旧熊本藩主細川家18代。76歳。朝日新聞記者を経て参議院議員、熊本県知事、衆議院議員に転じて8党会派の連立内閣をつくり総理に就任。

 1998年に政界を引退し陶芸家として一家を成していたが、猪瀬直樹都知事の辞職に伴う都知事選挙(2月9日投開票)に「脱原発」を掲げて出馬することで、にわかに注目を集めている。

 細川氏を出馬に踏み切らせたのは、昨年から「原発ゼロでも日本は経済発展できる」と主張し始め、安倍晋三総理との対決色を強めている、やはり元総理の小泉純一郎氏である。

 これで都知事選は実質的に、自民・公明が推す舛添要一元厚労相と細川氏の一騎打ちになる。

 いち早く細川氏出馬を報じた『週刊ポスト』(以下『ポスト』)は1/24号で「細川・小泉連合なら圧勝する」と書いている。その中で自民党都連幹部がこう発言している。

 「かつて小泉さんが自民党総裁選で田中真紀子の応援を得て旋風を起こしたような状況が再現されかねない。“風”が吹けば、猪瀬前都知事をはるかに凌ぐ500万、いや600万票を獲得するかもしれない」

 自民党さえ「細川圧勝」と見ているわけだが、『ポスト』によれば、細川都知事が誕生すると安倍政権には大きなダメージになるという。

 まず、東京都は東京電力の大株主であり、都知事は同社の経営に大きな発言力を持つ。安倍政権は東電柏崎刈羽原発の再稼働を推進しているが、「原発ゼロ」を政策の柱にする細川都知事が誕生すれば、小泉氏とともに真っ先に再稼働反対を突きつけて安倍政権と全面対決になるはずだ。

 それだけではない。東京五輪の利権の構図も根底から覆るという。安倍政権が五輪に合わせて解禁しようとしている「お台場カジノ構想」についても「東京にカジノはいらない」と拒否する可能性があると、細川氏を古くから知る大臣経験者が語っている。

 早くも細川都知事歓迎ムードが漂っているようだが、私はやや懐疑的である。たしかに福島第一原発事故があって以降の国政選挙で、最大の争点になるはずだった「脱原発か否か」がほとんど問われず、再稼働推進派の安倍政権を誕生させてしまったことは、私を含めた脱原発派日本人にとって痛恨の極みである。

 たとえ首長選挙であっても「原発NOかYESか」が初めて争点になるのは歓迎すべきことである。安倍総理たちの「都知事選の争点は他にもある」という批判などに聞く耳は持たなくていい。

 だが、原発ゼロを強く言っているのは小泉氏であり、細川氏はそれにのせられ同調しているだけではないのか。細川氏の欠点は“お殿様”であるためか、自分の信念を貫こうとする強い意志が感じられず、強い人に操られやすいところである。

 総理在任時代、深夜に突然「国民福祉税構想」を発表したことがある。これは彼の裏にいた“豪腕”小沢一郎氏にそそのかされたのだが、与党内からも反対の声が沸き上がると翌日、あっさり白紙撤回してしまったのだ。

 佐川急便からの1億円借り入れ問題にも十分な説明責任を果たさず、嫌気がさしたのか予算審議に入る直前に突然辞任してしまったのである。総理在任期間はわずか9か月だった。

 前回は小沢、今回は小泉という強い人に担がれ「政治改革」「原発ゼロ」と言っているのは、彼らの口移しではなく本心からであろうか。出馬表明のとき、声高に持論を述べる小泉氏に比べて細川氏の影の薄かったことが気がかりである。

 高齢のうえ、熊本県知事を経験しているとはいっても、様々な問題を抱える大都市東京を治める行政手腕には不安もある。

 だが、それらを考慮しても、日本で初の脱原発を争点にした「国民投票」が行なわれる意義が損なわれることはない。原発ゼロにすれば日本経済が失速するなどという批判は戯言である。なぜなら現在、日本にある原発で稼働しているのはゼロなのだから。福島を忘れてしまったかのような風潮に歯止めをかけるためにも、この選挙結果は大きな意味を持つと思う。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 今週も大沢樹生と元妻・喜多嶋舞との子どもを巡るDNA鑑定騒動が、ワイドショーも参入して話題沸騰である。
 『週刊女性』が大沢側に立ち、『女性自身』が喜多嶋側に立って仁義なき「代理戦争」を繰り広げている。「大沢樹生 喜多嶋父娘に求める『ごめんなさい』の言葉」と『週刊女性』がスクープ第2弾をやれば、『女性自身』はこう呼応している。

第1位 「喜多嶋舞『息子は会見を見て号泣…もうこれ以上彼の心を傷つけないで!』」(『女性自身』1/28号)
 ここで喜多嶋は「断言します。Aの父親は大沢さんです。ですから、大沢さんが言っているようなことはありえない」と断言している。

第2位 「大沢樹生VS.喜多嶋舞“毒親対決”悪いのはどっちだ?」(『週刊文春』1/16号)
 『文春』も参入し、渦中の息子にこう言わせている。
 「二人とも好きにすればって感じです。僕からすればくだらないことです。なんでこんなことで大騒ぎするのか。僕の実の父親だって言われる人の名前も出ているみたいだけど、馬鹿馬鹿しいよ。奥田さんだって急にそんなこと言われてもね…… 。
 僕は今でもパパの子だと信じています。顔つきとか仕草とか似てるんですよ」

 『現代』はやりようがないと考えたのか、ちょっとひねった企画で勝負。
第3位 「『親子のDNA鑑定』『高齢出産』『体外受精』科学の進歩が、新しい苦悩を生む」(『週刊現代』1/25・2/1号)
 ここで、大沢の子どもが「99.9%大沢は僕のお父さん」と言っていることが重要で、それが根源的な親子の形なのに、DNAの技術がそれを侵し始めていると問題提起している。

 親子とは何か? 難しい問題だね。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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