11月26日は、「いい風呂の日」。

 もともとは、1126(イイフロ)の語呂合わせから、日本浴用剤工業会が、入浴剤の効用と普及拡大をアピールする目的でつくった記念日だ。しかし、近年では銭湯や温泉などの入浴施設が、この日に合わせてイベントを開催するなど、日本の風呂文化全体を象徴するような日になっている。

 日本における風呂の起源は、奈良時代に遡る。当時、日本にもたらされた仏教では、沐浴(もくよく)によって体の汚れを洗うことが功徳になると言われていたため、寺院では庶民に風呂を施す「施浴(せよく)」が行なわれるようになったのだ。この施浴によって、風呂に入る楽しみが人々に根付くようになる。また、日本は四季がはっきりしており、夏が高温多湿で汗をかきやすい一方、冬は乾燥して気温も下がる。この風土が、夏は体の汚れを落とし、冬は体を温めるために、一年を通じて風呂に入る習慣をもたらしたとされている。

 その日本の風呂文化を支えてきたのが公衆浴場だ。江戸時代から「銭湯」として親しまれ、庶民の保健衛生を担ってきた。第二次世界大戦によって銭湯の数は激減したが、高度経済成長期に再び急増。1960年代の最盛期には全国に約2万3000軒が営業を行なっていた。しかし、一般家庭に内風呂が普及するにつれて、銭湯は減少の一途をたどり、2013年度には4542軒となっている。

 その一方で増えてきたのが、レジャー施設を兼ね備えたヘルスセンターや健康ランド、日帰り温泉施設などで、こちらは2013年度でも全国で2万2000軒以上が営業している。

 こうした動向から、日本人の風呂好きは相変わらずだが、入浴施設に求めるものが日常の保健衛生から、遊びやレジャーに変容しているのが見て取れる。

 銭湯組合でも利用者離れに歯止めをかけようと、さまざまなイベントを行なっている。たとえば、東京新宿区の銭湯では、区内の銭湯27軒を回ってスタンプを集めると、オリジナルグッズがもらえるなどのスタンプラリーを12月31日まで開催している。また、東京や神奈川などの銭湯では、ランナーたちに拠点として開放するなど、新しい利用方法も提供されるようになっている。

 それでも、銭湯は後継者不足や燃料費の高騰などによって、1軒、また1軒と店を閉じている。日本の風呂文化の礎だった銭湯が消えていくのは寂しいものであるし、自宅に風呂のない人の衛生環境を守るという面でも心配だ。

 自宅のお風呂もいいけれど、銭湯にしかない楽しみもある。夏の暑い日の風呂上がりに飲むコーヒー牛乳の美味しさ、寒い冬の日に銭湯の熱い湯に身を沈める心地よさ。とくに、大きな湯船に浸かって、大量のマイナスイオンを浴びれば、リラックス効果も高い。

 今日は「いい風呂の日」。家族揃って、近所の銭湯に行ってみてはいかがだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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