長野県生まれ。66歳。ノンフィクション・ライター。『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。石原慎太郎都知事(当時)に請われて副知事に。石原知事の退任に伴い後継指名を受け、2012年12月の都知事選挙に立候補し433万票を獲得して第18代都知事に就任した。

 今春、米『ニューヨーク・タイムズ』紙のインタビューで、2020年の五輪招致国に立候補表明しているイスタンブール(トルコ)を中傷する発言をして物議を醸し、首長失格という厳しい批判を浴びたことは記憶に新しい。

 この人のことは多少知っているつもりだが、とにかく人に好かれない。ノンフィクション・ライター時代、パーティに彼が来ると、誰も寄りつかないから彼の周りに空白地帯ができてしまう。

 猪瀬氏が敬愛していた本田靖春(ほんだ・やすはる)氏に、彼を評したこんな一文がある。

 「猪瀬氏は勉強家だし、仕事熱心だし、世渡りも上手だと思うのだが、なぜか、人に好かれない。それは、単に、威張り過ぎるから、といったような表面的理由だけによるものではなさそうである」

 自己顕示欲と権力欲の塊のような人間だから、同じものを持っている石原氏と気が合ったのかもしれない。都知事就任以降、彼と付き合った女性たちが週刊誌に語っているが、それを読むと、彼の人徳の無さがよくわかる。

 『週刊文春』(6/20号、以下『文春』)では『ストレイ・シープ』で文藝賞を受賞した作家の中平まみ氏が、猪瀬氏と付き合っていた“忌まわしい日々”を語っている。彼女の話の中で聞き捨てならないのは、酒を飲んで車を運転し、事故を起こしたのに、その場を逃げて、知らんふりをしたというくだりである。

 猪瀬氏は中平氏の車を借りて横浜中華街に出かけた。

 「帰り道、猪瀬氏がハンドルを握り高速道路を走っていました。今思えばアルコールを飲み、あたりは暗く、路面は雨で濡れてと悪条件が揃っていた。私は猪瀬氏がスピードを出しすぎていたように感じていました。

 そのとき、車列の前のほうで追突事故が起こり、私たちの前の車が急ブレーキをかけたのです。猪瀬氏は『あー!』と叫び、ハンドルを大きく切った。車は中央分離帯に激突、三百六十度回転した。凄い音と衝撃でした。全身を打ちつけられ、衝撃で『死んだかも』と思ったほどでした。

 私は当然、警察を待つのだと思っていました。ところがです。猪瀬氏は再びアクセルを踏み込んだ。フロントがグシャグシャの車で、ネズミ花火みたいな勢いで車を走らせ始めたのです。

 かなりの距離を走ったと思います。もう大丈夫と思ったのか猪瀬氏は車を路肩に止めハンドルに突っ伏してハァハァと喘いでいる。脂汗がダラダラ流れていた」

 猪瀬都知事は『文春』の取材に対して、彼女との不倫関係は認め、指摘されたことを深く反省すると答えているが、飲酒運転の事故に関しては、飲酒の事実はないと否定し、事故も「軽微な自損事故」だったとしている。

 猪瀬氏は、中平氏と別れて3か月もしないうちに新しい女性にアプローチを始めたが、その女性にもこう言われている。

 「彼は最初から私を女として口説きに来た。二月には彼に誘われて『オフィスイノセ』の契約社員にもなった。毎月四十万円という給料は、今思えばそういうもの(俺の女になれという意味)が含まれていたのかもしれません。でも、男女関係とはちょっと違う。いい思い出なんてありません。猪瀬さんは事務所スタッフや業界人から凄く嫌われていましたし、鳩や猫をパチンコやエアガンで打つような人でしたから」

 「だから猪瀬は嫌われる」。9月に2020年の五輪招致国が決まる。いまのトルコ状勢を見る限り、マドリードに決まると、私は思う。それを機に、責任をとった形で辞任するのがいいと、都民のひとりとしてそう思うのだが。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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