される。

 有事関連情報は弾道ミサイル情報、航空攻撃情報、ゲリラ・特殊部隊攻撃情報、大規模テロ情報など。気象関連情報は、緊急地震速報、大津波警報、津波警報、噴火警報(居住地域)、気象等の特別警報などだ。

 8月29日に流されたのは前者の有事関連情報で、北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、長野の12道県が対象となった。

 今回のJアラートでは、1つめのミサイル発射の情報が流されたのは午前6時02分。その12分後の6時14分には、ミサイルが通過したことを伝える2つ目の情報が流れている。つまり、北朝鮮からミサイルが発射されれば、10分程度で日本の国土に届くというわけだ。

 1つめのJアラートでは、「頑丈な建物や地下に避難して下さい」と警告したが、ほんの数分の出来事に対処できる人はほとんどいなかったはずだ。

 今回は、幸運にもミサイルは日本の上空を通過したが、もしも日本の国土にミサイルが落ちていたら多くの人の尊い命が奪われていた可能性もある。

 一部には、日本政府は今回のミサイル発射を事前につかんでいたという報道もある。本気で国民の命を守ろうと思っているなら、もっと早い段階での情報提供があってしかるべきだろう。

 国民の命にかかわる緊急情報を伝えるJアラートの存在は重要だが、有効活用するためには、個人が対応しうるような情報でなければ、注意喚起ではなく、たんに国民を不安に陥れるだけの狼少年になりかねない。

 いつ起こるかを人間が予測できない自然災害とは異なり、近隣諸国との衝突は外交努力によって有事への発展を避けられるはずだ。北朝鮮をめぐる状況は、日に日に緊迫感を増している。だが、かの国でも、愛する家族のいる普通の人々が暮らしている。最後まで武力に頼らない対話での解決を求めたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 昨年10月に発売された料理研究家の土井善晴(どい・よしはる)さんの著書、『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社)がベストセラーになっている。

 これまで、家庭料理は、ご飯と漬物を基本に、汁物を一品、煮物や焼き物などの料理を三品作る「一汁三菜」が理想的とされてきた。高度経済成長期、バブル期と、日本が豊かになっていくなかで、食卓はバラエティ豊かな食材を用いて栄養バランスのよいものへと変わっていった。その食事作りを担っていたのが、サラリーマン家庭の専業主婦だろう。

 だが、専業主婦家庭の数は90年代に共働き家庭を下回り、いまや少数派になっている。社会に出て働く女性が増えるなかで、毎日の一汁三菜の食卓を揃えるのは難しくなっている。そうした時代の転換期を見据えて、土井さんが提案したのが「一汁一菜」だ。

 土井さんは、「家庭料理はごちそうでなくていい。ごはんと漬物に加えて、具沢山の味噌汁で十分」と説く。「一汁一菜」の本来の意味は、汁物とおかずが一品ずつの粗末な食事を指したものだが、土井流の「一汁一菜」は汁物を具沢山にしておかず代わりにするというのだから、さらにシンプルだ。

 これまでとらわれてきた家庭料理の固定観念を取り払い、ごちそうでなくても、おいしくなくても、親が作った料理から子どもは愛情を受け取り、情緒を育てるというのが持論だ。これが、仕事や子育てなどで忙しく、毎日の食事作りに苦痛を感じている人の心を開放したようだ。

 もちろん、毎日3回の食事は栄養バランスのとれたものを作れれば、それに越したことはない。だが、男性の家事の参加率の低い日本では、仕事をもっていようがいまいが、家事や育児の負担は女性に多くのしかかっている。

 2年ほど前、内閣官房の公式ツイッターが、【女性応援ブログ】と題して、毎朝、早起きして子どものためにキャラクターをあしらった「キャラ弁」を作る働く女性を紹介したことで、批判が続出したことがあった。

 保育園に子どもを預けていても、熱が出たらすぐに迎えに行かなければならない。近くに子育てをサポートしてくれる親や親戚がいれば話は別だが、みんながみんな、そのように恵まれた環境で子育てしているわけではない。毎日、ギリギリのところで仕事を続けている母親が、キャラ弁を作る母親を称賛する内閣官房のツイッターをプレッシャーに感じたとしても無理はない。

 「女性の活躍」を謳いながらも、一向に女性たちが安心して働ける環境整備が進まないなかで、「毎日のごはん作りを頑張らなくてもいいんだよ」という土井さんの言葉に救われた女性たちも多いのではないだろうか。それだけ、母親たちは追い込まれているのだ。

 「一汁一菜」が受け入れられた背景に、労働環境の不備や女性への家事の負担が重い日本独特の事情があるのかもしれない。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子