東電は8月21日までに汚染水が地下水を通じて海に漏れ出していたことを発表した。漏れ出した放射性ストロンチウムは最大10兆ベクレル、セシウムは最大20兆ベクレル。

 汚染水を溜めるタンクから漏れ出ているからだが、こういう事態は早くから予測されていたと『サンデー毎日』(9/15号)が報じている。

 「この業者(福島市内のタンク製造業者=筆者注)や専門家の話を総合すると、いまのタンクは安く早く仕上げるために溶接を省いてボルトでつないでいるという。そのボルトが緩んだり、そこに使っているゴムも腐蝕する可能性がある。特に福島の場合、海水の関係で腐蝕は早い」

 タンクの耐用年数は2年。いつ漏れ出してもおかしくはなかった。

 『週刊朝日』(9/6号、以下『朝日』)によれば、福島第一原発幹部が、吉田昌郎元所長(享年58)が生前こう語っていたと話している。

 「吉田氏は病床でも汚染水の問題を気にしていて、『一歩間違えると取り返しのつかない惨事になる』『レベル3や4の事故が再び起きてもおかしくない』と語っていたんです」

 その言葉通り、今回の発表を受けて原子力規制委員会は、国際原子力事象評価尺度(INES)を「レベル3」(重大な異常事象)に引き上げた。

 さらに吉田所長は「一つがダメになると、連鎖的に瓦解する。原発が次々と爆発したように……」と予測している。

 安倍晋三首相はあわてて、遮水壁の建設費用320億円、ALPS(汚染水から放射性物質を取り除く装置)改良に150億円の計470億円を投じると発表したが、効果は期待できないと、京大原子炉実験所の小出裕章助教がこう語っている。

 「原子炉が冷えるまでには、あと何十年もかかる。遮水壁でせき止め続けると、行き場を失った地下水の水位が上昇し、周囲はいずれ汚染水の沼地になってしまう。貯水タンクを置く場所も早晩、足りなくなる。水での冷却を続ける限りトラブルは止まらず、いたちごっこになるでしょう」

 福島沖は黒潮と親潮がぶつかり合う豊かな漁場である。だが、放射能汚染水の流出問題を受けて福島県地域漁業復興協議会は、9月初めに予定していた試験操業開始を見送ることに決めた。漏れ続ける汚染水による「食物連鎖」が心配される。

 『女性セブン』(9/12号、以下『セブン』)は、この問題で琉球大学の矢ヶ崎克馬名誉教授の話を載せている。

 「汚染された魚を食べた魚はより汚染され、食物連鎖を繰り返すたび放射性物質が濃縮される“生体濃縮”が生じます。カツオやマグロなど大きな魚ほど注意が必要です。
 季節ごとに海洋を広く移動する回遊魚は、汚染の影響を受けにくいとされましたが、実際にはカツオやブリからも放射性物質は検出されています」

 ヒラメ、カレイなどの底魚は生態上とくに汚染されやすいという。東京海洋大学神田穣太教授がこう解説している。

 「放射性物質を含む汚泥や海洋生物の死骸は、海に沈んで海底に堆積します。海底をうろつく底魚は餌とともに、そうした堆積物を体内に取り込んでしまうのです。
 海の魚は海水に囲まれていて塩分が豊富なので、体の塩分をどんどん抜こうとします。一方で川の魚は真水に住んでいるので塩が貴重であり、一度取り込んだらなかなか出さない。セシウムも塩の一種なので、川魚はセシウムを体内に蓄えやすい」

 先日、福島の川内村へ行ってきた。村の4割が依然として避難指示区域だが、少しずつ村人が戻ってきている。岩魚を釣れる釣り堀があり、親子連れが釣り上げた岩魚を塩焼きにしてもらって頬張っていた。

 村の近くを流れる川には大量の鮭が上ってくると聞いた。だが、原発事故以来、その鮭を捕る村人はいない。

 ドイツのメルケル首相は汚染水漏れの報を聞いて「(自国の)脱原発の決定は正しかった」と語った。この問題は国際的な関心事である。当事者意識の希薄な東電に原発事故の処理を任せておいては、さらなる大事故へとつながりかねない。福島第一原発事故はまだ収束していないのだという意識を、国民みんなが取り戻すときである。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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