暁(あかつき)とは夜を三つに分け、最後の三番目を表すことばで、暁天は「夜明けの空」という意味である。季節はこれから小暑(しょうしょ)、大暑(たいしょ)へと続いていく。そのような夏真っ盛りの早朝に、静かで清涼な寺院に集い、座禅を組んで精神を集中し、法話に耳を傾けるのが暁天講座である。

 通常、僧侶が朝のお勤めを終える午前6時ごろから始まり、1時間ほど行なわれる。7月から8月にかけての数日間、京都や奈良をはじめ、全国各地の寺院で開かれている夏恒例の講座である。予約不要で開いている寺院が多く、著名な識者を招き、広い本堂や講堂で開かれる場合もある。ところによって講座を終えた後、粥座(しゅくざ;粥、沢庵、梅干しの朝食)や朝粥(あさがゆ)の接待が受けられ、心身ともに清らかに養生のできる行事といえようか。

 お釈迦様が明け方に悟りを開かれたことに由来し、夏の寺院では暁天座禅という早朝の座禅会も開かれる。インドの僧侶は雨季(7~9月)に座禅修学を行なう習慣があり、これが日本に伝わると、3か月もの長期を一か所に籠もる夏安居(げあんご)や夏籠(げごもり)という修行になったそうである。滋賀県長浜市の真宗大谷派大通寺では、7月2日から10日の間、夏安居に由来する「夏中(げちゅう)」という法要が毎年営まれる。ここで暁天講座は夏中の行事の一つとして信徒や参拝者に定着している。大通寺の門前町ではこの期間を「夏中さん」と愛着を込めて呼び、賑々しい露店が並ぶ琵琶湖の夏の風物詩になっている。


浄土宗の総本山である、百万遍知恩寺の暁天講座。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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